第8話: 宿泊先にて、極黒魔術師が打ち解ける

俺はアビミャーという男だ。

フルネームでいうとアビミャー・ゴラム・ナフィズールなのだが、俺にはもっと重要な呼び名がある。

人は俺をこう呼んでいる。

【極黒天魔英】という通称だ。


今、静野という友人のはずだった女に刺殺された後に転生させられた俺は、とても深くて長いような眠りから覚めたような感覚も覚えたんだけど、

次にはこの異国の地で二人の女の子と一緒の屋根の下で一夜を.....ってか、誤解を招くようなことを言いそうになる前に訂正するけど、正確にいうと彼女達と共

に宿屋で一夜を過ごすことになる。


まあ、詳細的に付け加えると、同じ屋根の下といっても別々の部屋で寝るのだけどな。そして、もっとも重要なの食事だ。

俺の発明した【素材創作魔法(モルネンテ)】はただ無機物な素材の生産で服や装備等に使ったりする便利な魔法なんだけど、身体の栄養になるようなタンパク質や

炭水化物は作れないしな。なので、魔術師達にも普通に食べ物の摂取は不可欠なものだ。


「はむはむ~はむはむ~」

「お嬢様、もっと緩やかに咀嚼してから呑み込むんですよ。そんな急いでるように食べてるとお行儀悪く見えますから」

よっぽどお腹ペコペコなのか、貪欲な食べっぷりを見せている金持ちのお嬢様であるポーリンヌ。

宿屋に入ってから、、俺達は風呂に入ったり、自室にて少しの独り時間で休憩してきたりしたといった様々な私的行為をしてから、壁に備え付けられている時計を見た。

準備とかを済ませると、時刻が午後の7:00時に差し迫るころには既に新しい服装に変えて彼女達と一緒の夜食を取るために宿屋のダイニングホールへと向かった。今、

ポーリンヌのガツガツとした食べっぷりに対してはしたないと思っているであろうロザが彼女に注意しているところ。


「はむ~もう!ロザリーンってば!わたくしの食事タイムに水を差さないで下さいまし!このステーキ、超上手すぎるのがいけないだけですわ!」

と、そんな会話を交わす二人を見てるとほっこりするけど、俺はここで彼女達に対して、すべてを話さなきゃいけなくなるんだが、今から覚悟しておいた方がよさそうだな。

目覚めてあの光の柱から降りてきた俺は様々な疑問に思う事や不明な点をいっぱい発見してきたんだけど、どうやらよく考えてみると、『魔道歴300年』という単語を口にした彼女達は一番で頭に引っかかることだ。


その単語から察するに、おそらく、今の俺に置かれた状況は...普通の蘇生魔法による現象ではなく..その...あれだ。

要するに、何が言いたいのかというと、俺がこうして生きているこの今の世界は、静野に刺された『黄金歴150年』だった年とは300年も遥か遠い未来かなにかと推測

することもできた。俺の開発した【シノマル】は確かに対象の人間を死から蘇らせられる効果を持っているんだが、仮に静野が俺にそれを施していても、すぐにその場で

生き返ったはずだ。

それが無しでこんな訳の分からない砂漠国へ転移させられたとなると、

未来の世界へ転生してしまったと仮定するのも説得力が高いだろう。


だが、心の底でそれをずっと否定してきたからあまりその結論を考えたくもなかったんだ。


「では、ミルファンさん、貴方もお嬢様も食事を済ませたようですし、他のお客がいない私達の部屋で話し合いましょうね?もう午後8:10時ですから」

「部屋といっても、どこの部屋で?俺達、3名3室でこの宿屋のマスターへ支払いを済ませたんだよね?誰のー」

「当然わたくしの部屋でするんですわー!何を隠そう、このわたくしからのお膳立てでお金を出したんですもの」

まあ、そうなるか。彼女の言ったとおりに、俺達が全員ここで一夜を過ごせるのも彼女の財力あってのことだしな。

支払いを済ませた彼女自身の部屋へ行くのはマナーというものなんだよね。


「では、夜がまだ深くならない内に、早速いきましょう。淑女たる者、いつも決まった時に寝起きするべし。メイド教訓、その第3節にてそう定められましたから」

と、何やら痛いことをすらっと言ってのけたロザリーンに倣って、俺達は彼女の後に続いて、ポーリンヌの部屋へと向かうべく上へと行くための階段を昇っていくのだった。


........................

.............


「さて、どこから始めようかな...」

「まずは貴方の出身地と生まれの国からがいいですね。そうすると自然と肌色の謎も解けますし」

「そして、続いていけばあなたがなぜそのような桁外れな魔力を有するようになったか納得いく情報も聞けますわよね」

それもそうか。じゃ、始めるぞ。【室内用防音魔法(ケレモス)】もかけたので外からの盗み聞きは不可能だ。もちろん、盗聴器の存在があっても意味なくした

ように俺が【連絡と聴取用機器完全遮断(ゼム)】や【不利益可能機器絶対破壊(ルズヲール)】を両方も念じたので、安全に正体を明かせる環境が整った。


「俺は、各地で有名のはずの人物なのだが、あんた達が俺の顔を見てもなんとも思わないのを見ると、そうとは認知されないみたいだな」

「有名人物?貴方が?」

「そうだよ。じゃ、自己紹介しよう。俺の本名はアビミャーだ。アビミャー・ゴラム・ナフィズールだ。これを聞いてもなんとかピンとしてこないかな?」

「アビミャー、ですね?本名と聞いてなんかそれっぽい響きを感じますわね。あなたがそれほどの魔力を使えてもしっくりくるような名前ですわ」

「でも、やはり聞いたことがありませんね。私もお嬢様の付き人として、学園にも通っている同じ3年生の同い年なんですが、生憎と長いこと教科書を読んだり

授業を受けたりしてきてもまったく出てこないんですね。貴方のような人物の名前が」


ふむ。これはどういうことだ。なら、


「念のために聞くけど、この世界は【リアーバッス】と呼ばれてるんだよね?」

「そうですが、なぜそれを聞きますの?」

「【極黒天魔英】という呼び名に、心当たりはあるか?」

これはかけだ。もしこんな人気のはずの名称を聞いても知らないというのなら、俺が未来へ転生してしまったということになる。

さあ、どう出るんだ?


「いいえ、まったく聞いたことがありませんわね。何かの重要人物なんですの?」

「私もその名称について耳にしたことがありません」

「ーーー!?」


もう明白だな、これ。

各国で転々と暮らしてきた俺だったんで、その過程で色んな奴と巡り会って、色んな魔道具の開発にも手伝った。特に、俺が活動拠点としてもっとも行き来の多い

【モルトレーユ・ファレー】は活躍した回数も頻繁だった。あの大陸の人間であると言ってきたあんた達なら、それを知らないとなると、


「しょうがないな。じゃ、改めて言うけど聞いているが良い。俺は【極黒天魔英アビミャー】だ。たくさんの国にて、色んな活躍を続けてきた、いわゆる『人気者の魔術師』だ。

時には魔物討伐を引き受けたり、時には魔道具開発に携わったりしてきた、正真正銘なヒーローみたいな存在だよ」

さあ、どう出るんだい、今度はー


「ぷー!」

「えー?」


「ぷはははぁはぁーー!!何それー!?意味わからないんですけれど~~?ふはひひ~~」

「ふふふ....どうやら私達が変人、アビミャーさんは可愛いところも備わってるじゃないですか~。その、妄想癖のところだけは」


ポーリンヌのやつ、涙まで出てきちゃいそう笑い出したんだけど、一体どういうことだよ、おい!

おい、おい、なにバカにされてんだよ、俺!?

これは世が世なら、当たり前すぎる事実なのに、全く知らないとはー


「まあ、まあ、お嬢様、もうちょっと落ち着いて考えてみて下さいね。彼、本気に言ってますよ?多分、それが彼にとっての『事実』なんでしょう。たとえ私達には聞いたことのない話でも」

「それは『頭の中だけの事実』の違いではなくって~~?ぷはははあぁははあ~~!」


むー! もう怒ったよ、俺。

「もうー!なにもそこまで笑うことないじゃないかよ、ポーリンヌー!本当のこと言ってるんだからさ、信じてくれよな~。俺がすごい魔法使いなの前にもいっぱい見てきたんだろう?だから、それらすべてが俺が英雄的存在だからだっていう説明も頷ける話なんだろう?なあー!?」


と、主張を諦めない俺に、

「わ、わかりましたから、分かりましたから!『脳内英雄さん』~~!仮に事実としましょう。あなたが自分が言ったようにたくさん活躍してきたマギカリアンなら、本なり新聞なり記録動画なりであなたが本当にそうであったという証拠を見せてくださればいいだけですわー!」

「しょ、証拠か...それなら、あるぞ?」


と、瞬時に思い出した俺は、【イルメメフョン(異空間格魔法)】を念じて出現した魔法陣から【魔道盤(ゼルン)】を取り出して、前にとってある動画を見せつける

「これだ!」

【魔道盤(ゼルン)】は俺が発明した動画を取る機器で、技術としては最先端と言えるが、この二人ならまだ見たこともなさそう。


「あら?これは【映像記録魔具(シュライーツアー)】なんですわよね?何故か古びた分厚いデザインをしているようですけれど、それで何か動画でも保存してありますの?」

と、彼女の質問に答えるように、ボタンを押した。


ビズー!ビズズズー!!

機械的な音を鳴らしながら、ずずと中心にある画面が光ってるかと思うと、次には靄が晴れていくように映像が映し出されている。


「おい、この【放送用大塔(リモン)】をここで設置しろと言ったんだろうがー!なぜそこで建てようとするんだおらー!」

音声も伴うその動く画像は、鮮明に一団の男性働き手を映し出している模様だ。


「まあ、まあ、人間は誰でも間違いを起こすだろうし、今回は一度だけの過ちみたいだし俺に免じて今だけは彼らのことを許してやってくれないかな?」

さっきと野太い怒鳴り声と違って、澄んだ爽やかな男性の声が聞こえてきた。


「ああー!これはこれは【極黒天魔英アビミャー・ゴラム・ナフィズール】なのではありませんか!ようこそ我々の放送局本部へお越し頂きました!」

大柄で荒々しい男の彼でさえ、向かってくる極黒肌の男に対しては媚を売るような畏まった敬語で接するしかないようだ。


そう。その爽やかな声を出している極黒肌の男こそ極黒天魔英アビミャーこと俺だ。


それから、何分かその場で画像の俺はてきぱきと本場での【放送用大塔(リモン)】設置に手伝ったり、改善点を出したりしてと色々忙しい様子が流れていく。

この動画こそ、俺が15歳の頃にちょっとだけ【エルブレーズ帝国】に滞在していた期間に撮っていた映像だ。アールベルト皇帝が市民への情報伝達がし易くするために、俺にリモンの設置を依頼してきた件が始まりでこういう仕事を引き受けたんだ。


と、画面に食い入るように見る二人に、

「これでもう分かったんだね?俺の言葉が真実だという事」


「「..........」」

どうやら声も出さずにいるほど唖然としてしまっているようだ。


.......................

...........


数分後、二人がやっと見せてもらった画像の内容を呑み込めたように見えると、


「で、では、先ほどのアビミャーさんの言っていたことがほ、....本当....のことなんですね?」

沈黙を破ったのはロザリーンの方だ。


「うん。これで分かったんだろう?極黒天魔英アビミャーである俺は国際的な有名人物として知られる規格外な魔法使いだということを。そして複数の国へ行き来して

きたり依頼などを引き受けたりしてきたことでみんなの生活改善を政治的関係なしで平等に手伝っていたのを」


「ど、どんだけお人良しになれば気が済むんですのー!?と...言ってあげたいところなんですけれど、あなたの誠意と真摯な心だけは本物であると認めたくもないですわね」

「極黒天魔英アビミャーですかぁ....なる程ですね。これですべての疑問が解消されたと言っても過言ではなさそうですね。なぜ一々のことに対しても無知すぎるとか、

魔法の威力がなぜあんなにデタラメすぎるとか、やっと納得できました」

「この動画で交わされている会話から察するに、【エルブレーズ帝国】か何かっていう国で起きている現場なんですわね?でも、その国名は本好きのロザリーンでさえ

聞いたことがなさそうな国ですし、多分いまのわたくし達の世界に存在するかどうかさえあやしいぐらいですわよね....」

「となりますと、アビミャーさん。貴方は未来か過去かのどちらかの別の遥かな時代に、現代に転移もしくは召喚させられてきた者であると仮定する他ないんですけど、

実際にそうなんですか?」


ロザに真剣な表情で問われている俺は迷わず、


「ああ....俺は【黄金歴150年】からやってきた、ゼンルーガー王国が出身国の者だ。ちなみに、【ゼンルーガー王国】というのは、カルタグール大陸にあった中規模の国家だ」


重荷が肩からやっと降ろされた気分になった俺は、気が抜けてきたように、深~~く息を吐きだして顔筋も弛緩してようやく解放されたなっていうカタルシス効果を感じたのだった。


やはり、『百聞は一見に如かず』なので、俺がこの動画を録画しておいてよかったなぁ。

これでやっと信じてもらえたし、だから証拠となれる物の存在が如何に大事か、つくづく思い知らされた経験にはなるんだよね....


...................................

...........


一方、その時に話し合うをする途中の彼らに、

とある家屋の屋根にて.......



「どうやらついに降臨してきたな、あいつ!『あの方』に教えてもらった情報、本当だったな!」

「そのようね~。どうする?彼をお前だけに任せる?それとも、やっぱりあたしも参戦~?一日ごとに誰かひとりでも殺っちゃわないとそわそわしちゃうのよねぇ~あたし~~」

「いや、お前の手出しは無用だ。何があっても、あいつはこの僕の手だけで殺さなきゃいけないんだから」

「そう...まあ、好きにしろよね~、ベン君。たまにはただ観戦するだけでも楽しいし、楽だよねぇ~~」


暗闇にて、一組の男女がなにやら物騒なことを口にしながら、離れたところにある真っすぐの方向にある宿屋へと視線を向けている。

高身長の男の声は憎悪が積もったような響きを感じるのに対し、小柄な女の方は気楽でのんきな雰囲気だけを感じさせる。

どっちもローブや仮面を被っていて、正体を特定できないようになっているのだ。


「絶対に許さない...人殺しの極黒魔導士めー!」

鋭い恨みのこもった視線だけが、この夜の屋根に佇んでいる男の動機をもっとも物語る印象に見える。


だが、上には上がある。

屋根の上で姿を忍んでいるつもりの二人でも、彼らより忍びに長ける一人の娘に様子を窺われている最中とも知らずに........

....................

........

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