第10話「旅人を歓迎しよう」

「南無さんにイザナミが与えた能力は【言語理解】【若くて健康な体】【無限収納】【鑑定】のようですね。それに加えて肉体も再構成してレッサーヴァンパイアに……他になにかされませんでしたか?」

「なにか……」


 変な箱は貰ったけど「この箱のことは転生先の星神にも内緒ですよ♪(にこっ)」ってされたしなぁ。あの「にこっ」は色々怖いから言わないで済ませたい。


「これと言って別になにもされていません」

「……本当ですか?」


 箱を貰いはしたけど、俺自身にそれ以上のことはされてないから嘘は言っていない。ちなみに俺は隠し事が得意だから心の中にもその事項は思い浮かべないようにしているが、はたしてそれが神様に通用するのかは怪しい。


「ならいいのですが。せっかくですから城以外にも私から加護を差し上げますね(にこっ)」


 ファルテイア様は俺の手をキュッと握った。そしてその小さな手を離すと俺の手に中には箱が……。このパターンはデジャヴかな?


「あの―――」

「南無さんはこの世界で初めてのヴァンパイア種ですから、長生きして種を繁栄させてもらわないといけません。ですから、それを差し上げます」

「これ―――」

「開けるとなんでも願い事を一つだけ叶える箱です。いざという時は開けてくださいね」

「えーと、はい……」


 OH……。いざというときのエリクサー的な保険が二つになったぞ?


「それと……あまり干渉しないのが星神の流儀なのですが、今回は特例です。この館の管理が大変だと思われているようなので、近いうちに見合う者がやってくるようにこの世界の因果律、つまりアカシックレコードを書き換えました」

「は、はぁ」


 因果律とかアカシックレコードとか、聞いているだけで耳が熱くなる中二病ワードだが、ファルテイア様は真面目に話をしているんだから恥ずかしがっちゃいけない。


「南無さん。死んだように生きているあなたがこの世界でどう暮らしていくのかは、あなた自身で決めることです。もちろん私たち創世神管理組合は、あなたが幸せであることを望みます」


 それ、イザナミ様にも言われたな……。


「ありがとうございます」


 俺が一礼するとファルテイア様は「にこっ」と笑って光の粒になって消えてしまった。去り際はあっさりなんだな……。


 さて。


 やるべきことは色々ある。まずは己を知ることだ。


 映画や作品の中のヴァンパイアと俺自身が一致する存在なのかを【鑑定】で詳しく調べるないと、ヴァンパイアの弱点=死に直結だからなぁ。


 それにイザナミ様から貰った【言語理解】【若くて健康な体】【無限収納】【鑑定】という能力についてもよく知る必要があるだろう。


 他にも書庫でこの世界に関する本を探して文化文明や種族、国家のことを調べたり―――書庫……えーと、その前にあの漫画の続きや結末を読まないと!!


 スキップ気味に一階フロアに戻ったところでピンポーンとチャイムの音がしたのでズッコケそうになった。


 俺が地球で住んでいた1DKマンションの呼び出し音と同じって、この悪魔城みたいな建物には似合わなすぎだろ。これも俺の記憶から建物を作った弊害の一つか……。


 ちなみにこの館のあちこちにあるモニターは館内はもとより外の門ともつながっていて、地下室のここからでも外の様子をモニタリングできる。もうこれ地球のすごい金持ちの家と変わらないよね? ほんとに電力とか上下水道の設備ってどうなってんの?


「……ど、どちら様でしょうか」


 モニターのマイクに向かって話しかけると、正門の所にいた人物がビクッと肩を上げた。驚いたらしい。


 頭から茶色のフードをかぶったローブ姿の来訪者は、その背中は大きなリュックサックを背負っている。


 リュックにぶら下がっている鍋やらの使い込まれたクッカーからしても、旅人なんだろうという予想はできる。だが、こんな夜更けの森の中にやってくるような奴が普通だとは思えない。


 そもそもこの世界にチャイムはあるのか? 来訪者はそれが分かって押したのか?


「あ、あの、ここを押して家人を呼べと書いてありましたので……。ど、どこからお声が聞こえているのでしょうか」


 チャイムはファルテイア様の親切設計だったのか。


 来訪者は前後左右を見回してビクビクしているので、どうやらこの世界でチャイムやモニターはあたりまえの設備ではなさそうだ。


 そして声からすると来訪者は女性っぽい。


「どちら様でしょうか」


 もう一度問いかけてみる。


「わ、わたしはエンレロッサから旅をしているキサナと申します。森で迷いまして、どうかお屋敷の軒下をお貸し願えないでしょうか……」


 夜の森を女性一人で移動するなんて危険極まりない。


「わかりました。お入りください」


 門の開閉ボタンを少しだけ押して彼女が入れそうな隙間を作ってあげると、キサナと名乗った人物は非ぬ方向にペコペコ頭を下げて中に入ってきた。


 再び門を閉めた俺は、異世界初の来訪者を迎えるために襟元を正す。


 丁度いいのでこの旅人から話を聞きたいし、これは歓待しなければ。


 彼女の血を吸うかって?


 俺にはそんなフェチ趣味がないし、吸わなくて済むのならそれに越したことはない。


 むしろ俺としては血を吸う鬼、つまり吸血鬼とは自称したくないくらいだ。あえて名乗るのならヴァンパイアだと言い張りたいところだね。


 それにこの旅人は情報提供者として歓迎したいわけであって、そんなあんた、血を吸うだなんて絶対ありえないでしょ。いやホント。

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