第22話「ギルドマスターから報酬をもらおう」

「えーと……」


 俺はキサナとミランダを連れて正門に来ている。


 騎士風の冒険者ダッカスと俺が腕を修復した弓使いのモルグは門を開けたら入って来れた。しかし彼らが連れてきた男女は見えない壁に遮られているようで中に入れないでいるのだ。


 男の方は初老で立派な髭を蓄えて恰幅のいい紳士。彼がギルドマスターだろう。女の方はギルドの職員か彼の召使いのようだが制服姿というわけではないので関係性がよくわからない。


 二人は見えない壁を触りながら「なんだこれは」と慌てている。


「どういうことだダッカス。入れないではないか!」

「知らねぇよ。あんたら、聖者様に対してよからぬ事を考えてんじゃないのか?」

「そ、そんなことはないぞ!」


 口ぶりからして、絶対そんなことあるじゃん。


「入れないのならここで用件を聞こう」


 俺が進み出ると紳士は一瞬呆けたような顔になったが、咳払いして顔を引き締めた。


「ゴホン! ギルドマスターの私を中に招かないとはどういう了見か」

「その壁は敵を寄せ付けない神の加護が施してある。入れないのなら君たちはの敵ということだ」

「聖者と僭称した上にこの振る舞い……、貴様、どこのギルドに所属している魔術師だ! 結界を早く解け!」

「文句があるのならファルテイア様に言え」


 ここの防衛システムを作ったのは神様だからなぁ。


「き、貴様ぁ。本当に神の御加護だとでも言うのか!」

「マスター、そのようです……」

「なに?」

「私の【鑑定】によると、本当にキラウヨルグ神の御加護が掛けられた聖域ですわ」

「そんな馬鹿な」


 ほー、女性の方は鑑定の能力を持っているのか。ってことは、案外俺の能力ってこの世界では一般的なのかもしれない。


「それに、そちらの御方を鑑定したところ、なにもわかりません。高度な阻害魔術でしょうか……」

「ほ、本当なのか。君が鑑定できないものがこの世にあるなんて……まさか、本当に聖者様なのか」

「だからそう言ったじゃねぇか石頭!」


 ダッカスが文句を言う。俺の前ではバカ丁寧な敬語の騎士風だったのに、こいつらの前ではガラが悪いな。


「そもそも、聖者様に会わせろっつったのはあんたらなのに、どうして疑うんスかね」


 弓使いのモルグはさめざめとした視線で二人を見ている。


「すいませんね聖者様。あれがクシラナの街で冒険者ギルドのマスターをやってるゴステロと、受付統括でサブマスターもしてるマドロード嬢っす」

「そうか。ご苦労だったなモルグ、ダッカス。中でお茶でも飲んでいってくれ」


 俺が名前を呼ぶと、冒険者の二人は向き合って「うおおお!」と叫びだした。


「聖者様がおいらの名前を覚えてくださってた! やべぇよダッカス! こいつぁやべぇ!」

「ああ! これは子々孫々まで語り継げるぜ!」


 大げさすぎる。


 もしこの壁の認識する「味方」が俺の信者のみだとしたらとんでもねぇことなんだが。そうでないことを祈りたい。


「御館様に代わりまして家令の私キサナが用件をお伺いします」


 キサナが突っ込んでいく。家令ってあれだろ? 使用人のトップで監督者的な……。あんたいつのまに家令になってたんだ!?


「獣人(ライカンスロープ)ごときが家令だと? どこの落ちぶれ貴族か知らないが、随分な家柄だな!」


 ギルドマスターは馬鹿にしたように言う。こいつの人種はよくわからないが、もしかしなくても獣人は差別されているのか?


「落ちぶれ貴族が不還の森にこれほど立派な城を、一晩で建てられると思いますか」


 キサナは差別に動じずやり返す。


「それにあなた方がお見えになったのは、きっと魔人カーテスの討伐報酬の件でしょう? 早く用件を言いなさい」

「ま、魔人の討伐報酬!? そんなものの用意はないし依頼も出していない!」

「あら。そうなのですか」

「そうだとも。本当に魔人カーテスを倒したのなら、それは貴様たちが勝手にやったことだ。ありがたいことにな!」

「だそうです御館様。用はなさそうなので館に戻りましょう」

「待て! 私は本当に魔人カーテスが討伐されたのか確認に来た! 本当ならご領主様や国に報告せねばならん!」


 するとダッカスが吠えた。


「俺達が生き証人だ! 聖者様は魔人カーテスを一瞬で消し飛ばしてくださったんだぜ! それなのになんだその態度は!」

「信用できるか、そんなこと!」


 確かに妄言だと思われるかも知れない。


「じゃあ、見せるか」


 俺は【無限収納】に格納しっぱなしの魔人カーテスを取り出した。


「―――マァ! あれ?」


 前回のセリフがなんだったのか覚えていないけど、魔人カーテスからすると時間が止まっていたことになるので、突然視界が切り替わった事に驚いたようだ。


「ひっ!?」


 ギルドマスターのゴステロと受付統括のマドロードは、魔人カーテスを間近に見てストンと腰を抜かした。


 んー、そんなに怖いか?


 確かに肌は薄い紫だし角も生えている。身長は三メートル以上もあるけれど、見ろよこの漫画のようなデカおっぱい。そして惜しげもなく露出させているおしり! 体はデカいが、セクシーダイナマイトすぎてなにがそんなに怖いのかわからん。


「なんだこの神気……。はっ、ここは神域の中か! チッ、力が振るえない! て言うか貴様ぁ、さっき私になにをした!?」

「口の聞き方を知らんようだ。もうしばらく時の牢獄(笑)で反省していろ」

「ちょっ、ま―――」


 俺は魔人カーテスを無限収納に格納し直し、門の前で尻もち付いたままぽかんとする二人に向き直った。


「倒したのかと言われたら確かに違うな。私は魔人カーテスを閉じ込めただけだ。いつでも取り出せるし永遠に出さないことも出来る」

「なっ、なっ……」


 ギルドマスターは言葉を失ってわなわなしている。


「これでは報奨とやらはもらえないだろうから、気が向いたら出してやるとしよう。キサナ、館に戻るぞ。ミランダも昼から起きているのならもう休んでいい」

「ちょっとまった! いや、まってください!」


 門の外でギルドマスターが這いつくばって頭を下げる。


「どうか、魔人カーテスを解き放たないでください! 閉じ込め続けて頂けるのなら報奨金を出しますから!」

「御館様がアレを閉じ込め続けている間、毎月支払ってくださるのですね。ありがとうございますギルドマスター。ちなみに御館様の労力を考えますと、銀貨五十枚50万シリルは下らないかと思いますが、いかがでしょうか」


 キサナが恐ろしいことを強要していく。この子、怖いわぁ。


「一月に銀貨五十枚!? い、いや。魔人カーテスをそれで封じられるのなら安いものだ。わかった。約束しよう」

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