第5話 冒険者証を作ろう
お腹がペコペコなオレは仕事というのをするために、冒険者ギルドという家にやって来ました。
するとリリアンさんがとりあえずご飯にしようと、嬉しい事を言ってくれて──
「リリアン、あんただから前借り許可したんだからね」
「分かってる、恩に着るよモニカ、一文無しで困ってたんだ」
「Aランクの冒険者が一文無しとか、どうせ旅先でまた騙されたんでしょ? ほんと馬鹿よね」
「その嫌味なメガネをクイッとさせて失礼なこと言うな! 幸せになる壺というのを買っただけだ、旅の途中で割っちゃったけど」
「それ、絶対に騙されているから……でもあのイケメンと出会えたのがそのご利益のおかげだとしたら、まんざら無駄じゃなかったかもね。と言うかっ! どこで拾ってきたのよ
「バカ、声が大きいぞ、だいたい拾ってきたとは何だ! コテツ殿を犬猫みたいに……」
リリアンさん、ネコではありませんがイヌで合っていますよ?
コソコソ話していても全部聴こえているんです。イヌは耳がいいんですよ。
てか、今のオレは聴こうと思えばさっきイジワルしてきた門衛さんの声も聴こえます。「デキるオス」をなめてはいけません!
では、試しに聴いてみましょう。
『──なあなあ、さっきリリアン居ただろ? へへ、ますますエロい身体になってきたと思わねえか? いや、こんな話聴かれたら本当にぶった斬られるか! ハハハ、あいつ剣の腕前だけは超一流だからなあ、性格は残念すぎるけど! ハハハハ──』
全く意味不明ですがリリアンさんの話をしているようですね。
「お待たせしましたコテツ殿、とりあえず食事にいたしましょう」
あ、ちょうどリリアンさんが戻って来ました。
「リリアンさんって、エロい身体で性格が残念な人なんですか?」
「ちょーッ!? な、なんですかいきなり! え、エロい身体って……そ、そりゃまあ、も、もうコテツ殿には全部見られてしまいましたが……いえ、べ、別にもっと見たいというならちょっと準備というか、せめて汗を流してからが……っていうか! 性格が残念というのはどういう意味──」
「なになに、何の話をしているの? ちょっとリリアン、私にも紹介してよ、このイケメンさん」
「え? やだ」
「なによそれ、あんた前借りさせてあげた恩をさっそく忘れたわけ?」
「チッ! まあ仕方ない、こちらはコテツ殿、武術の達人でいらっしゃる。そんでこのチャラい女はこの冒険者ギルドの受付嬢兼会計で、名前はモニカと言いますがすぐ忘れて下さい。コテツ殿は後でこいつにギルドの冒険者証を作ってもらいます」
「よろしくね、コテツさん」
このモニカさんもおともだちになってくれるのでしょうか? じゃあ股間の匂いを
でも、何かリリアンさんはモニカさんとは仲悪い感じ?
「はい、こちらこそよろしお願いしますモニカさん……」
とりあえずリリアンさんがモニカさんのことをどう思っているのかわかるまで、おともだちの儀式は保留にしておきましょうか。
「それでモニカ、他にもう用がないのならあっちいって」
「あらなによ、人を邪魔者にしないでよ、食事の注文をとりに来てあげたのに。コテツさんは何を召し上がりますの?」
おお? これはついにご飯ですか! ようやくご飯が食べられるんですか!
「肉をお願いします!」
「はい、焼肉定食ね、リリアンは?」
「
「はい、いつものトリプルチーズバーガー全部乗せとポテトフライ山盛りね」
「ちがーーうっ!」
トリプルチーズバーガー! 確かご主人様も大好きで顔を脂でギトギトにしながら美味しい美味しいって食べてました。
オレには一口もくれなかったけど。
「トリプルチーズバーガー、いちど食べてみたかったな……」
「あ、じゃあやっぱそれで」
だいぶご飯の時間が過ぎてしまったけど、ようやくありつけて嬉しいです。
リリアンさんはやっぱり口だけで食べようとするオレを怒ります。なので前足でフォークを使って頑張りました。
ご飯はとても美味しくて、特にトリプルチーズバーガーは最高でした! 口でそのまま食べられるのもいいですねっ。
でもご主人様のことを思い出して、また寂しくなってしまったです。早くご主人様を捜さなくちゃ。
ご飯のあと少ししてからオレはモニカさんに呼ばれ、メガネをクイッとさせながら色々と質問をされました。
「えーと、コテツは名前で名字は無しと。年齢も判らずか、じゃあ二十歳にしておきますわね」
「はい!」
モニカさんが冒険者証というのをオレのために作ってくれています。
多分これは保健所の登録証みたいなものでしょう。ご主人様がオレに作ってくれたのを覚えています。
野良は貰えないものなので何だか誇らしいです。
「ではっと、冒険者としての職種は何にしましょうか?」
「イヌ──」
「わーっ、わーっ、わーっ!」
リリアンさんが突然奇声をあげました。この人ほんとに大丈夫でしょうか?
「なによ、リリアン……」
「い、いや、職種は武術の達人なので、そう、武闘家でお願いする」
「……コテツさん、それでいいですか?」
「はい!」
「あとは、性別は男で人間族っと」
「違います、性別はオスでイヌ族です。もっと言うなら柴イヌ族です」
失礼な人です。誰が人間だと言うのでしょう? どう見てもイヌです。しかも人気ナンバーワンの柴イヌです!
あ、でもいまは病気なので人間に見えているのでした……
「え? リリアン? コテツさんって獣人なの?」
「いや、人間のはずだけど……」
「あんた、まだコテツさんの裸を見てないわけ!? あっ、着衣のまましたとか?」
「ば、ばっ、馬鹿っ! ま、まだ私は乙女だ、何もしてはいない!……あ、いや、正確には放置中なわけだけど……」
何やら問題が発生したようです。もしかしてオレのハダカを見たいということなのでしょうか?
「あの、よかったらここでハダカになりましょうか? オレもこの服を着つづけているのはいいかげん窮屈なんで」
「いいんですか!?」
モニカさん、とっても嬉しそうです。
「だめーっ! そ、そんなの駄目だっ!」
「えーっ、ケチっ! なによリリアン、減るもんじゃないんだからいいじゃない」
「うるさいっ、変態女っ!」
「じゃあ仕方ないから二人きりにしてあげるんで確認してきてよ。でも確認するだけだからね?」
「うっ、う、うん、まあ、それならいいかな……もちろん確認するだけだ!」
リリアンさんの顔が赤……いやもういいです。
「二階の応接室が空いているから、ちゃちゃっと済ませちゃって。でも、もし二人で盛り上がっちゃってドキドキプレイを始めるようなら……」
「は、始めるわけないだろっ、モニカの馬鹿っ!」
「あら、始めないの? 始めるなら私も仲間に入れて欲しかったのになあ。だけどほんとコテツさんってイケメンよねえ、黒目がちで切れ長の目、筋の通った鼻、キリッとしてちょっと口角の上がった口、高い身長に分厚い胸板……ああっ、たまらんッ!」
「も、もう黙れっ! さあコテツ殿、変態女は無視して行きましょう!」
オレはリリアンさんと一緒に二階の応接室というところに入りました。
やれやれ、オレもようやくこの窮屈な服を脱ぐことが出来そうです。
「ではリリアンさん、お願いします」
「はい?」
「脱がせてください」
「はいぃぃぃい??」
「脱がせてくれないんですか?」
「じ、自分で脱いで下さいっ!」
リリアンさんはイジワルです。そんなことイヌのオレが出来るわけないのに。
ご主人様が着せてくれた服がキライで何度も脱ごうとしたけれど、一度も自力で脱げたことなんてなかったですし人間の身体なら尚更です!
「無理です、一人で脱いだことないです、イジワルしないでください」
「そ、そんな、イジワルだなんて……え、でも……脱がせば裸になるわけで……いやいやそんなの絶対無理っ!」
そうですか……仕方ないのでオレは自分で服を脱いでみました。そしたら小川で脱ごうとした時よりも前足が上手に動いてくれて、時間はかかりましたが一人で全部脱げたんです!
「リリアンさん! 見てください! ハダカになれました!」
「よ、良かったですね……」
「こっちを向いて見てください!」
「はい……」
「見ないとオレがイヌだってわからないですよ?」
「はい……じゃ、じゃあ後ろを向いていてくださいね、獣人の特徴は背中側に多く表れるんで……」
「わかりました!」
オレはこの際に少しでも柴イヌの身体が残っていないか、リリアンさんにじっくりと観察してもらうつもりです。
「では…………チラッ……ってぇ!! 何で正面向いて仁王だちしているんですかっ!? あわわわっ、見てしまった見てしまった、初めて見てしまったッ! コテツ殿のウソつきぃ! 見ちゃったじゃないですかあーっ」
「むろん見て貰わないと困ります! オレの身体の隅から隅までよく見てください、どうですか? 柴イヌらしい部分は残っていますかっ?」
「やめてーっ! ブラブラさせながら顔に近づけないでえーっ! 心の準備が出来てからにしてえーっ!」
「やめません、やめませんともっ! お願いですよく見てくださいっ、オレにとってとても大切なことなんですッ!」
「見ますっ! ちゃんと見ますから顔に近づけないで下さいっ、このままだと私の理性がーッ!」
リリアンさんは何故か息を荒くしながら、オレの身体を見てくれました。
体毛や尻尾などがほんの少しでも残ってくれているようにと、オレは祈るような気持ちでいたのですが……
「ハアハア……どうやらコテツ殿は人間で間違いないようですね……」
「そんな……本当に柴イヌの身体は残っていませんか?」
「はい、人間の男性として非常にご立派だと思います……ハアハア」
何て残酷な現実でしょうか。オレの身体は完全に人間になってしまったのでした。
「柴イヌの身体に戻りたい……こんな病気イヤです! 早く病気を治したいですっ!」
「えっ! コテツ殿は何か病を
心配そうに見つめて訊いてくるリリアンさんにオレは頷き、そして答えました。
「はい、人間の身体になってしまう病気です」と……
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