異世界で城をもらおう!
第6話「異世界の自然を満喫しよう」
「……嘘だろ」
最終列車が到着した駅は消え去り、俺の周りにあるのは見慣れない自然のみ。
こう見えても生まれた時から都会育ちの俺からすると、自然というのは学校行事でしか触れることがない「現実の中の異世界」だ。
そんなところで野営? 無理無理、俺はサバイバル知識皆無のアーバンな人種だし!
だって野犬とかいたらどうする? 異世界にも狂犬病とかある? 治療薬が作られる医療が存在するのかも怪しい! てか、ここだと人や文明の気配がまるでしないんだけど、この世界に人間がいるのかもわかんないぞ!?
一人であわあわしていると、雲に隠れた月が姿を表した。
月は大小二つあり、月と月の間に光の輪ができてなんとも異世界的な夜空に目を奪われる。
そんな二つの月が俺の周りを照らすと、見たことのない形と色をした木々と草花が煌めき、嗅いだことのない芳醇な空気の匂いがした。
遠くに視点を移すと、逆ピラミッド型に切り立った岩山や自然の風化ではこうはならんだろうという奇っ怪な形をした山々が並んでいるが、その山頂には雲ではなく小さな島がいくつも浮かんでいる。
空に浮いている島からは滝が流れ落ち、月明かりを受けて虹色に輝いている。その虹の滝の間を潜っている巨大な鳥……、いやあれ鳥じゃなくて翼竜、もしくはドラゴンかな? それが何匹かでじゃれ合っているようにも見える。
あれ……なんだか悪くないぞ?
危険な異世界に来たつもりだったけど、もしかすると俺が歌うと動物も一緒に踊りだすようなキャッキャウフフなファンタジー、いや、ファンシー世界なのかな?
暫くの間、呆然としていた俺だが、我に返って考えるとそんな楽観視できる状態じゃないと気がついた。
実は俺、遭難しているんじゃね?
水も食料も道具も知識もなにもないのに、異世界の常識範疇外の大自然のど真ん中に突っ立ってる。これは遭難以外のなんでもない。
「しまったぁ! こんなことならKAK◯RU先生の異世界漫画を暗記できるくらいまで読み込んで知識を持っておけばよかった!」
俺の叫び声は森の中に吸い込まれるが、どこからもリアクションはない。
俺の新しい人生は【死んだように生きていく】って言われたけど、このままだとすぐ死ぬぞ。
そういや、俺の手の中には小さな箱がある。
―――それを開けるとなんでも一つだけ願いを叶えられます。本当に辛い時にはこれを開けてくださいね
いやいや、待つんだ俺。異世界転生第一歩目からこれを使うなんてとんでもない!
俺はRPGで手に入る
絶対この謎箱を開けるものかという強い意志でズボンのポケットに突っ込む。
よし。
とにかく人間は水がないと三日も持たないとどこかで見たことがあるのでまずは水源を確保したいのだが、素人が夜の山を歩き回って大丈夫だろうか。
耳を澄ましても水のせせらぎなんか聞こえないというのに、どうやって水源を探す? それよりなにより元気があるうちに山を降りて人里を探すべきか? だが、山を降りることも素人には難しいってことも知っている。ニュースでもよく山中で迷子になった登山客を探すために山狩りが行われているとかいうのを見てきたからな。
無意味に歩き回って体力を消耗したり崖から落ちたりしたくないから、結局朝を待つしかないのか……。
おっと、待てよ?
俺はイザナミ様から特殊能力を付与されたじゃないか。その能力で現状をどうにかならないだろうか。
指折りながら教えてもらった能力は
【言語理解】
【若くて健康な体】
【無限収納】
【鑑定】
だが……、冷静に考えたらこれって「異世界転生時の基本セット」じゃないか。
こういう能力が最初からないと物語が進まないので、ほとんどの異世界転生モノのアニメや漫画ではテンプレート的に付与されるている。ってことは、俺は異世界転生モノの主人公になっちゃってるのか。
いやぁ。友達も脳内にしかいなくて、毎日死んだように生きていたこの俺が異世界転生モノの主人公か。フヒヒ、なんだかこそばゆい気分だ。
「なにをニヤニヤしてるんですか」
「ぎゃあ!」
思わず叫んでしまった。どうしてみんな気配を消して背後から声をかけるのさ!!
ドキドキする心臓を抑えながら振り返ると、イザナミ様とはまた違う角度から攻めてきた美少女がいた。
清楚が実体化した黒髪のイザナミ様とは正反対で、金髪碧眼でギリシア神話風の衣装を着ている。やたらはだけているし布が濡れたように透けているせいで、この子のいろいろな部分が顕に見えてしまう! 放送コードと出版コードに引っかかるやつだ!
紳士的な大人の男として彼女から視線を外すが、美少女は俺の正面に回り込んできて顔を覗き込んできた。
イザナミ様と同じように全身が少し光ってる。
「あのですね、地球の価値観では恥ずかしい格好みたいですけど、この世界では普通ですからね?」
俺の心を読んでる。やっぱ神様じゃん!
「私はこういう者です」
また名刺……。神様は名刺出すのが流行ってるのか?
えーと。
創世神管理組合所属、第一級星神、ウーヌース担当、キラウヨルグ神ファルテイア、様か。
地球では聞いたことがない神様の名前だ。
「そうです、私が神様です」
美少女は両手を前に出したり後ろに下げたりと、どこかの喜劇王が演じた名物キャラのように踊りながら言った。
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