3

 二人はT字路(直進か右に曲がるか)を右に曲がり、しばらく歩く。

 集落まで続く道にある森は月明かりをさえぎり、道を闇に閉ざす。もちろんそのまま歩くわけにはいかないので、男がスマートフォンのライトで道を照らしていた。

「おいお前。名前、なんて言うんだ?」

 ノワールが男の方を向き、名前を名乗らせる。

「そうだなあ……。本当は別に本名があるんだが、お前にはヴァイスって名乗っておこう。ヴァイスってのはあれだ、ドイツ語で白っていう意味らしい。知り合いのから聞いた」

 ノワールはヴァイスの話を聞き、考える。彼には医者の知り合いが居るらしいが、その医者というのは何をやっている医者なのだろうか、と。

 その医者によって、自分はつくられたのではないか。だが、ただ造っただけでは本来ヴァイスの記憶などないはずだ。

 そうなれば、ますます話は分からなくなっていく。なぜ自分は記憶を失い、平原を長い間彷徨さまよっていたのか。原因も理由もわからず、自分の正体すら掴めないというのだ。

ノワールは、ひどくいらついていた。


それからまたしばらく歩くと、道以外に何もない平原に着いた。

月明かりのおかげで周りが良く見え、周りには邪魔になる動物や木はほとんどない。龍人が戦うためには、これ以上ないほどの場所だ。

少し進むと、二人は立ち止まり向かい合った。

「そんじゃ、始めるか」

ノワールとヴァイスは、ほぼ同時に背中に意識を移し、大きな声を出す。背中と腰から翼と尾が出てきて、その部分の布地を突き破ってきた。

二人は源龍化した龍人の姿になる。身体の中にある『流れ』を操り直立しているような恰好かっこうのまま宙に浮かび上がった二人は、お互いさらに距離をとった。

「ふーむ……。戦闘力はだいたい四・五Hと言ったところか。だいたい俺と同じかすこし弱いくらいだな」

そう言った後でにやりと笑い、最初に攻撃をしてきたのはヴァイスだった。急に近づいて腰のあたりを足蹴りすると、今度はノワールがエネルギー弾を数発ヴァイスに向けて放つ。

両腕を交差させ追いかけてくるエネルギー弾から身を守ったヴァイスは、ノワールに向けてエネルギー弾を放ち、それについていくような形で突っ込んでいった。

「おい、いっぺんこいつを食らってみろ」

ヴァイスの手から放たれたエネルギー弾は、ノワールの周辺を取り囲んでいた。一つ一つの方向とスピードを調整し、このような包囲を完成させたのだ。

「吹っ飛べえええええええええっ!」

ヴァイスは開かれていた右手をキュッと閉じる。

その瞬間、ノワールをリングのように取り囲むエネルギー弾すべてが、突然爆発した。


「うわあああああああああああああっ!」

爆発による轟音ごうおんですらかき消すことができないような声で、ノワールは叫ぶ。ヴァイスの攻撃の威力は、それほどまでに高いものだった。

彼の身体は、爆発により地面に落下した。龍人の特性によりエネルギー弾の影響を受けにくくなっているおかげか、周りの地形にはほとんど変わりがなかった。

「おいおい、もうお陀仏だぶつかよ……。残念だねえ、ほんの一分くらいで決着がついちまうなんて」

ヴァイスは地上に降り、ノワールが落下した場所へ歩いていく。

(来いよ、ヴァイス。お前にとっておきの罠を仕掛けてやったから、覚悟しとけよ)

ノワールはまだやられていなかった。声を殺し、死んだと勘違いしたヴァイスにエネルギー弾を浴びせてやろうとしていた。

一歩づつ、ヴァイスは近づいてくる。残り三メートルほどのところで、ノワールは右手にエネルギー弾を生成した。

「今だっ!」ノワールは叫び、ヴァイスに攻撃をする。不意を打たれて後ろ向きに倒れたヴァイスに対し、ノワールは遠距離から連続で攻撃を仕掛けた。

ぐわあという叫び声は、しばらく撃ち続けている間に止まる。ただ、それは決してヴァイスが倒れたということを意味しているわけではない。

彼の周りに、エネルギー弾と似たような方法で作られた半透明の防壁が張られていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る