第2話 家族っていいよね…

 あれから3ヶ月が経ち、今日はいよいよ俺の降霊術の日だ。


 え、俺の名前?


 ああ、まだ言ってなかったっけ?

 俺はヒロミ、親しい者はヒロと呼んでいる。

 このファルディアシル領の奥の森に近い街と少し離れた所に住んで居る大工の息子だ。


 親父は一応大工の棟梁をしており家は改築、増築で魔改造された要塞になってる。

 気がついたら知らない部屋や仕掛けが増えてて本人ですらしばらく迷った事があるほどだ。

 街から離れた辺鄙な所にあり土地は広く材料のある森も近いのでやりたい放題だな。


 下手な貴族の家よりも広い。

 家族は母と姉が二人いる。

 この人達についてはまあ… そのうち説明しよう…


「ヒロ、明日だろう?楽しみだな!」


 どこかの王族かと思うようなばかでかいテーブルに家族全員集合で朝食中の親父。


「ものすごく気が重いよ… どうせしょぼいやつに決まってるし」


 朝食の川魚香草焼きをツンツンしながら答えてみる。


「まあ、大人の通過儀礼見たいなもんだ。記念だよ記念!」


 それにしては過剰な期待をされてる気がする。


「それに今回の降霊術士は若い娘らしいぞ」


 ほほう、成人儀式に来る降霊術士なんてむっすりしたジジババかと思ってたけど。


「へーそうなんだ」


 降霊術は密室で行われる。どうせなら若い可愛い子の方がいいに決まってる。


「やる気になったか?」


 川魚をフォークとナイフで器用に骨と身を分けながらニヤニヤする親父。


 親父は大工の棟梁だが外観的には全くそうは見えない細身で整った顔、身だしなみはいつもスーツでIT企業の社長のような雰囲気を出すイケオジだ。


 ん?IT企業ってなんだ?…


「あんた女に縁がないからね〜」


 次女のサカエがホットケーキを目にも止まらぬ速さで切り裂きハートの形を作って見せる。

 相変わらずすごい手捌きだな… ってハート作るなよ!そしてなんでこいつだけホットケーキなんだよ!⁈


「良い出会いがあるといいわね」


 そう言う長女のアオイは川魚の皮を箸でスパっと剥ぎ取りその皮で薔薇の花を作って俺の皿の上まで飛ばして来た。


 あんたら何者だよ⁈


 姉二人は二人ともこの家の家業の手伝いをしている。主に経理、事務関係だが現場に出る時もある。

 一度二人が現場で仕切ってるところを見た事があるが恐ろしかった…

 うん、それについてここで語るのはよしとこう。朝食が食べれなくなる…


 もちろん二人はすでに降霊術をしており能力を貰っている。が常軌を逸する力は貰った能力ではなく天然らしい。


 俺だけ普通!  と思う。


「ヒロさんはきっとすっごい能力を貰って世界を救うのよ〜♡」


 鍋手袋、エプロン、和服姿の母がスープの鍋を持って音も無くやって来てテーブルに鍋を置く。

ロングでクルクルを垂らした綺麗な黒髪で顔立ちは幼く、とても母とは思えない見た目の天然ドジっ子(風)の母だ。


 しかし、貴族のようなクルクルロールロングヘアーで和服ってどうなのよ?しかも黒髪だから余計に目立つし。和服の裾も膝よりも短くまだ若い子には負けないわよ! を醸し出している。


 母も姉達同様に事務や現場に出ている。

実は母が一番すごいんだが…


「お母さん、妙な期待はやめて…」


 世界を救うってこの家族にして劣等感ありありの俺がそんな事はできるはずもなく田舎で可愛い嫁を貰って細々と暮らすのが理想だ。


 可愛い嫁は絶対だね!


 その後も散々揶揄われながら家族の団欒?をしながらの朝食になった。

 思えば色々大変な家族ではあるがこれはこれで幸せだったんじゃないかな、と思う。


 さて、いよいよ降霊術してくるか!


「それじゃ準備していこうか、ヒロ」


 親父もこの日を待ってたみたいだな。

 姉貴達は… ちょっと、化粧濃くないか⁈


「ヒロ、あんたもこんな素敵な姉が居たらなかなか彼女出来なくて残念ね!」


 はい、そういうのは自分で言うもんじゃないからね! と心の声で返す。


「いいから行こう!」


 これ以上のんびりしてたら何言われるかわからないので家族を馬車に詰め込んでいった。


 !! お母様! その格好で行くのでございますか⁈


 母は上から下まで真っ黒!髪には真っ赤な薔薇をあしらったかんざしを刺してる…


「おっお母さん、その格好は?」


「ほら〜 私って目立つじゃない? だから闇に紛れて目立たないようにね!」


 すっごいフンス!フンス!して鼻息が荒い。


 母よ、今はまだ朝食食ったばっかでお日様ギラギラなんですが〜 もういいや、言っても聞かないし…はよ行って終わらせよう。


「行ってらっしゃいませ!」


 筋骨むっきむっきの大男がちゅるちゅるんな頭に朝の差し込む太陽の光を反射させながら見送ってくれてる。

 こいつは従業員のトップで 頭 と呼ばれる、家族以外では一番偉い職人だ。こいつも職人なのにいつもスーツを着てる。

 その格好で服を汚さず乱さず現場で仕事してるんだからすごいんだけどさ。

 もうこの家、濃い人しか居ないな…

ゆっくり動き出す馬車の中でため息をついた。


 前を見ると馬ではない何かが涼しげに馬車を引いていた。

 見慣れたスーツ姿の男が馬車を引いてる!

親父かよ!! よく引けるなこんな重い馬車、速度も以上に速い。


「なんで父さんが馬車引いてるの⁉︎」


 無心に馬車を引くお父様に聞いてみた。


「遅れそうだったからな!俺が引いた方が速い!」


 そんな細い身体でどこから力が出るんだか…

 うん、見ない事にしよう!


 行く前から波乱万丈な俺を乗せて飛ぶように目的地へ急ぐ一行だった。


 うん、嫌な予感しかしない…

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