第4話 いい体
学生時代、当然学校も行きますが、海にも行きますが、バイトもしますね。
飲食店はやったことがないのです。
夜間の徹夜の物流センターでの荷物の仕分けを2度やりましたが、たったの2度で懲りました。辛すぎて、これは大変ですね。
このバイトに誘ってくれたのは沢木だったな…。
こうゆうことはやはり沢木だ。
スキーのビンディングのメーカーにも行き、修理をしていました。
これは安良岡先輩の同期の桜井さんの紹介でしたね。
冬ですね。これが終わると春になります。
「がんばったから、ヨット部にセイル寄付してやるよ」
と言っていただき、請求書を持っていき経費で落としてもらいました。
お歳暮とお中元の時期に、これも上野の倉庫に行ってピッキングや梱包をしていました。
こちらは西野先輩とS先輩のご紹介だったですね。ヨット部で請け負って毎日交代で数人行ってました。
一番長く、そして今でもお付き合いのあるのが、渋谷のマリンショップのバイトでした。
渋谷でマリンショップ…?
はい、ありました。スペイン坂のところです。
少し行くとハンズです。
小さいお店で、これは一学年上の根岸先輩のご紹介でした。
移転して原宿になり、今はもうないですが、その時の店長さんとはまだお付き合いしております。女性のやり手の店長さんでした。
奥さんと付き合い始めたときに、ヨット部の仲間だと絶対にいい助言は頂けないので、店長によく相談し、デート用の私の服も選んでもらいました。
マリンショップといえども、数坪しかないので、ロープや金具類はおいていません。
ただ渋谷ですので、おしゃれなTシャツ、カンタベリーの衣類、ヨット用の防水の上着やズボン、グローブ、ドライスーツ、ライフジャケット、SASバッグ、ヘリーハンセンのウィンブレやこれもシャツ、トレーナー、などなどでしたね。
あと、ワッツのバッグもありました。
Watts のバッグの生地はヨットのセイル生地なのです。
持っていると、きっとあの人はヨット関係かヨットを知っているひとだな、と思われるバッグです。
SASバッグとか蛍光のヘリハンのウィンブレとかご存知の方は確実に僕と同世代ですね。
「いらっしゃいませ」
なんてやっていたのです、昔。
今は薬局の店頭でもしています。
思えば薬局で二度目なのですね、こういったお仕事は。
ヨットをやっているので、やりやすかったです、マリンショップ。
専門的なことも応えられるし、こちらも社員販売で買えるので助かっていました。
まだチーマーとかが渋谷にいた時期でしたが、一度たりともからまれたときはなく、僕の中では渋谷はバイトするところでした。
真っ黒に日に焼けた、当時は筋肉質だった兄ちゃんに絡んでも仕方なかったでしょうからね。
チーマーにはからまれなかったのですが…。
合宿の帰り、海へ行く前、そんな時にバイトに入りますと、当然着替えとかもろもろの大きい荷物を持っています。
薄汚れたバッグに真っ黒な兄ちゃんがとてもきれいとは思えない服装で渋谷のセンター街を歩いています。
声をかけられます。
実際に本当にこんな声のかけられかたをするのです。
へぇ~、本当なんだ…と思いましたね。
「君! いい体しているね!」
僕と同じく日に焼けた顔だが、かっぷくのいい男性が声をかけてきました。
夏なのに、ダブルのジャケットを着ています。
体の厚みは僕の2倍くらいある感じで、笑顔で話しかけられました。
「は…?」
「いい体しているじゃないか!」
「はぁ…」
自分で言うのもなんですが、いい体していました。
ちゃんとヨットやっていましたから。腕から肩にかけてはいい筋肉がついてました。腹筋も割れてました。
「どうかな、自衛隊に興味はないかな!」
ここでやっと理解しました。
「あぁ…」
うわさには聞いていたけれど。
「そう、自衛隊、どうかな!」
「いや、あの、まだ学生なんです」
その男性、ちょっと驚いた様子。
「学生か…、残念だな!」
「はい、すいません…」
ご期待にそえず、すいません。
こんな声もかけられました。
今度はちょっと怖いです。
地味な服ですが、少し一般の人と違う感じですね。
「にいちゃん、いい仕事あるよ…」
痩せた不健康そうなおじさんです。
「はぁ…?」
「いい金になるよ…」
「はぁ…」
うかない僕の返事に相手も気づいたようでした。
誘われたお仕事は山奥の現場とかなのかな。
「なんだ、学生か…」
ご期待にそえず、すいません。
本当はどこに連れていかれたのでしょうか…。
今思えば、でかい荷物を抱えた家出してきた青年に見えたのでしょうね。いい体していたので、重労働にも自衛隊にも耐えられると勘違いされていたのでしょう。
いずれも30年前のお話です。
勧誘も、そして私の体も
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