第34.5話 『また逢う日まで』

 風がうるさい。

 なんだか太陽がいつもより眩しい。


「……またひとり」


 初めての弟子たち。

 彼らが見えなくなるまで見送って、東に歩き始めたばかり。

 なのに、もう寂しさを感じるなんて。


「……楽しかった、な」


 物心ついてからずっと、先代の剣聖だった母親と修業をして生きてきた。

 剣に生きて、剣しか知らない人生。

 自分の境遇が人と違うことも、鍛え方が人を選ぶことも分かっている。だからこそ、あの二人が最後までついてきてくれたことが嬉しかった。魔物の弟子ができるなんて経験も、今すぐ誰かに自慢したいくらい。


『世界は広くてすごい。剣聖の名を背負って生きてたら、嫌でも痛感するさ。その目で見ておいで。美味しいものもきれいなものも、いい人も悪い人もいる。でも、世界は面白いんだ。それにね……真武六修人以外にも強い奴はいる。弟子でもとってみたら、分かるんじゃないかね?』


 自分に敗れ、引退した母の言葉。

 本当にその通りだった。

 まだ、あのときの手の痺れを感じる。ケインに秘剣を防がれたときの、あの衝撃的な感触を。


「……お母さん以外で、初めてだった……ケイン……本当にすごい子」


 なんだろう、胸がどきどきする。

 あの子の顔を思い出すと、無性に会いたくなる。


「我慢……今は新しい剣聖を広めるのが、先……」


 母を超え、真武六修人以外は相手にならないと思っていた。

 そんな考えを覆してくれた少年、私の愛弟子。長年謎だった初代の謎も、彼が解いてくれた。


「初代剣聖、佐々木小次郎……無敵の剣士がなんで剣を極め続けたのか……やっと分かった」


 ケインから聞いた異世界の一騎打ち。

 転生して無敗だった初代は、前世の敗北を忘れなかった。だから自身の名前を、代々伝える戒めとした。


 驕らず、剣の道を進め。

 止まらず、己を高め続けよ。

 この名に恥じぬ剣を磨け。

 この名を恥とせぬ生き方を貫け。

 二天を破り一を超えろ。


 背中の名前と共に伝わる言葉が、妙にしっくりきた。


 このままじゃいられない、あの子たちに負けたくない。

 剣聖になるのが当たり前だった私にとって、初めて湧いた想いだ。


「私ももっと……強くなる」


 振り返った草原に、もう人影はない。

 でも、必ずまたどこかで会える。

 自信をもって、断言できる。


 だって、世界は広くてすごいから。


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