冒険者たちと交流してみよう!

第16話「城内探索してみよう」

 ここまでの俺。


 間違えて最終列車に乗ってしまった俺は、今の記憶を持ったまま輪廻転生することに。しかし黄泉神イザナミ様によって決められた(?)転生先はなんと異世界。しかもそこで俺は下級吸血鬼なんぞに生まれ変わっていた。


 イザナミ様から俺の一件を引き継いだのはこの異世界「ウーヌース」を担当している星神様で、名前はキラウヨルグ神ファルテイア様。


 ファルテイア様は、きっと俺のことを不憫に思ってくれたんだろう。俺の記憶から吸血鬼にぴったりな館……というか城を神様パワーで作ってくれた。その城の中にあるのは―――


 使っても使っても永遠になくならない食材や消耗品。

 現代地球っぽい仕様の家電や設備の数々。

 地球の未来で完結する分まで揃っている謎の巨大書庫。

 ゲーセン風の筐体まである接客用グレートホール。

 地下の私室はゴシックでヴァンパイアっぽい調度品や家具。


 庭もすごい。


 痩せることなく収穫し続けられる野菜畑と薬草畑。

 裏庭には厩舎きゅうしゃがあるが馬はいない。

 その隣りには車庫。夢のガレージライフとかできそう。

「火葬場かな?」と思うほどでかいごみ焼却場。

 外壁近くには使途不明な石造りの小屋が三つ。

 そして外壁は神様の加護で外敵が入ってこない仕様。

 中庭にある若木は仄かに光っていてどういう植物なのか見当もつかないが、成長が楽しみだ。


 そして今日! 俺はこの住居の中でもまだ謎に満ちている「塔」を解明する探検に出かける!


 うちの塔は屋敷から直接つながっていないようなので、外から入る必要がある。しかも大中小と三つもあるので調べるのは大変だが、冒険に苦労はつきものだ!


「気合いが入っておられますね、御館様」

「まぁ、ね」


 キサナが不思議そうな顔をしている。


 レッサーヴァンパイアとして生まれ変わった俺は、太陽や人間が怖くて完全に城の敷地の中で引きこもっているわけだが、まだまだ城の中で飽きずに楽しめそうだと思っている。


 ちなみに家政婦メイドとしてここで暮らすことになったキサナが最近気にしているのは俺の地位なんだそうだ。


 屋敷の外に出ず、労働もせず、領地もなくて使用人もいない。しかし城のような館を持ち、王侯貴族もびっくりの贅沢な暮らしをしている。なのに貨幣を一つも持っていない―――そりゃ不思議だと思うよな。


 だが彼女は出来たメイドだからあまり詮索してこない。


「わかっています御館様。きっと上級貴族か王族の落し胤で、こんなところに隔離されてしまったのですよね? ご安心ください。私は戦闘メイドなので、継承者問題で御館様の命を狙う輩が来たらぶち殺してみせます!」


 彼女の中で俺は「高貴な家の私生児で正式な血統の一族から亡き者にされそうになっている」という設定になっているらしい。


「塔が気になるのであれば、私が見てまいりますが?」

「いやいや。暇なんで冒険者ごっこさせてよ」

「冒険者、ですか」


 キサナは嫌そうな顔をする。


 この世界で冒険者とは「ゲスでチンピラで他の仕事ができない輩が、最後に残った自分の命を賭してやる仕事」という認識が強いらしい。


 だが、ちゃんと話を聞くと冒険者がいないと社会生活は回らないと言うし、冒険者の知識と経験は何者より勝るという認識もある。それでも冒険者を社会の底辺と見ているのは、彼らが基本的に一箇所に留まらずに仕事を求めて流浪するからなのと、とにかく素行や態度が悪いのだとか。


 しかし冒険地でなにか希少な発見でもしようものなら、一気に大金持ちになるし、等級の高い冒険者は英雄視されて騎士に取り立ててもらったり貴族のお抱えになったりもするので、まさに「一攫千金を狙うハイエナ共」なのだろう。


「私もお供いたします! この御城のことは隅から隅まで知っておかないとなりません!」


 そんな感じでキサナを引き連れた俺は、真夜中の塔探索に出発した。


「それにしてもうちは不気味だなぁ」


 庭から見上げる我が家は、双子月を背景に黒々とそびえ立ち、思わず「悪魔城……」と言いたくなるような外観をしている。子供だったらこれ見ただけで泣いちゃうんじゃないだろうか。


「え、不気味でしょうか? とても立派で神聖なものを感じますが……」


 確かにこの世界の神様が作った建物だから、どこかに神聖さはあるのかもしれない。だが、怖いもんは怖い。現地この世界の人達はホラー映画を見たことがないので怖さがわからないのだろうけど、この館はかなりお化け屋敷感がある!


「とりあえず右にある背の低い塔から行こうか」

「はい!」


 てくてく二人で夜中の散歩。狼人種ワーウルフのキサナも夜行性だったので生活時間が合致していて助かった。


 彼女がここに来たのはファルテイア様がこの世界の因果律とかいうのを書き換えたからだが、神の手の上で弄んでしまったのは申し訳ないと思っている。せめて彼女が不幸にならないように十分な賃金は払いたいとは思う。


「館にくっついたように建てられている塔なのに、出入りは外からって……。不便なものですね」


 確かに。どこかに隠し扉でもあるかもしれないので、その辺りは追々探っていこう。


 館の右にある一番背の低い塔に入ると、時計回りでぐるぐると螺旋階段が上まで伸びている。一番上は部屋になっているようだ。


 そういえば何かで読んだ気がするが、西洋中世の螺旋階段は下から攻めてくる敵が剣を振りにくいように、わざと反時計回りの構造になっているのだそうだ。


 下から登ってくる敵が右利きだと剣が壁に当たるが、上から降りる防衛側は剣を遮るものがない、という理屈だった記憶がある。あの時代に左利きは少なかったんだろうか。


 しかしこの塔は螺旋が逆。まるで上にいる者が降りてきた時に迎撃しやすいようになっているように思える。


 えっちらおっちら階段を登りながら、俺はヴァンパイアの身体に感心した。


 ここ数日でなんとなく分かっていたことだが、以前ならこんなに急勾配な階段を登り続けていたら疲れ果てていたはずだが、今はなんともない。下等レッサーであってもさすがヴァンパイアだ。


 いずれ映画の中の吸血鬼たちみたいに壁とか天井でも歩けてしまいそうな予感もする。ちょっとヴァンパイアとして生きてるのが楽しくなってきたぞ。


 そんな俺の後ろで―――


「キサナ、大丈夫?」

「はぁはぁはぁはぁは。だ、だ、大丈夫、です!」


 人狼のキサナですら息が切れるくらいの階段。


 三つある塔の中で一番低いと言っても隣接している館自体がデカくて(地上三階建てと言いつつ各フロアの天井がアホみたいに高いので比例して館もでかくなってる)この塔も高いんだよな。


 汗一つかかずに登りきった俺は、最上部の部屋を閉ざしている分厚い鉄扉を開ける。


 なんもない。からっぽだ。


 家具や調度品もなく、トイレも洗面も台所もない。部屋というよりただの空間だ。


 窓は手の届きそうにない天井に一つしかないし、その窓枠には脱出防止用の鉄格子がはめられている。ちなみにガラス窓ではないので外気がそこから吹き込んでくるという不親切設計だ。


「んー?」


 もう一度部屋の鉄扉を見ると、やたら厳重なかんぬきがあり、外側からしか開かない監視窓が付いている。


 ここは誰かを監禁するための部屋なんだろうな。使わないことを祈ろう。

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