「あなた」と私
天城春香
「あなた」
いやぁ、夢オチにしようってつもりなんざ毛頭ございませんよ。ただ、ここで言っている「あなた」ってやつが、どうやら私のことらしいんですよ。
訳が分からない? そうかも知れませんね、いわゆる「体が入れ替わった」とかそういった簡単なお話じゃあありませんものね。「あなた」が綺麗サッパリ消失して、私だけに「あなた」が見えている。
しかもあなたは幽霊になったわけでも透明になったわけでもない。ただ、今朝からずうっと私だけが「あなた」を認識して、周囲の人間はそうじゃないように動いているようなんですよ。顔貌も変わっちゃあいない、私は私のままだ、性別だって入れ替わっちゃあいない。朝のトイレの際にはお見苦しいものをお見せしてしまったようで、そこは謝ります。でも生理現象なもんで。「あなた」が私を認識し続けていく限り、ここはどうしたって堪えていただかなければならないところですね。
私、ですか? 「あなた」が見ているままのモンですよ。あ、私の記憶はないんですね。私には「あなた」の記憶があるってえのに、不躾な神様も居たものですね。
だけど「あなた」は昨晩仰っておられたじゃないですか。「人間が怖い、来世は猫にでも生まれ変わりたい」って。半分、いや4分の1はかなったようなものじゃあないですk……あ、ご不満ですか。大いにご不満ですか。そんなにきゃんきゃんと野良犬のように捲し立てなくとも、そうなんじゃないかなあ、って気はしているんですよ。
こう見えても私はまだ若いんだ、これからゆっくりと2人して考えて参りましょうや。私だって今の環境が最上のものだなんて考えちゃあいない。
年齢、ですか? そうですね、ちょっと「あなた」たちには一目で分かっていただけていないようだ。拙猫、生後6ヶ月。この家に引き取られて10と4日の世の中新参者でござい、人生経験豊富な「あなた」が居なければ、私も上手に生きていけなさそうだ。お互い不本意なこの環境、残りの10年と少しの命の中でもがけるだけ藻掻いて参りましょうや。
「ヒカリ、ご飯よ」
「にゃー」
「あなた」と私 天城春香 @harukaamagi
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