笑って降霊術! ~ 降霊術に笑顔は必要ですか⁈ ~【連節-太陽節】

りるはひら

第1話 幼馴染

「なあ、異世界転生ってあると思うか?」


「そんなのあったら転生してみたいね」


 暇そうに本のページをめくりながら答えたこの男は俺の幼馴染のアレックだ。


「いや、行くんじゃなくてこっちの世界の転生して来た人っているのかな?」


「うーん、いるんじゃないかな」


 アレックはこっちも見ずにさらっと答える。


 ほう、いるのか・・・ って


「いるのか!?」


「賢者とか、剣聖とかいるだろ?」


 相変わらず本を見たまま答えるアレック


「居るな、賢者ノスティ・ノヴァとか剣聖ミオス・ナディシアとか、すごい人達」


 そう、この世界は超人的な能力を持つ人がいるのだ。


「そんな人はどうやって力を手に入れたと思う?」


 アレックは読んでいた本をパタンと閉じこっちに乗り出して来た。


「そりゃ、才能が有って物凄い修行とかしてだろ?」


「降霊術だよ!」


 こいつ何も分かってないな、という顔をしてアレックは答える。


「は?! あの降霊術?」


「そうさ!」


 腹パンしてやりたいようなドヤ顔のアレック


「いや、降霊術だろ?あのしょぼい能力しか貰えない儀式?」


 この世界では亡くなった人の魂を呼び寄せそれに祈る事でその魂が持っている能力を授かるという儀式がある。

 過去の人の能力、思いを次代に受け継がせたいという先人達が編み出した秘術だそうだ。

 しかしこの降霊術、大した能力は貰えない。

 うちの親父なんてコップに溢れずに並々と液体を注げる能力だった…

 親父は、まあ… 酒が人より多く飲めるってんで喜んでたが。

 お袋は煮込んでる物が溢れる瞬間を予知できるらしい。

 見てれば誰でも予想できるだろ!と突っ込みたかったがご先祖様から貰ったありがたい能力という事で喉元で止めといたが。

 しかも能力は血縁関係が重要らしく関係ない霊からは貰えないのが一般的だ。

 つまりすごい能力の家計ならそれなりにすごい能力を貰えるがそうでない極一般の家庭に生まれた俺は大した能力は貰えないだろう。

 降霊術を受ける事ができるのは15歳で成人してからだ。俺も今年15歳になり降霊術をもうすぐ受ける。


「賢者や剣聖はそんなにすごい家計なんだ?」


 降霊術でそれだけすごい能力を貰えるという事はご先祖さまがすごかったという事になる。


「ところがそうじゃないんだな〜」


 益々ドヤ顔になるアレック。

 なんでお前が偉そうなんだよ!


「賢者の家計は代々釣り人だったらしい。なんでも1日1匹は必ず釣れる能力だったとか」


「普通というかショボイな!?」


「だろ?」


「ところがある有名な降霊術士に降霊術をしてもらう機会がありその時に貰った能力が賢者の能力だったらしい。」


 しょぼい家計でも力のある降霊術士が降霊するとご先祖さまの力以上の能力が貰える時があるらしいが…


「釣り人が賢者の能力ってあり得るのか?その降霊術士とんでもないな。」


「有名とは言っても今までそんな事はなかったらしい。たまたまみたいな?」


 手ブラブラさせて続けるアレック。


「なんでも降りてきた霊は異世界の霊だったとかで異世界でも世界的に知られる魔法研究家だそうだ。

 その知識を授かり、それを元に努力した結果賢者と呼ばれるようになったとさ」


 どんな事でも努力は必要か… 釣りの人偉いな。


「じゃあ剣聖も同じなのか?」


 いつの間にかどっかから持ってきて果物を食べてるアレック。

 おい、それは俺のおやつでは…


「ん?ああ、剣聖も同じ感じらしい。元は木こりの息子だってさ」


 木こりか… なんとなく関連性が… 無いな!


「それで異世界転生はどうなったんだよ?」


「それな、降霊術だけでそんな能力が得られるのはおかしいらしくて関係する誰かが異世界転生者だったのではないか?と言われててな」


 まじか… 異世界転生来たー!


「そうだったんじゃないか?だからな。関係者に聞いても違うと言うばかりだったらしいし。」


 俺の顔を見てアレックが釘を刺すように言った。

 でもその可能性は居るかもしれないって事か・・・


「よくそんな情報知ってるな?」


「そりゃー辺境伯の息子だからな!」


すっごい偉そうなアレック


「息子ったって、8男だろ!」


 このアレックは俺の幼馴染ではあるがこのファルディアシル領の領主である、メフェラル・ファルディアシルの息子なのだ。


 しかも男8人、女4人の12人でその8男というもはや家督には全く関係ない道楽セレブ!


「8男でも色々とあるんだよ、兄貴ら面倒な事は全部こっちに回してくるからな。」


「この前も近隣貴族の降霊術に立ち会わされてその時の降霊術士から聞いたんだよ。」


 道楽者でも領主の息子となるとそれなりに大変らしい。


「アレックもそろそろ降霊術受けるんだろ?」


「うーん」


 気の乗らない感じのアレック


「やるのはいいけど気が重いな、家柄に相応しい能力を得るまで何度でもやらされるんだよ。」


 降霊術なんて庶民なら一生に一回しかできないくらい金が掛かるのにさすが領主家計だな。


「アレックのところの能力ってなんなの?」


「それが俺も知らん!」


 益々変な顔をするアレック


「貰えばわかる!と言って教えてくれないんだよな」


「一緒に住んでればそんなのわかるんじゃないのか?」


「親父とか数え切れないほどの能力持ってるからな、どれがどれやら?」


 ため息混じりで首を振りながらゴソゴソ帰る準備をしている


「帰るのか?」


「ああ、用事があったの思い出した。」


「ましな能力だといいな!」


「全くだ、お前もな!」


 実に切実な顔でこっちを見てからアレックはそそくさと帰って行った。

 さて、俺の降霊術は3ヶ月後か…。

 外は枯れた葉が枝からヒラヒラと舞っていた。

 そして今まで聞いた事無い鳥の叫び声のような鳴き声が響いていた。


 ガァーーーーー!ガァーーーーー!


 いやな予感しかしない・・・

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