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ノワールとサルンが畑で働き始めて、二時間ほど時が経った。
ノワールは大きな畑の大部分に水をやり終え、サルンも順調に雑草を抜いている。八月下旬と言っても日本のような厳しい暑さはなくある程度過ごしやすい気候であることも影響してか、二人に大きな体調の変化や疲れなどは見られない。
この集落では人通りが非常に少なく、誰かが道を通ることがほとんどないので、人が歩いているとすぐわかる。
道を歩いていたのは、オールバックの中年男性だった。服装や風貌には二人と違って
ノワールが集落の雰囲気に似合わないその
「あ、サルンさんですか。こちらこそお久しぶりです、お元気ですか?」
スパルはサルンとは違い、言葉
自分より大柄な男相手にも堂々と
「大丈夫だ、オラは今も昔も元気だべ」
「あの、このスパルっていう人は一体どういう人なんですか?」
ノワールはスパルについて、サルンに質問した。
「こん人はうちのオサ、まあ長老みたいなモンだ。村長とはまた違うんだけんども、ここじゃ大事な仕事だべ」
「いやー、どうも」スパルは一度お
スパルには女のように髪が長く、欧米人の男にしては小柄なノワールが男か女かわからなかった。ノワールは表情を変えずに淡々と「ノワールです、あと僕は男です。このヒゲ見ればわかるでしょう」と答える。
だが、心の内では自分の小柄さを気にしており、また男には見えないような髪の長さについても(日当を手に入れた後で
「あ、すみません。それで、今日はサルンさんのお手伝いに?」
スパルの問いに、ノワールは「はい」と答える。そして彼はそのまま作業に戻り、畑を水で潤した。ただ、作業をしている間ノワールは(明日には床屋を探そう)と考えていた。
「いやー、オラはこの時期忙しくて
その瞬間、ノワールの手に握られていた
サルンは飛んできた水を見た
(やっちゃった……)
「……す、すみません、ちょっと不注意で」
ノワールは振り向き、頭を下げる。水がかかったスパルは一瞬驚いたが、すぐに「いえいえ、大丈夫です」と言ってズボンのポケットからハンカチを出し顔を拭いた。
「水やりするときにゃ手元と
床屋に行くことを考えながら水やりをしていたノワールは、
それを自覚したノワールはもう一度「すみません」と言い頭を下げて、それからまた作業に戻ろうとした。
「あ、あの、ちょっといいですか?」スパルは畑に戻ろうとするノワールに声をかけ、「そういえばどこかで
スパルはノワールの顔から誰かを連想し、声をかけようとした。ただ、自分の顔や名前を知らない彼をその誰かとは別人と判断し、質問をやめた。
ただ、ノワールにとってその質問は何かが引っかかった。もしかしたら、スパルは何か自分について知っているのかもしれない。そう思い、ノワールは
「えと、もしかして僕と会ったことありましたか?」
「いや、知り合いとかなら一応覚えているはず……。もしかしたら貴方、多分前にもこの集落に来たことがあって、それで案内とかを頼んだんじゃ?」
ノワールが自分の顔を見た覚えがないことは、少し話しただけではないか。そうスパルは考えた。例えるなら少し遠くの、あまり行かないようなコンビニに行ったあとにその店員さんの顔をすぐ忘れてしまうのと同じようなことだろう、と。
「なるほどです」ノワールもそれに
「では、私はこれで。サルンさん、これからもお元気で!」
スパルは話を切り上げ、道を
仕事に戻ってしばらくすると、突然サルンのお腹が
「
ノワールはその知らせを聞き、急いで家に戻るサルンについていく。
(やったあ! 最近あんまり食べてないし、
ノワールは昼食で何が出てくるのかを楽しみにしながらサルンの後ろを歩く。サルンの家らしき古びた家の前で、ノワールは水の入った桶を置こうとした。
「あ、そいつは家の前じゃなくて中に置いてけれ」
ノワールがまた桶を元の高さまで持ち上げたのと同時に、サルンは自宅のドアを開けた。ドアからは開くときに古いドア特有の音が鳴ったが、二人はそれを気にせず家に入る。
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