第2話


 さ、ささ。さァ。さァ、イヤ、さァ。さァ、さァッ、さァ! 参る――


 ――のは、やめときやしょう。


 泣いたからすがもう笑う、それはよく聞く話なれど、死んだ鴉は泣いたきり。……目ェ、拭いなせェ。迷いのあるご依頼は、受けぬことにしておりやす。と申しますか、ちゃんと座ってて欲しかったンですがね。鼻でもかんで落ち着きゃ、金と刀持って帰ンなせェ。


――と、ン? 何ぞ、表が騒がし――ぅおッ! な、何です奥方、人の家に……と申すか誰……え? この? お客人の? 母君? 

 ちょ、母君、母君、叩かない、息子殿を叩かないで、落ち着きなすって落ち着きなすって、人んちの急須きゅうすで叩かない! ほらっもっ割れっ……ああもう!

 とにかく、落ち着きなすって……ほら、ご両人一度離れて、ゆっくり息を吸って――吐いて――はい吸って――あァ母君、急須きゅうすは片付けますよってお構いなく。よござンす、ほんとよござンすから。


 えェと、で? 母君は何故こちらに。息子殿の後をつけた、ふむ。え? えェま、大きな声じゃ申せませんがね、確かに人斬り稼業なぞしておりやす。

 ……は? もう一度申して下さい、何と? 金は払う? 息子殿を? 斬ってくれ?


 ちょ、母君、叩かない、息子殿を、叩かない、泣かないで母君話をちょっ、絞まってる絞まってるそれ息子殿の首絞まってる! 手ェ離しなすって、手! 

 何、つまり? 息子殿はロクにお勤めもなさらず? 病身と申して? 稽古も手習いもそこそこに、書画観劇に太刀の鑑賞、お好きな事ばかりで? はァこの穀潰ごくつぶしめが恥ずかしいと。いっそ斬って下さいましと。


 なるほどねェ、あァ息子殿、首の具合はどうで。え? そんなだからいっそ斬られて死のうと? そうでもしなきゃとんでもない道場に入らされる? あァ平山先生の。真貫流は厳しいですからな、内弟子ともなりゃァ生半可な性根じゃ務まらねェ。それで狂い死にするぐらいならいっそのこと、ってそりゃ大袈裟な。

 あァ母君母君、叩かないで! ちょ、痛ッ、何を投げて……勿体無い、銭をバラ撒かないで欲しいですがね。へ? あァ確かに、ひィふゥみィの、これだけありゃァお代金に足りまさァ。斬りますかい? 息子殿を、斬りますかい? ――良う候。

 しからば息子殿、せめてもの情け。ご自分のご依頼通り、白鴉にて、そっ首ィ斬って差し上げやしょう。いやさ、こりゃまた先とは別ですよって、止める理由もありゃしませんな。恨みはねェが、ささ、お覚悟。


さァ。さァ、イヤ、さァ。さァ、さァッ、さァ! 参る――

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