第13話「メイドさんと朝食を食べよう」

 異世界の兎を異世界IHコンロで焼きつつ、尽きることがない食材シリーズから食パン、バター、ジャムを出し、コンソメスープも用意。横にいるメイドはただただ驚き続ける係で、何もしていないけどまだ初日だし、今はまだ給金払えないし、血もちょっと吸っちゃった引け目もあるので許す。


「朝飯にしよう」

「はい!」


 アホみたいに長いダイニングテーブルのお誕生日席に先行したキサナは、馴れた動きで椅子を引いて俺が座るのを待つ。俺としては対面で座って会話を楽しみたかったんだけど、そうされちゃうと座るしかない。


 しかも俺が座ってもキサナは座らず、それどころか俺の視界に入らない壁際に移動し、少しうつむき加減でジッと立っている。


「……なにやってんの?」

「え!?」

「朝ごはん、食べるでしょ?」


 俺があなたの分の皿も並べましたけど。


「わ、私は後から厨房でいただきます」


 俺があなたの分の皿も並べましたけど!


家政婦メイドが主と同席して食事なんて……」


 俺があなたの分の皿も並べましたけど!! しかも「お肉が美味しそうです!」って言うから兎肉の殆どはキサナの皿にてんこ盛りにしてますけど!


「昨日は一緒に食事してるわけだし、気にしないでよくない?」

「いえ、昨日はまだ雇って頂けておりませんでしたし……。ですが御館様のご命令とあれば、はい、ご同席させていただきます」


 食べたいって言えばいいのに。


 一番大きな皿には赤角兎アラシュノミドの塩コショウ焼き。ペットにされる愛らしい兎を食べたいとも思ったことはないが、こいつが兎かと言われたらそうは見えなかったので気にしないで丸焼きにした。


 添え物として皿を彩っているのは、キサナが庭で収穫してくれていた名も知れぬ野菜を蒸したものとマヨネーズ。サラダエレガンスも小皿に入れてある。


 隣の皿には軽く焼き目をつけた食パン。オーブントースターもどきがあったので、水を染み込ませたトーストスチーマーと一緒に焼きながら加湿した。勿論もっちもちだ。


 オニオンスープの具は、これまたオニオンなのかどうかわからない庭の植物だけど、キサナが「スープにすると美味しいですワンワン!」って感じで言ってたから使ってみた。味見してみたがコンソメで全部ごまかされたのでどうでもいいかな。


 ちなみに兎の血をペロっと舐めてみたが、血っていうのは冷えると糞不味いんだな。死体の血はとても飲めたもんじゃないと理解した。


「し、失礼します」


 キサナは申し訳無さそうに俺の隣に腰掛ける。そんなキサナの前に置いてある皿には兎肉が山になっているが、俺の皿の上には数切れしかない。


 こっちのマナーとか貴族と従者の関係とかよくわかっていないが、使用人が主より多く肉を食べるってのがダメなことくらいは察する。


 だが、兎もどきを仕留めてきたのは彼女だし、人狼種ワーウルフ的に肉は不可欠だとも言っていた。もちろん俺が朝っぱらからこんなに肉を食えそうにないってのもある。つまりこれは俺が納得している配分なのだ。


「食べて食べて」

「は、はい」


 ここで俺はニコニコしながら悪巧みを実行する。


 それはキサナを【鑑定】して、自分のステータスと比較してみることだ。


 他人の情報を勝手に盗み見るので気が引けるが、すまないキサナ!


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 基本情報


【キサナ】

 種族:人狼種ワーウルフ

 肩書:エンレロッサの戦闘メイド

 年齢:18

 性別:女

 身長:163メテル

 体重:58キトン

 状態:健康

 ステータス:詳細はこちら

 スキル:詳細はこちら

 ―――

 ―――

 ―――

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 戦闘メイド?


 そ、それは後で本人から聞くとして、ステータスだ。詳細をポチッとな。


 おー。すべての白い棒グラフが、数値の書いていない目盛りの半分を超えている。


 つまりグラフの下の方に固まっている俺とは雲泥の差ってことだ。


 そっかぁ。俺、この子より弱いのかぁ……。


 そう考えると思わず苦笑いが出てしまう。ホント下等レッサー吸血鬼ヴァンパイアって激弱なんだなコンチキショウめ!


『君は弱いな! だが弱さを知っている者は強い!』


 空想上の友達イマジナリーフレンドの仮面男が言う。


 今のは主人公の主役ロボットとサシでバトルして優成だった時に言ったセリフで、その後ボコボコにされて逃げちゃうわけだが。


「御館様?」

「ん。なんでもないからたくさん食べて」

「はい! それで、あの、質問させて頂いてもよろしいでしょうか」

「どした?」

「御館様はヒュム種、でしょうか?」

「いや。俺はヴァンパイア種だよ」

「……? 大変失礼ながら聞き覚えがない御種族なのですね……。もしかしてヒュム種のどこかの部族名ですか?」

「いや、ヴァンパイアっていう種族だよ。ヒュム種じゃない。そして俺が始祖だって神様は言ってた」

「神様?」

「うん。ファルテイア様」

「キラウヨルグ神とお話なされたんですか!?」


 うわ、びっくりした。キサナちゃんが飛び上がる勢いで立ち上がったので怯んでしまった。


 あ。


 よく考えたら、今の俺のセリフって元の世界で例えたら「俺、キリストと話したし」とか言っちゃう痛い子だな。あまり正直に神様話するのは止めといたほうがいいかもしれない。いや、止めとこう……。


「この館の神聖な雰囲気といい、不思議な家財といい、御館様といい、もしや……神の使徒様なのでは!?」

「いやそんな使徒だなんて―――」


 いやまて。俺のステータスには「肩書」の項目があって、そこに


 神々の使徒

 (黄泉津大神)

 (キラウヨルグ神)


 としっかり書いてあった。しかもイザナミ様の使徒にもなってた。なんでここをスルーしてたんだろう俺。


 そっか。俺、使徒だったんだ。ジオフロントに行かなきゃ。


「え?」


 キサナが不思議そうな表情で俺の顔を覗き込んでくる。


「い、いや、こっちの話」


 昨夜の夕食時から思っていたけど、キサナも相当な美形だ。


 ファルテイア様が金髪碧眼のエロい系美女だとしたら、キサナはエロとは無縁な体育会系元気ハツラツ健康美少女って感じだ。


 少し茶色が入ったような赤毛。

 ピコピコ動く頭頂部の犬(狼)耳。

 パタパタ動く腰元から生えた犬(狼)尻尾。

 韓流アイドル顔負けの小顔。

 大きくてちょっと鋭い瞳。

 スラッと伸びた鼻梁。

 小さくてぷっくりした唇。

 小柄ではないけどメイド服でも隠せない腰の細さ。

 程よく揺れる胸元……これ絶対ブラジャーしてないよな。


 この世界の女性はみんな(地球で言うところの)いろんな国の美しい顔立ちを合体させたようなアニメ顔なの? ファルテイア様は神々しさとか系統はまるで違うけど、やっぱりこんな感じだったしなぁ。


 ……だとしたら今の俺の顔は一体どうなっているんだろう。


 腕の肌ツヤを見れば若返っているのは間違いないし、(鋭い犬歯はあるけれど)自分史上嘗てないほど歯並びもキレイになっていてるのもわかる。だけど! 自分の顔が! わかんない!


 この城に鏡がないのが辛い! あったとしても鏡に映らないからさらに辛い! 誰だよ、ヴァンパイアは鏡に映らないって設定考えた人は!


 しかし映画や物語の中の「俺が知っているヴァンパイア」と今の俺自身が同じなのかはわからない。自分の能力についても種族についても、ちゃんと把握しておかなければ!

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