第6話: 魔物退治。そして町へ。

「グウオオオオオオーーーー!!」

野太い咆哮を上げる角の巨人....確か...『シラーズ級』の魔物である【テノブブラーハムス】だっけ?

死ぬ前に戦っていた『アルグリーズ級』の群れより一段階と弱い魔物ではあるが、そうそう現れるものではないはず。

となると、押さえつけてはいるんだけどそれでも微力ながら漏れ出ている俺の【魔力の匂い】に引かれ近づいてきたんだろう。


「お嬢様ーー!!ここは私が引き受けておりますのでどうか全力でお逃げくださいー!【アルグリーズ級】が登場してますよーー!!」

ん?俺の戦闘態勢を無視して急に前に出ていこうとするロザリーンはそんなこと叫んだようだけど、【アルグリーズ級】ってどういう意味だよー?

目の前の魔物は明らかにそれより一段級も弱い『シラーズ級』だろうが。


「でもー!ロザを置いて逃げるだなんて~~!わたくしには出来ませんわー!ここは連携してそれー」

「駄目ですー!いくらお嬢様が学園一のマギカリアンとはいえ、【アルグリーズ級】のこれはまだ倒せる実力を得ていないのです!そう!貴方ー!ミルファンさん!」

「俺?」

「ええー!ここは私と一緒にこの【バールグリール】と戦いましょう!それでお嬢様が無事で安全なところへ逃げ切れるようにー」

「その必要はないぞ?」

「えー?」


さりげなくそのメイドの提案を却下した俺は、

「よっとー」

一瞬で巨人との距離を一メートル程に縮めていった。


「グラアオオオオオオオオーーーーー!!!!」

俺の自然で堂々とした態度に気を悪くしたのか、躊躇わずにそんな怒りの咆哮を轟かせながら両拳を高々に組んで振り下ろしてきた。

まったく、うるさいものだな、お前。


「それー!」

「グウオオーー!?」

そう。何事もなかったかのようにこいつの振り下ろした両拳をただ人差し指と中指だけで受け止めた。魔力はちょびっど帯びたんだけど、あまり多すぎないように調整した。

起きたばかりなので、【魔力放出」と「魔力身包】を完璧に制御できるかどうか分からないからだ。


「グワアアアアーーーー!!!アウウウウウーーー!!!」

耐えられずに両手を摩りながら地面へと蹲って転げまわって

いる。俺の魔力を帯びた指からの衝撃で激痛を感じたんだろうな。


さっきから何度も大声だしてあまりにも五月蠅すぎて耳が不快だったんで、またも軽く魔力を帯びた人差し指で魔物の方に向けた。

接触していないのにも関わらず、一フリックしたら俺の魔力が放出され、風圧となってこいつを何十メートルも先へと吹き飛ばした。


「ウグアアアーー!!」

「消えろ」


冷たく低い声でそう呟いた俺は右手から【小火円撃(ブラヴァスト)】という魔法名を脳内で念じるだけで放った。

念じ終えた瞬間に、火の小さな球が出現し、空中浮遊する。でもそれをずっと眺めるわけにもいかないから、緩い速度で以って魔物の方に向かって打ち出した。


ビュウウウーー

数十メートル先へ俺の打ち出した小さな火の球は巨人に着弾するとー


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーー!!

たちまちその辺りの一面は激しく燃え盛り、その炎の渦に炙りあげられた加熱された砂の本流が踊りを狂ったように暴れながら30メートルほど上まで天高々とその爆炎が

太陽のごとく眩しく赤色に染め上げた。


俺が【中火円撃(ネブラヴァスト)】もしくは【中燃火撃(メリオン)】を使ったら、その先の一帯の砂漠一角が地獄の火災のごとく灰燼となって灼熱の

坩堝となっていたことだろう。


『ヒデアキ』の防衛に当たっていた時、静野と共闘した際に使った【大爆狂炎海(ベゴラヒー・グラガラム)】は相手の大半が【アルグリーズ級】だった。

だから、強力な【魔力防壁甲殻】がやつらの身体に備え付けられたゆえに上手いこと俺からの

魔力を吸収し周囲への危害が最小限に抑えられたけど、今のあの雑魚に使ったらここのすごく広そうな砂漠の100割の一(いち)が消滅させられ底の見えないクレーターが

出来上がるかもしれない。

極小国レベルの魔法の使用はいつも控えるようにしてきたが、相手が相手だったためやむを得なかった。


「ふ....こんなところか....」

【シラーズ級】の魔物はもっと強かったはずだが、なんらかの原因で弱った状態になっていただけだろう。

不満解消として使わせてもらうと言っておきながらテキパキと片付けた俺なのだが、ふと後ろにいるロザリーンの存在を思い出して振り向くと、


「.................」

驚愕の表情を浮かべながらただ突っ立って何も言えずにいるだけのようだ。

しまったー!俺がさっき放った【小火円撃(ブラヴァスト)】に魔力の調整を誤って少々多すぎるように込めてしまったんだ!

おかげで、一般レベルの【小火円撃(ブラヴァスト)】と俺レベルのブラヴァストの雲泥の差がー!


「ななななななななな~~~何なんですのよ~~~~!それーー!!」


メイドの沈黙状態を打破するように、半ば信じられないような声色の伴う黄色い叫び声を上げながら俺の方を指さしている。


................................

.............


と、5分後に:


「.......」

「.....」


すごく不審な目でこちらを凝視しながら絨毯に座っている二人とも。

さっきは怯えられるのかと思いきや、好奇心や驚愕が勝るせいか、俺から逃げ出さずにいるのだけど、『とりあえず、まあ、ここに落ち着いて座って、俺が...

できる限りのことは全部話すから...』と説得してみると黙々としながらも従ってくる。


「...ひとつだけ聞いていいんですの?」

沈黙を破ったのはポーリンヌってお嬢様の方だ。


「あなた、本当にわたくし達と同じ【素魔法使い(マギカリアン)】なんですのー?」

「.....そりゃ、まあ。そうだけどー?」

と、我ながらさっきはやらかしちゃったなって心の中で反省しながらも、半ばどこ吹く風というような反応をすると、


「...あのね、ミルファンさん....どこの国にそれ程の威力を持つ『ブラヴァストらしき小さな火球』を放てるというんですかー!?」

「そうよ、そうですわよー!たとえあなたがさっき言った通りに幼少時から魔法を習ってきて天才とまで称されても明らかにおかしすぎますわよーあれー!それとも、何かの幻ですのー?

先ほどわたくし達の見た光景は~!?ああー!今度はあなたもあれや

これやといった風な幻影魔法とかでわたくし達に酷いことでもしようと最初から企んだんすの~~~!?嫌~~!!助けて、ロザリーンー!!」

と、なにやら慌てた様子で訳の分からないこと口走っているポーリンヌなのだが、妄想癖っぽい娘に構わず、弁解を...


「えっと....先ほどのことはあんた達が見ていたように、その...はい。俺は、魔物、【テノブブラーハムス】というあれを退治した際に、桁違いな威力の出る

【小火円撃(ブラヴァスト)】を使った。ただ普通に魔物を片付けるためにやったことなんだけど、それが....何かイケナイことなんでしょうかーー?」

なんとなく敬語で無実をアピールするような口調と態度で訴えるんだがー


「そうだとして力の規模がデカすぎますー!それに、魔法の名前を一切口に出したりしないのを私の常人ばなれ聴力で確認しましたので、貴方のそれは明らかに

反則すぎます!」

と、【イルメメフョン(異空間格魔法)】を唱えて魔法陣からティーセットを出してきたメイドは通常の水と

お茶を用意しながら尚も俺の異常さを述べたロザリーンー。それに対して、俺は、


「あ、あれだよ。俺...実は、【小火円撃(ブラヴァスト)】と見せかけて【中火円撃(ネブラヴァスト)】を放ったんだよ。新しい魔法、【偽装魔法発動(ワカメネ)】を

自分で発明して、発動したんだ。それがあるから第3階梯の魔術である【中火円撃(ネブラヴァスト)】を【ブラヴァスト】と見せかけられたんだよ」

負けずにまたも嘘をついちゃった。まったく、とんだ大嘘つきマンになったもんだ!


「........も、もういいですわ。あなたは謎が多すぎてもう頭が痛くなりましたわ.......」

「...同感ですね。ミルファンさん、あなたの本当の素性と正体は何なのでしょうか、私達には分かりません。ですが、あれほどの魔力を実際に開放したり、新魔法とかを

発明できたりする時点で、何もかもがおかしさ度合いマックスです!なので、不肖このエールゲラリアー家がメイド、ロザリーン・クライスがこれから貴方の正体について

自力で調べるなり聞きまわるなりで探りまくっていこうと思いますよ?まあ、答えを見つける前に貴方が正直に話してくれたらいいのですけれど....」


と、そんなことを言い放ってきたロザリーンに次ぐように、

「では、決まりですわね。まずはこの砂漠から抜け出して、【アール・バルカハー】へ向かいましょう。彼....みたいな恐ろしい力があるマギカリアンのことはそれから調べ

ましょう」

「了解です!ミルファンさん、貴方も私達と一緒に町へ行くんですね?」

「さっきからそのつもりなんだけどな。どこか落ち着ける町とかあったら、あんた達をそこへ連れて行きたかったってのもあるしな。だが、口論の最中に言い難くてね...」


「それはありがたいですね。飛行魔法は他人にも浮遊できると聞きましたが、それで私達3人に使う予定なんですね。ところで、旅を再開する前にもう最後の質問が

聞きたいです。ひとつの重要なことに気づきました。言おうかと前々から思いましたけど、タイミングがですねー」

ん?今度は何を言おうとするんだ?


「お嬢様はお気づきになられたんですか?彼と出会ってからずっと話し合ってきましたけど、ミルファンさんが登場する前と比べて随分と太陽の陽射しがあまり感じられずになっているんですが、どうしてなんでしょうね?別に私達がずっと冷却魔法を使ったりしてきてはいませんし、どう思います?」

「考えられる結論はもう明白なのではなくって?」

「そう...ですね。ミルファンさん、これもまた貴方の仕業だというんですか?」

鋭い。でも、実際に【冷却魔法、クリイスタ】を使ったりはしないが、本当のことを説明するに越したことがない。


「いや、冷却魔法とかは別に使用したわけではないよ?ここ、砂漠なので、暑すぎると思った俺は『ああ、ここはもっと涼しかったらいいのにね』と願い始めたら、それから

、今に至るようにもっと涼しくなったってこと。多分、こんなことを念じて強く願ったからか、無意識で微細で微力ながらの魔力を俺の身体全体から漏れ出してしまって、

冷却魔法と同じ効果を醸し出してきたんだろうな....」

「どれほど規格外になったら気が済むんですか~~~~!!」

言い終えるやいなや、そんなツッコミがお嬢様から返された。というか、俺の正体、肌色とか自身の莫大な魔力に関する疑問点とかって追及するのが後回しにされたようで

今はほっとするよね、まったく...。


「じゃ、町に連れていってあげるね。魔物が襲ってくる前に目的地を聞こうと思ったんだけど、ついさっきポーリンヌがアール・バルーとかなんとかって言ってたんだけど、

そこを目指したはずだよね?」

「はい、そうですわよ。色々ありすぎて随分と手間取ってしまいましたけれど、旅の再開にあなたほどのマギカリアンが加われば不幸中の幸いですわ」

「じゃ、そこの町のある方角は?」

「コンパスによると、あそこの方角ですね。そこへと飛ぶために貴方は【エランス】を私達に施すつもりですか?」


「いや、そうは及ばないと思う」

「え?」「どういう意味ですの?」


確かに、あちらの方角からは魔力が集結する波長を捕らえた。

さっきの魔物より遥かに弱いが、まあ、それだけあの一匹の魔物の魔力量があそこに住んでいる住人より上だということ。

それに、距離にも魔力を探知する際に影響するので、遠ければ遠いほどその波長を捕らえることが難しくなる。

自身の魔力波長をすべて潜ませる魔術に長ける者までいるしな、俺みたいに。


ということで、

「ポーリンヌ、ロザリーン、俺と手を繋いでくれ」

「失礼ですがお断りします。知り合ったばかりの殿方と身体の親密な接触はお控えにしてきた淑女メイドですので」

「はあぁー!?得体の知らない魔力モンスターのあなたと手をつないでなんていられますの?冗談いわないで下さいましー!」


だろうな。予測済みな反応に、構わずに俺は、

『催眠魔法(ガルムズ)』

脳内だけでそう念じた俺。すると、


ピーーーーン!

反対の意を示した二人だけど、急に押し黙り、無表情となった。

催眠魔法だ。これにかかったら、自分の意識を失って、相手のなすがままとなるマリオネットに。


「先ほどあんたが言ったんだよな?あんたに良からぬことでもしてくるかって?」

実際に、そうすることのできる力や魔法も持ってるしな。

相手が嫌がるのを力づくで襲って反応を楽しめるのもいいし、こうして催眠状態にして相手が何も知らないままに何かをしてもいいので、方法はまさに千差万別だといえる。


「生憎と、あんたの期待には応えられないぜ。だって、俺はどこでもいつでも、紳士な男のつもりで、相手の嫌がることは絶対にしないマンだからな」

ましてや、世界の英雄とまで呼ばれるようになった、【極黒天魔英アビミャー】である自分なら、そうであるべきと誇りたいところだ。


「じゃ、少しの間だけど両手貸すね」

そう言ってから、彼女達の正面に立って、片方だけの手々を自分ので握っていった。どこに行くかは方角と正確的な位置を魔力の発生源で確かめられたから、

転移していくのは簡単だ。


『転移魔法(アグルタール)』

そう念じた俺は自分も含めての三人が青白い光に包まれ始め、地面で魔法陣が浮かび上がり、そしてーー


ピカーーーーーン!

鈴が鳴る音と共に、光がみるみる内に大きくなり、そしてそれから弾けてまるで最初から何もなかったかのように、3人の姿は綺麗さっぱり跡形もなく消えた。


__________________________________________________________________________

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る