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「あっぶねーなあ、もう少しで死ぬところだったわ」

 半透明の防壁を消し、ヴァイスはノワールの方へと歩いていく。数発命中したためか、その身体からは若干ではあるが出血していた。

 ノワールは地を蹴り、空へと飛び上がる。それを見たヴァイスもノワールに続き飛び上がると、ノワールの方にエネルギー弾を撃ち込んだ。

 撃ち込まれたエネルギー弾をノワールは迎撃する。一つ相殺そうさいするごとに、大きな音が空気を震わせた。

「お前、なかなか狙いが正確じゃないか。まあ、そうでもなきゃ面白くねえや」

「そっちこそ、ああいう技を使って大丈夫かよ。バリアってのはずいぶんエネルギー使うらしいけど」

 ノワールは気づいていた。ヴァイスの飛ぶ速度が、少し落ちていることに。

「まあ、なんて言うんだ。普通の攻撃しかしていない俺と、大技をバンバン使っているお前のエネルギー消費量のどっちが大きいかなんて、中学生でもわかるだろ」

 ノワールはさらにヴァイスを煽った。

 彼は少し前に殴った時のあの激昂から、ヴァイスの怒りやすい性格を理解していた。このまま煽り続ければ、相手はエネルギーを全て消費して倒れるかもしれない。そう考えて、ヴァイスに対する煽りを行なっていた。


 ただ、ヴァイスはそれに簡単に乗ってしまうほど馬鹿ではない。

「まあ、そうだな。だから、お前の煽りに乗らないように気をつけて力を使っているんだ」

 ヴァイスはノワールのいるところまで来て、彼の胸を殴る。ノワールは策が破られたと感じつつ、物怖ものおじせずヴァイスに殴り返した。

 ノワールは浮上を止め、重力に身を任せながら自由落下する。地上に着陸すると、追いかけてきたヴァイスに遠距離から攻撃を浴びせた。

 ヴァイスはそれにも関わらず、下の方へと突っ込んでくる。そのまま下がり続け、攻撃を続けるノワールに対し斜め上から思い切り蹴りを入れた。

「うわあああああああっ!」

 ノワールはあっという間に二百メートルほど吹き飛ばされる。途中に障害物がなかったので、彼の身体は草土の上に激突した。

 龍人の力による耐性がありながら直径四メートルほどのクレーターを作ったほどの衝撃。それでも、ノワールは立ち上がった。

 ノワールの落下地点に向け、遠くから狙いを定めるヴァイス。

「もっぺん地獄見せてやるよ、

 エネルギー弾の光が、遠くに見える。

 ノワールはそれに対抗するために、再び浮上して急速に距離を詰めた。

「こっちだよ、ヴァイス。ずいぶんとマヌケたことしてるみたいだが、頭の方は大丈夫かい?」


 瞬間、ヴァイスの頭に対しノワールの右手による一撃が加わる。

 ヴァイスの頭に衝撃が走るが、手に出されたエネルギー弾は撃たれない。右腕の向く方向が変わり、その弾は至近距離でノワールに撃ち込まれた。

 レーザーのようになった弾は、シャワーを浴びせるような形で攻撃をする。光が消えると、そこにいたノワールの服がじわっと紅く染まってきていた。

「そろそろ、お前も終わりだな。コピーだっつーからどんな泥仕合になるかと思いきや、思ったより早く終わっちまった」

 力の出ないノワールに対し、ヴァイスはその胸ぐらを掴む。

「抵抗、しねーのかよ。したところでなんだって話だが、こうも抵抗されないと味気なさすら感じちまうじゃねーか……」

 ヴァイスはつい数秒前に傷ついた身体に、容赦なく拳を振るう。

「しかし、弱い者いじめってのは案外楽しいもんじゃねえか。何気なにげに人生初だから、そう言うことしでかすやつの気持ちってのも今初めて分かったぜ」

 顔、胸、腹。何度も攻撃を受け、何度かに一度血を吐くノワール。身動きすら出来ないように見えたが、そんな彼にももちろん策があった。

 ノワールへの攻撃に夢中なヴァイスのすねに、全力の蹴りを食らわせたのだ。

「ってえええええええ!」

「足元がお留守だな、ヴァイス。ずいぶん俺をボコボコにしてくれたが、そんなに弱い者いじめが好きなんだったらそっちも経験してみたらどうだ?」

 脛に手を当てるヴァイスの腹を、ほぼ無傷の足で思い切り蹴飛ばした。

「長いこと歩いてきたから、腕力は弱くても脚力は強いんだ。どっちが勝つかなんてわからないが、少なくとも俺はまだ戦えるぞ」

 口から血を垂らしながら、ノワールは言った。

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