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それから、さらに六時間が経った。
「……起きろ、エリー」
コンクリート製の薄汚れた部屋の中で、軍服を着たオムがエリーを起こす。
「あれ、朝なの?」
外から光が差し込んで来ているおかげでエリーはスムーズに起きることができ、睡眠薬のせいか起きたあと眠気はあまり感じない。あるいは、起きた直後に自分の知らない場所にいる
深夜のオムらの会話や行動をある程度知っているので、彼女はあまり驚いていない。だが、やはり知らない場所に連れ去られているという状況自体にやはり戸惑いを感じてしまう。
「ところで……。朝起きていきなりこういうことを言うのはなんだが、ここは昨日たどり着いた家じゃない。まあ、見れば分かると思うがな」
そんなエリーの気も知らず、オムは近くにあった机に片手を置き、それから状況を説明する。
エリーは考えた。自分が深夜に意識をある程度取り戻し、ローレンスを射殺した後自分を連れ去った時のことを知っているなどと、果たして言ってもいいのだろうか、と。
しかし、よく考えれば分かることだ。状況もわからないうちにそんなことをバカ正直に言ってしまえば、彼女に何が起こるかわからないということは明らかだろう。
彼女もそれに気がつき、自分があの時意識を取り戻したことはオムやその仲間には言わないことにした。
「え、一体……ここは
エリーは自分の持てる最大の演技力をもって、自分のいる場所や状況をオムから聞き出そうとする。
「ここは、戦場だ」エリーは絶句する。「つい先日、戦闘が始まったのは知ってるだろ? そこで君のもつ力を使えれば、こちら側が有利になると思ってね」
オムが言っていることは、要するにエリーを戦闘の兵器として使ってやろうということだ。エリーはアブの集団に襲われたあの日偶然見つかった龍人の力を、人を
「龍人が使える力の中に『エネルギー
協力してくれるか、と協力を頼むオムに対して、エリーは協力する気などさらさらなかった。それは自分の力を人殺しに使うことが嫌なことも理由にあるが、一番は自分を夜中に
エリーはそのまま、首を横に振った。
「そうか……。いやあ、有利になると言っても君が戦う必要はないと思うんだがな。居るだけ、力を見せるだけで相手は
オムはあくまで抑止力であると主張し、協力を渋るエリーにうんと言わせようとしている。しかし、エリーもなかなか信用しようとしない。
「こちらとしても相手側がカシミールから戦わずに
それでも、エリーは首を縦に振らない。それどころか、彼女は逃げるために背中に意識を集中し、姿を変える準備を始めていた。
そんな時だった。どこか少し離れたところから爆発音が聞こえ、それと同時に大勢の男の悲鳴が聞こえたのは。
「……
「いいか、話は後だ。俺は攻めてきた敵兵に対処するから、お前は自分の身を守れ。必要なら力を使っても
オムはエリーにこう言うと、そのまま爆発があった方向にドタドタと足音をたてながら走り去っていった。
爆発音が聞こえてから、断続的に銃声が聞こえる。
建物に入ってきた兵士による攻撃が続く中、エリーは部屋の中で一人考えを巡らせていた。
(なるべく力は使わないべきだけど、状況はかなりまずいことになってるのよね……。私は、私は一体どうすればいいのかしら……。)
銃声が聞こえる不安の中、最善策を導き出そうとするエリー。しかし、そんなにすぐに結論が出るはずもなかった。
二人ほどが走ってきているのだろうか、かなり速い間隔と速度で足音が聞こえて来る。その方向から聞こえて来る言葉は、彼女の聞いたことがないような単語ばかりであった。
それは
(仕方がないわ、力を使ったあとで下に飛び降りましょう)
エリーは背中に意識を集中し、はあっと大きな声を出す。そのまま翼と尾が背中と腰から生え、龍人の姿になると同時に彼女は壁に向かって思い切り
爆発音のような大きな音と共に、エリーの身体が当たった
それと同時に、エリーの身体は建物の外に出る。こちらは壁の破片とは違い数十メートルほどで地面に落ち、ほぼ無傷で
襲撃を受けたこの場所は、軍の
エリーは辺りの様子を確認するために、あちこちに目を向けていた。
その時、エリーの方へ一発の銃弾が飛んできた。
今にも彼女の身体を貫こうとしていたその流れ弾は、空気を切り裂き音速と同程度の速さで向かって来る。
普通の人間であれば、そんなものを目視し、回避あるいは停止することなどできるはずがない。しかし、彼女はそれをしてしまった。
エリーは自分に向かって来る銃弾をその目で見て、とっさに右手でバッと掴んだ。
彼女は自分の手の中にあるものを見て、自分でも驚いて「え?」と声が出てしまった。まさか自分の目に映り、掴んだ物体が銃弾であるなどと誰が思うだろうか。
そのまま銃弾を地面に捨て、エリーは建物の方へ歩いて行こうとした。しかし、彼女はどうにも足が軽く感じている。そのままピョンと跳んでみると、彼女の身体は数十メートルもの高さまで跳び上がり、それから少し経って駐屯地の前に着地した。
「すごい、こんな力が私にあったなんて……」
自身の力に感心するエリーに対し、彼女の驚異的な
放たれた銃弾はエリーに少しの傷も付けない。兵士はそれが分かった
彼女はこのように、自分の持つ力について少しづつ理解している。しかし、それと同時にその危険性も徐々に感じていた。
「エネルギー弾、というものも使えるって言ってたけど……。もしそんな力を使ってしまったら、一体どんなことが起こってしまうのかしら」
エリーが持つ自分自身の力への関心に、少しづつ恐怖や疑いが混ざってきていた。
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