第7話: 【アール・バルクハー】へようこそ

キーーーーーーーーン!

耳の奥まで響いていくような鈴音と共に、眩い光を伴ってここの砂岩の丘みたいなところに瞬間移動した俺達。

【転移魔法(アグルタール)】は術者と術者の身体に触れるすべてのものを術者の望む通りの場所へ一瞬で移動することのできる魔法だ。


「魔法解除」

それだけいうと、ポーリンヌとロザリーンの催眠状態を解く。


「ですので、わたくし達は絶対にあなたの手ーん?」

「ここはー!?」


周囲の景色が変わったことに驚いた二人。

きょろきょろと辺りを見渡している彼女達が俺から前に出て、縁に近づいていくとやっとこの丘の下にある、あそこの方面に広がっていく町を目にした。


砂色と灰色の建物が両方混じって建てられているその小規模の町の存在に気付くとー


「なー!あそこはー町!?」

「そう。ここはあんた達の目指していた、【アール・バルカハー】という町だよ」

「この前は砂の海ばかりの大砂漠の真っただ中でしたし、いきなりこんなところに移動したとなるとー」


真下にある町を確認した二人は少しだけ動揺したら、今度は予定調和のようにまたも俺の方に振り向いた。


「もう驚く方が疲れてくるみたいですね」

「ミルファンさん....あなたって一体ー?話し合いの途中でしたのにいきなり別の場所に移動させられて....あなたが何かしましたわよねー!?」


「ああ。そうだ。【転移魔法(アグルタール)】で俺達をここに転移してきたんだ。本来、この魔法は術者と一緒に転移したい場所へ連れて行くのには身体の一部の接触が

不可欠だだったが、そこは俺の魔力量でもってごり押ししたから不必要となったんだ」

催眠魔法については伏せておく。動機や目的はどうあれ、俺が実際にそれを彼女達に使ったのを知られると、すごい恨まれてそうだよな...

なので、なるべく女の怒りは買わざるべし。


「そうだとしても無許可でするものではないと思うんですけれど...」

「まったくですわー!レディーのわたくし達をなんだと思いますの~?常識なさすぎですわー!」

好きに言ってろ。俺がこうしたんだから、無駄にあんた達の手間を取らせるような飛行経路でここへ飛ばなくて済むし、なにせもう歩いたりしてくる必要もなくなったから

少しはありがたみっていうのをもうちょっと、な!


「でも、彼の計らいで超短い間だけでこの町に着けるのも事実なので、そこだけは感謝でもしましょう、お嬢様」

「.....ま、ああ、それはごもっともですわ!そこだけは評価してあげなくもないですわね!では、ミルファンさんー!」

「は、はい?」

びしっと人差し指を俺の鼻先まで持っていくと、


「あなた、やっぱり謎の多い男性なんですけれど、もしあなたがわたくし達の前に現れなかったら、きっとまだあの砂漠の中でずるずると足を動かして【冷却魔法】の

連続発動や【イルメメフョン(異空間格魔法)】で保存してきた水と様々な飲み物に頼ったばかりで未だに到着しないままでいるのに違いありませんわね!」

またも早口スタイルか、お嬢様よ!


「ですから、あなたのおかげで......わたくし達がこうして楽に着けると言いますの。な、なので、その.....ありーカぁ゙......とぉ..」

はい?急に声が小さなくなってるんだけど、なんか言ったかな?

「お嬢様、親しい仲にも礼儀あり、でしょう? なので、知り合いになったばかりの彼となら、尚更しっかりと礼節や道徳に基づいて、やるべき行動をびしっとやるんですよー!」

と、ロザリーンにそう言われ、ほんのりと頬を赤色に染めたポーリンヌは一瞬、むっとしたり、恥ずかしげな表情となったりしたが、


「あ、ありがとう、ですわ!わたくし達をこの町の眼前までに連れて行ってもらえて、本当にありがとうございましたわー!はぁ..はぁ...これでいい?もういいんですわよね、

ミルファンさん!ロザリーン!」

半ば自棄になった彼女は俺達にそう聞いてきたので、俺とロザリーンは互いに目線を合わせ、そしてなんとなく、俺もメイドの方も笑みを浮かべて、


「ええ!社会地位が下の相手だったり、俺のように揉め事の多い奴に向かってでも然るべき時に感謝の意を怠らずに済むとは良いお嬢様のようで偉いぞ、あんた!」

「ミルファンさんには同感しかありませんね。よし、お嬢様、礼節をわきまえてちゃんとお礼を述べて下さったご褒美ー」


と、今度はどうしてなのか、いきなりロザリーンがポーリンヌの方へと近づくとー

「えいー!」

「むふー!?」


強い握力で全身をその華奢に見える両腕で抱きしめていった!

「よし、よし、これだから私のお嬢様、ポーリンヌ・フォン・エールゲラリアーの側にお仕えすることができる私は幸せものですね~!それー!」

ぎゅっとー


「ろーむふ!くるじィィー!むふ!」

と、より強い力で彼女を抱擁したようだけど、ポーリンヌ...大丈夫かな?

目が点になりかけてるし、口元もすこしだけ泡が浮かびそうになっちゃったし.....

ち、窒息死したりしないよね、さすがに...


..................

......


と、あれから色々準備してきた俺達は、今は【アール・バルカハ】って町の街並みの中の道路に歩を進めていく最中。

【転移魔法(アグルタール)】はマジで便利な魔法なんだよね。

この魔法には安全措置がつけられていて、どんな生物が10メートルの範囲内にいる転移先へは決して移動させたりはしない。

だから、周囲に誰一人もいないところで転移してくれるんだよ。あそこの砂丘で。


「じゃ、俺のことについてもっと聞きたいんだろう?なら、どこか落ち着けるところで全部を打ち明けたいと思ってるんだけど、まずは俺達3人が泊められるような

宿泊屋とかを探して、一泊で過ごすのはどう?」

「賛成ですね。お嬢様もいいでしょうか?」

「ええ、もちろんですわ。でも、賢いあなたならもう既に理解していることなんですけれど、わたくし達が過ごすことになる部屋は男女別々ですからねー!いい~?」

「言わずもがな、ポーリンヌ。そんなことくらい、分かってるって」

「本当だか知りませんもの!だって、めっちゃくちゃすごい魔法使いまくりましたから常識も一般マギカリアンと違わないか心配ですもの~! ふーん、です!」

と、またも歩きながらそっぽを向いて拗ねたようにいったポーリンヌなんだけど、それを無視して、辺りを見渡してみる。


あの丘から見下ろした通りに、この町は灰色と砂色の建物がほとんどで、如何にも『ザ・砂漠』って感じの町であるということを物語っているようだ。

実は、この町は魔物から「彼らいわく、『魔生物』って呼ばれたんだが」の襲撃を防ぐために、城壁みたいなのを全方位から囲んでいて、出入り口のところには

警備員とそれらの局部となっている地点が配置されてる。


よって、町へと入っていく新入りさんの素性を確かめるために、個人特定証明書の登録が必要となったんだが、もう既にサインしてきたんだ。

5分とかからなかったんで、俺は自分の本当の魔力量を相手に観測されないような隠蔽魔術も行使した。ポーリンヌとロザリーンについては、

彼女達が【カンテラ】なんとかって国からの外交代表としてこの国へと訪問する旨を伝えた。その過程で俺という傭兵を雇ってきたって話になってるんで、それを聞いた

警備員達も納得した顔でなるほどなるほどって頷いていただけである。


もちろん、お二人には俺のことを黙った替わりにに、泊まる予定であろう宿屋などにて俺に関するすべての情報を正直に話すと約束したんだがな。

まあ、彼女達も賢いようで、騒ぎを起こしたくないみたいだから、最初からそのつもりはないと言ってきたんだが、念のためそう約束したんだけど。

なにせ、いずれ話すと決めたんだからな。でも、気のせいか、この町って警備する兵士だけがしっかりしてるのに中へ入るとあまり駐屯してる兵はいないように見える。

よほど辺境の中の辺境町なんだね。だから、あまり兵力を置かずともすべての揉め事解決と魔物退治をこの少数の警備員と傭兵や冒険者ギルドに任せられるだろう。


今、俺達の歩いている道路の左右には物を売っている道端の販売店とか露店があって、それらの主は「どうぞどうぞーお一目下さい!」「いいもんがいっぱいで、

寄ってこないか、兄ちゃん、姉ちゃんー!」


所狭しと並べられているそこらの屋台やら床で商品を展示中の販売スポットは大半がなんらかの4本の細長い木造のロッドで掲げられている分厚い布が

頭の上を天井で覆っていて、強い太陽光の影響をなくしたいって措置が施されているようだ。心なし、みんなが不思議な目でこちらを見ている気がするんだけど、

たぶん、俺の見ないような極黒の肌色とこいつらの超珍しい真っ白い肌やポーリンヌの目立つ服装が原因なんだろうなぁ...。なにせ、ここのみんなは様々の程度の色素はあるにせよ、大体はみんな褐色だしな。薄い方か濃い方かに分かれるんだけど、少なくとも俺ら3人みたいな極端な例は他にいないだろう、この町で。だから、珍妙なものでも見てる気分になったって不思議じゃあるまい。


正反対な肌を持つ俺達なんだけど、地元民からすれば俺らすべては等しく【外国人】であり、肌色も彼らにないような珍しい動物か何かと思ってじろじろ見てくるんだろうな。なにせ、ここはあまり外国からの観光客とか来なさそうだしな。


「結構いろんな物が売ってあるんだな」

「本当ですわね!ここはゾールファン砂漠との境界線に位置する『辺境町』と聞いたんですが、もっと貧しいイメージかと思ってましたの」

「でも、実際にはそこまでって感じでもありませんしね」

「ええ、まったくですわ!辺境に住む民を放置して首都や港町だけ裕福にしたんでしょうという偏見を持ってきましたが、これは意外ですわ。まあ、このわたくしが話し合う

予定であるマーレック第二王子が如何に自国に対して手抜きはしないタイプかを証明してますわよね」

と、謎な自慢顔な表情となってる俺らが口達者な金髪嬢ちゃん、ポーリンヌに何か言おうとすると、


「あんたー」

「あんたあんたってさっきから五月蠅いですわよー?名前で呼んで下さる?たまに」

そうだ。彼女だってれっきとした貴族家の出の娘だ。

どこかの馬の骨とも知らずな化け物クラス魔術師に、あんた呼ばわりばっかされて気分がいいはずがないってのも分かる。


「じゃ、ポーリンヌとロザリーンの国はどうなのか、その...カンテラとかって王国にー」

「「カンテルベルック王国ですわ(ですっ!)」」

揃えってそう訂正してくるお二人。その素早い指摘に、よほど愛国心の強い子たちだなって感心しながら納得する。


「じゃ、お二人の【カンテルベルック王国】って国はどんな国なの?聞いたことないけど、気になるよね」

「また知らないというんですの?まあ、もう慣れてきたつもりなのでもういいですわ~。北が砂漠の地獄で隔てられている【イラム国】の存在も知らなかったと

言いましたし、【モルトレーユ・ファレー】においても中規模の国にもなれない小国留まりのわたくし達の国を知らないって言うのも驚きませんわね...」

「それより、質問をー」

俺の無知っぷりはもう関係ないだろうにといつも言ってるのにな....


「では、お嬢様に代えて私から説明するのはどうでしょう?宿泊屋を探しながら小話程度として聞いていいですよ」

と、周囲への見回しと道行く人への注意を怠らずに、彼女の方に耳を傾けてみよう。

「【大3栄強国】のことは...貴方の今までの言動から察すると...やっぱり先に教えなくてはなりませんね。では、一応聞いておきますけど、【大3栄強国】のことは

相変わらず何も知らないでいいんですよね?」

「ああ、何も知らないさ」

「では、【モルトレーユ・ファレー】大陸において、それらはその大地で栄えてきたもっとも経済力と国力がデカいトップ3か国の国々ということです」

ん?【エルブレーズ帝国】じゃなかった?【モルトレーユ・ファレー】のたった一つの大国って。確かに、他には【ケネッス王国】とか【チールドリッヒー聖徒国】といった中規模ながら

も帝国の侵略を足止めしてきた唯一の地域的強国もあるが、【大3栄強国】って呼ばれる国はどこにもないはず。まあ、とりあえず最後まで聞こう。


「その三つの国とは、【レネティーエネッス帝国】、【カールティングハム王国】、そして【シュワルーツハイム聖道国】です。現在、私達の【カンテルベルック王国】は、

最北のゲルリーアズ海に面している国で、海岸沿いもあって港町もいくつか盛んなところも有する国なんですが....」

「生憎と、位置が位置なだけに、【レネティーエネッス帝国】や【シュワルーツハイム聖道国】との間に使われる『緩衝国』だけに成り下がったんですね、我々の国は...」

と、そう続いたポーリンヌは悔し気な悲し気なような表情となり、なんか落ち込んだ様子なんだが、


「今回の外交任務も、それ関連についての助力とかをこの【イラム王国】へお願いする立場なんですがー」

「ああ!それ!見つけましたわよ、宿屋が!」

「どれどれ」

と、興奮しながらあそこへ指さしているポーリンヌの見てる先を辿ってるみると、


「ほう!本当だな!よし、話の続きは後にしてくれよな。まずは飯だメシだぞーふふほおー!!」

「わたくしも体中が汗でべとべとするわ服装も汚れてるわで、早くお風呂に入りたいですし、早速いきましょうよ~~~、ロザリーン~!」

「え、ええー。わ、分かりますよ、お嬢様。では、」

「うん!」

「~~はいですわ~~!」


と、揃って上機嫌になった俺達3人は、足早にとあの赤色のデカい看板が掲げられている建物へと歩き出した。

ベッドの絵が一緒に乗せられているあの『宿屋』らしき大きな建物へと満面な笑顔で足を進めていきながらも周囲への注意も怠らずに。ぶつかりたくないからな、道行く人と

どうやら、屋根にはドーム状になっていて、そしてその下の最上階っぽいところには窓がいくつかもあるようだ。宿泊できる部屋に備え付けられている窓みたいだ。

この方面から見ると、8個の窓が備わっているので一部屋に一個の窓がある計算に見える。

もしかして一部屋が狭いのかもしれないから、女性専用として支払いしたい部屋にはロザリーンとポーリンヌ二人は一緒に詰め込めないようだ。


じゃ、早速行こう。


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