殺伐ラブコメ的一幕。


 おはようございます。木元です。最近バッタリ、幼馴染の男の子と会いました。


 古い付き合いの人に会うと、誰しも童心に帰りますね。私もつい懐かしくなって、話し方が子供の頃みたいになりました。あれ本当に不思議ですよね。話し方からガラリと変わってしまいます。当時に戻っている、と表すのが適切でしょうけれど。


 バッタリ会ったのは職場でした。私は職場では黙々と仕事をするタイプでして、手が空くとお喋りもしますが、基本的には次の仕事を探します。仮に山田太郎という後輩がいた場合、私は彼を山田君と呼びますし、何か渾名が付いていても山田君と呼びます。親しき中にも礼儀ありかなって。でもバッタリ会った幼馴染は子供の頃からの付き合いですから、太郎ちゃんって呼ぶんですね。それが周囲には、えらく新鮮に映るそうで。学生時代の友人も名前で呼ばないぐらい素っ気無い態度ですから、当然と言えば当然ですが。本当は素っ気無いんじゃなくて、照れて呼べないだけなんですけどね。訂正出来ないまま大人になってしまった。いやいいけど別に。


 幼稚園出る頃までは友達の事皆太郎ちゃんスタイルで呼んでたんですけれど、小学校に上がって何か出来なくなったんですよ。多分より多くの生徒と関わるようになって、そう親しくも無いのにいきなり太郎ちゃんスタイルは馴れ馴れしいだろうかと遠慮してしまって、その内幼馴染以外は苗字呼びで統一するようになり、気付けば苗字ですら呼ばないようになり。女の子からは何で木元さんって苗字で呼ぶのと頻りに名前呼びへの変更を求められる度に、恥ずかしいから出来なかったと言えなくなって現在に至りました。もう今頃言っても絶対にからかわれるし苗字で慣れてますから、どっちにしても言えませんけどね。生きててこれと言った後悔は思い付かないんですけれど、掘り返したらこうしたちっちゃい後悔みたいなものはチラホラ出て来ます。


 で、その幼馴染は太郎ちゃんスタイルで呼ぶ訳じゃないですか。久し振りだからテンションも上がるし。職場の人は目を丸くします。まあそれは過去にも何度かあるのでもういいんですが、幼馴染の隣に立っていた知らない女性がその瞬間、カッと目を見開いて私を睨んだんですよ。「何アンタ」みたいな、明らかな敵意の滲んだ目で。


 私怯えたな。一瞬表情が固まったかもしれません。でもその直後には、「何で太郎ちゃんと喋ってるだけで睨まれなきゃいけないんだよ。そもそも誰だお前」とムッとして、スルーして喋り続けました。何歳の頃からずっと一緒だったと思ってんだコラ。そしたらその女性、幼馴染の恋人だったっていう。だから向こうからすれば、偶然立ち寄った店で会った知らない店員が、突然彼氏に超馴れ馴れしく話しかけて来たって訳ですよ。あぁ、そりゃあ、怒るか……。いーや残念だったね。お前は太郎ちゃんとの未来は知れるが、太郎ちゃんの過去を知る事は出来ねえし、そこを私が知ってるって事実は変えらんねえから。彼女だか何だか知らねえけど幼馴染の絆嘗めんなよ。太郎ちゃんの学生時代とか絶対知りたいでしょ教えねえけどなァ!!


 ちゃんと幼馴染だって太郎ちゃんが紹介してくれたので、険悪な雰囲気にはなりませんでしたけどね。挨拶したら正体を知れて安心したのか、パッと笑顔になってくれましたし。愛想はいいが厄介そうな女だ……。と思いましたが、本人にも太郎ちゃんにも言いませんでした。声かけただけでそんな睨まなくてもよくない!? ビビったんだけど。何かラブコメとかでありそうなシーンですね。ラブコメに触れた事、あんまり無いんですけれど。ネタに使えそうかな。


 でも男の人が鈍感って本当ですね。私と恋人が一瞬睨み合ってたの、太郎ちゃん最後まで気付きませんでした。取り合えず睨まれたのが癪に障ったので笑顔で、「愛想のええ子やから仲ようしたって下さい」と、太郎ちゃん効果で訛りが強めに出てた台詞で幼馴染マウント取っておきました。負けねえ。幸せになれ。


 それでは今回はこの辺で。


 よい一日を。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る