閑話 インタビュー 2
「神に与えられし神器……噂は本当だったのですね」
あー、箱のこと? 噂が独り歩きして大変だったんだよねぇ。国家ぐるみで箱を奪いに来たりとかさぁ。
「それは約百年前に起きた『不還の森戦役』ですね? 聖者様の箱を狙った王国の貴族たちが軍を率いてやってきたとか……」
そうそう、あれなぁ。もう百年経つのかぁ…。
「聖者様は不老不死だという噂がありましたが、本当なのでしょうか」
不老だねぇ。不死かと言われたら殺されたら死ぬと思うよ。
「どうして不老になったのでしょう?」
そういう種族特性だから……。
「なんと! ヴァンパイア種は不老なのですか!? では赤子からどうやって成長を!? エルフ種のように長い時間を掛けて成長していくのでしょうか、それとも一定の年齢になると不老になるのでしょうか?」
ぐ、グイグイ来るね。実は俺もよくわかってないんだよね。なんてったって、俺が最初のヴァンパイア種だって神様も言ってたから。
「一部で始祖様や神祖様と呼ばれているのは事前に調べておりましたが、そういう意味だったのですね。神がお認めになられたヴァンパイア種の始祖……。私はやはりとんでもない御方とお話させていただいているのだと今更ながらに実感いたしました」
ははは。そう固くならなくていいから。
「で、聖者様はその箱をお開けになったのでしょうか」
突然、急角度で切り込んできたな!?
あのね。ああいう切り札は最後の最後のギリギリで使うもんでしょ。一度も開けてないよ。
「どんな願いでも叶う箱ですよ?」
どんな願いでも自分で叶えてきたから、別に今開ける必要はないし。
「それは勿体ない……」
あー、もしかしてシュテリアさんもあの箱を使って自分の願いを叶えたいと思ってる? 悪いけど、それはしてあげられないなぁ。
「そ、そんな。愚かにも聖者様に挑み、滅ぼされた貴族たちのようなことを決して……」
ははは。なんだったら箱なんか使わなくても俺が叶えられるかもしれないよ? どういう願いがあるの?
「聖者様、どうか私に良き出会いと良き夫を!」
お、おう。
あっという間に遠慮なくなった気がするけど、【鑑定】で見た年齢からするとこの世界の結婚適齢期を超えてらっしゃるし、焦りもするよね?
「……」
いや、まって? 怒った!?
俺からすると、っていうか俺の元いた世界ではシュテリアさんの年齢で結婚するのはまぁまぁ若いほうだから! いやほんとに! もちろん医療が発達してたから高年齢の出産でも対応できるので婚期が遅れても大丈夫ってのはあったかもしれないけど!
「……」
わかった! うちの執事で気に入ったのがいたら適当に連れて行ってもらっていいから! おっとキサナ、思いきり首を横に振りまくるのはどうして?
「御館様、当家の召使いではシュテリア様のお眼鏡にかなわないかと」
え、そうなの?
「御貴族様の結婚相手というのは、当人の容姿や性格は二の次で、家柄や資産、過去に悪事を働いていないかなどの外聞を調べる必要があります。その点、当家の召使いたちは……」
うん……。ろくな奴がいないけど、ほら! 一人は家柄優秀なやつがいるじゃん! 勇者のあいつ、確か王家の血筋でしょ!
「……性格と行動に問題はありましたが、確かにアレならいけそうですね」
「ちちち、ちょっと待って下さい! 私みたいに貴族の家を出た女に王家筋の勇者様を充てがおうとしないでください! 格が違いすぎます!」
色々あるんだなぁ。ぶっちゃけ、めんどくせぇなぁ。
まぁ、とりあえず日が暮れてきたからうちで夕食でもどう? 今夜はゲストルームに泊まっていっていいよ。
「あ、あの聖者様。未婚の女が一人でこのお城に泊まったとなると、お手つきにされたという噂が立つのではないでしょうか? いえ、私は一向に全然全く構わないと言うか大歓迎なのですが」
そう? うちにはもう何人も泊まってるけど? なんだったら流れてきた冒険者たちなんて女の子のほうが多かったくらいだし。あ、もちろん何もしてないし、シュテリアさんにも何もしないって誓うから安心して?
「……」
なぜ不機嫌!? あ、うちの自慢は各部屋にあるシャワールームと、離れに増設した温泉だからね。
「
おっと、食いつきましたねお嬢さん。この
それに備え付けのシャンプーからボディーソープまで、全部この世界の神さま、つまりファルテイア様が俺の記憶から再現した特別性だから、神様効果で抜群の洗浄力と良い香り! お肌もすべすべで女性ゲストには大人気!
「当家の洗髪剤や石鹸を盗んで持ち出した者は、いまのところ一人もおりません」
こらこらキサナ、脅すように言うんじゃありません。シュテリアさんがそんなことするわけないでしょ。
あ、泊まる? 誰かに知らせなくても大丈夫? そういえばここに来たの、シュテリアさんだけ? 他に記者さんはいなかったの?
「御館様、その者たちは門の外におります」
え、どうして?
「なにかの悪意を持った者はここに入れませんので」
あれ。シュテリアさんの同僚の人たちって、もしかして俺に害意があったりした?
「そういえば、あの男たちはなにか一つでも持ち帰るぞと息巻いていました。記事のネタのことだと思っていましたが、なにか盗み出すつもりだったのでしょうか」
あー、そりゃダメだわ。
シュテリアさんは気にしないで。城の外壁の周り見たでしょ。俺を聖者と持ち上げてる奇妙な人たちが勝手に売店とか宿作って、ちょっとした下町みたいになってたでしょ。どこかに泊まるんじゃない?
今考えると、昔は「誰も立ち入れない神聖なる不還の森」って言われてたのにね。百年も経つといろいろ変わるもんだわ。
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