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「……つまり、君は自分が龍人だってことがわかった途端とたん、研究者や軍人に追っかけられたり連れ去られたりして、そっから逃げてきた訳やな?」

 トーマスはエリーの話を聞くと、改めて言われた内容を確認する。エリーに『ええはい』と返されると、彼は疑わしいという目でエリーを見た。

「別に君が逃げてきたってことを疑ってるわけでもないし、龍人がいたってことはうちも知ってるんや、一応あたしゃ記者やからな。やけど、あんたがその龍人やってのが信じられへんねん」

 トーマスの疑いを代弁するかのように、アビゲイルが自分の疑念を口に出した。

「…………なら、私が実際にここでなってみましょうか? その龍人っていうのに」

「そんならぜひともお願いしたい」とトーマスが返す。それを確認すると、エリーは背中に意識を集中しやすいように服越しに背中を き、それから彼女は大きな声を出した。(大きな声と言っても、隣に響かないようにある程度配慮はいりょされてはいた)

 これまで通りに、彼女は龍の姿に変身することに成功する。部屋の中にいた三人は驚いたような顔で目を丸くしてエリーの方を見ていた。

「いやあ、驚いたもんや。すまへんな、疑ったりして」

 アビゲイルは自分の行動を反省し頭を下げる。そして彼女は何も言わずに状況を手帳に書いているトーマスの前腕を静かにつねった。

「あ、ああ……。ごめんなさい」

 トーマスは慌てたように謝罪をする。彼には反省の気持ちがないわけではなかったのだが、エリーの形態変化に驚きそれどころではなかったのだ。


 記者たちへの証明がんだエリーは、深く息を吐いて元の人間に戻る。尾を生やしたせいでスカートの腰下部分が破れてしまったので、破れた部分を手で押さえながら「すみません……」とだけ言い、寝室に戻っていった。

「いやあ、あたしゃ龍人ってのを実際に見てみたけど……。翼と尻尾生えとる以外は普通の人間やったな。もちろん、人からその二つが生えとるだけでも驚きやけど」

 エリーが去った後、記者たちは三人で彼女のことについて話し合っていた。

「こいつは映像とか撮っておけばいろいろ役に立つかもしれへん。それに、新聞社とかと協力して儲けを集めてったら、紛争地の支援に役立つかもやしな」

「あん子にもちゃんと話はしておくんやで。うちらは協力してもらうがわや、そのへんの礼儀はしっかりせな」

「わかっちょるて」

 三人の記者たちはこのほかにも、海外への映像提供や局への連絡、その他にエリーに頼みたいことなどを話し合った。

 彼女のために、ひいては今後現れるかもしれない龍人たちのために。彼らは今、重要な役割をになっている。

 しばらくして、スカートを履き替えたエリーが戻ってきた。彼女にも話し合いの内容は聞こえていたらしく、「取材するなら、まずはそれについていろいろお話を聞かせてください」と言う。

「ええ、ちゃんと説明させていただきますわ」

 そう言うと、記者たちは自分たちの取材目的や内容について一つ一つ説明をしていった。


「わかりました。を守るのであれば、取材に応じましょう。……と言っても、そのうちの一つは守ってもあんまり意味はなさそうですけどね」

 エリーは三つの約束と引き換えに、記者らの取材を許諾きょだくする。では、その約束というのは一体何なのだろうか。

 一つ。彼女への取材内容の放送や他社への公開などで得た金銭は、そのうち五割以上を紛争地の人道支援に寄付する。

 二つ。他社への映像の複製、譲渡には本人の許可を得る。

 三つ。変身方法を公開しない。彼女が言った『守ってもあまり意味のない約束』というのはこの約束である。オムなどの軍関係者には龍人に関するおおよその情報は渡ってしまっているので、そこから公開される可能性も十分あり得るのだ。

「ああ、変身方法のことやな。……軍の関係者のうち一部が知っとるから、ってことかな?」

「ええ、その通りです。ですが、変身方法を教える代わりに私はメッセージを発信しようと思います」

「メッセージって?」

 エリーが伝えるメッセージ。その内容が気になり、トーマスは反射的に質問口調になった。

「国際社会、特に例の国際連合っていう組織に対してです。彼らが龍人の力に関して何らかの国際的な宣言やら法を作ってくれれば、少なくとも軍事的な利用はなくなるでしょう。それ以外にも、国連の監査かんさに置かれた研究所でないと研究ができないだとか、そういう細かいルールとかもいろいろ決めて欲しいってことも伝えようと思います」

 なるほど、とアビゲイルは口に出す。

 エリーは本気だった。今後龍人を兵器として利用し、カシミールで見たような巨大な力で世界の文明が崩壊することを、彼女は危惧きぐしていた。

 だから彼女はそれを未然に防ごうとしている。世界に対し、一人の龍人として、いるかもわからないを殺人鬼、あるいは世界の破壊者にしないためにも。

「わかりました。では、さっそく取材を始めましょう」

 彼女は取材で一体何を語るのか。そして、彼女が世界に送るメッセージとは。

 エリーの語る言葉は、一時間で世界の命運を決めると言っても過言ではないだろう。

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