第5話:会話。そして邪魔。
「そ、それはどういうことー?」
一瞬、何を言われたのかさっぱりな俺はこう反応する他ないが、
「...もしかして、知りませんの?もしくは『洞窟の中で』寝すぎて捕まる前の記憶を忘れたりしたんですの?」
「....ん、まあ...そんなところかもな。さっきは一年ぐらいあそこにいたと言ったのは確かなことだよ。だって、あの中には魔力回路でできた【魔道機器】が
壁に備え付けられてるのを見たからだ。時計として機能したあれは400という数字を表示したんだから、きっと一年間で構成されている400日間を指す数字だったしか説明がつかない」
この世界じゃ年間は400日で構成されてる。なので、嘘としては納得してもらえるかと.....
「ですから起きた時にそれを目にした貴方は一年間ぐらい眠らされたと察したんですが、その前の記憶はさっぱりですとー?」
「そうだ!起きて間もない時に魔法を発動してしまったことがあるんだけど、どうやら俺ってそこそこの力ある魔術師だったみたい。洞窟から出た後、少し記憶が戻った
ようで自分が何者だったか思い出せた」
なるべく自然にすらさらと『嘘』をついている俺に、
「『とある学園』に務めていた魔術講師、でしたよね?」
「うん!さっきも言った通りにすご~~く個人的理由があって学園名は言えないけど、大体はそんなところなんだよ」
「へええぇぇ~~~~お手洗いに教室を出てから、いきなり後ろから首に衝撃を感じて気絶させられたんですってー?」
なおも疑わしげな眼を向けてきた、確か...名前はポーリンヌだという金髪をしている子が、先ほど俺が説明した『嘘』について聞いてきた。
「ああ、確かに叩かれたと感じたんだよ。そのあと気を失ったんだけど、きっと俺を襲った誰かが自分をここの砂漠にあるあそこの洞窟へ運び込んできて、そして俺を一年間ぐらい眠らせられる何らかの禁呪魔法をかけたんだろう...」
「犯人の心当たりは?」
「あるにはあるけど、俺に対して嫉妬?っぽい感情を向けてきた同格な魔力量を持つ『あいつ』についてはいま会ったばかりのあんた達に語るべきことじゃないと思うんだが...それより、あんた達はさっき自分が遠くの国から旅をしている貴族家の者だと言ってたけど、なんでこのようなやっかいな砂漠地帯を通らないといけないの?」
強引に話を変えようとするに、
「それは、私達が他国への外交官代表として任命されあそこへ向かっているところからなんですよ。色々っあって、海路ではなくこのゾルファーン砂漠を通してしか
行く方法がありませんので今に至ったんです」
なるほどな。それにしては若すぎると思うんだけど、あんたのところの国って外交に関する任務すべてを子供に任せる習慣でもあるのかよ!?....それとも、あんたらが『特別』とか『例外』だからか?とりあえず、疑問に思うことを素直い言おう。
「メイドの方...ロザリーン...だっけ?」
前の口論をしていた時に怒っているように見えても素性と名前だけは素直にも教えてくれたけど正確に発音するためまたも名を聞いた。
「はい。ロザリーンです。ロザと呼んでもいいんですよ?ふふ....まあ、お嬢様は頑固として私をそう呼んだりしませんけど....」
「ロザリーン!あなたもわかるでしょうー!?なぜ私がそう呼ばなかったのを!」
「ーこれは失礼です。部外者の前ですから話の本腰に戻しますね」
と、なにやら言い合っている二人なんだが、構わずに話を続けることにする。
「さっきのあんたが剣を抜いて勇敢な姿勢で俺を威嚇していたんだけど、気迫と言い身のこなしといい随分と手慣れた感あるじゃないか。剣の達人であるということぐらい分かるんだよね」
「ふふ....どうやら貴方も只者ではないようですね?たったあれだけで私の実力を測れるなんて」
「も、もしかするとあなた....ミルファンさんは本当は有能な魔術講師だったりしますの?そうでなければロザリーンの力をああもうまく分析する事なんてできませんわ!でも、ぜんぜんそうは見えないんですけれど....」
「ひー」
ちょっとだけむっとして、言い返そうとすると、
「人は見た目によらず、ですよ。お嬢様」
ポーリンヌという侯爵令嬢?の疑念に反論しようとしたところに、彼女の付き人のメイドであるロザリーンは俺の言わんとしていることを先に口にした。
「それだけじゃなくて、あんた....ポーリンヌ?もロザリーンみたいな実力高い従者を側においていることから察すれば、あんたもきっとすごい魔術師か何かだろうー?」
「確かに、わたくしはジェネティーロッツアー国立魔法学園の3年生にして学園全生徒における一位の成績座として頂点に立つ『素魔法使い(マギカリアン)』..ですわよ。あなたみたいな教師として教える場合なら魔術師とか講師で呼ぶべきでしょうけれど、『素魔法使い(マギカリアン)』という一般的な正式名称がありますしわたくしをそう呼んで下さいな」
「ん?『素魔法使い(マギカリアン)』?なにそれ?普通に魔術師か魔法使いと呼んだ方がよくないか?」
「あら?なぜそう言いますの?」
「えー?それはどういう意味?」
「だって、もしあなたが本当にれっきとした『素魔法使い』なら、講師と自分で称したのにそれは魔法使いに対する通称であるということが分からない....なんてことは
さすがにありませんわよね?」
「そーそれは....」
まずい。このままじゃ俺が本当はどこかの学園で教えていた魔術講師ではなかったということがばれる!
「いやいや、当然知ってるよ、そんなこと。ところで、あんたは自分を学園の3年生だというんだな?ってことは、あんたは今18歳なのか?」
「はい、18歳ですわ。わたくし達の国だけは19歳になる前はまだ大人という扱いになっていませんから、魔法学園が一年生として入学を認めているのは大体16歳の若者達からがほとんどですわ」
「『ほとんど』というのは?」
「ある特別な方は入学試験をクリアーしたもっと若い方々か、もしくは魔法使いじゃなかったのにいきなり魔法の素質があると発覚したばかりの大人が入ってくるからですわ」
「大人まで入学できるの?」
「そうですよ、ミルファンさん。お嬢様のおしゃった通り、大人も試験を合格すれば入学できる権利がありますけど、その場合の大人に関しては校則が定めたように年齢が25歳までが限度なんですが」
ふむ。少年少女の年齢の多い学び舎に、大人までもが混ざっているのか?それも若いやつらだけで....
「もう質問は終わりでしょう?今年は何年かということには既に教えましたし、今度は私達の番でさっきの質問に答えて欲しいのですが...」
と、ロザリーンにそう言われたらほっとした。いかん。俺からばかり何度も聞いてしまって彼女達が知りたがっていた【エランス】等のことについて未だに応じずにいる俺だった!
【魔道歴300年】とはどういうことか、後で調べるけど今は彼女達の疑問に答えるのが先決だ。
「俺は飛行魔法【エランス】を使えるのは、幼少の頃からの高い魔力量があることが発覚してから魔術や魔法全般において素質があると見込められ、そして『期待の星』として見られるようになった俺は散々、厳しい特訓や学習環境を強いられていたから、その過程のおかげで、否が応でも中級レベルの【エランス】がいつの間にか身についたんだよ」
こればかりは嘘ではなく、大半が真実なんだよね。まあ、魔術勉強は別に周りから強いられたりしたことじゃないんだけどなぁ....。ただ魔術や魔法のことが大好きすぎてそれ以外しかやる意味を見出していないような魔法マニアな人だけだからな。アビミャーである俺という人間は!
「...なる程ですね...。よほど才能のある『素魔法使い』でなければ、そしてあれほどの厳しい環境でなければ【エランス】を習得することなんて出来ませんので
納得します。ですから、【大3栄強国】の王族達ではないのにそれが使えるというものなんですね」
またその【大3栄強国】か?詳しいことはもっと知りたいけど、まずは俺たちが落ち着ける場所へ先に行きたいんで彼女達の目的地を聞こう。
「じゃ、あんたー」
「もう一つだけ大事なことが聞きたいですわ!あなたはミルファンと名乗った、学園名も明かさないような『とある学園』の魔術講師だと言いましたけれど、出身地は?生まれの国は?そして、なぜあなたの肌色がそんなに黒焦げみたいなすごい極黒の色をしてますの?祖国の【カンテルベルック王国】からの外交任務として仕方なくここを通る羽目になったわたくし達は【モルトレーユ・ファレー】という北の大陸の人間ですから、こういう色素の薄い肌をしてます。でも、【イラム王国】に行ったことのないわたくし達でさえあなたのような肌色をしている人間は聞いたことがありませんでしたわよ?資料とか本の写真や描かれた絵や画像などを参考に見てきても誰も彼も褐色の肌ばかりをしていて、あなたほどの黒さをしている人物は誰一人してはいませんでしたわ~!」
矢継ぎ早に言葉の嵐の口早でそういわれた。半ば引いた顔をしてると自覚しながらもかろうじて平静をよそって応じる。
「............それはまあ、なんていうのかな....」
でも、それには参ったなぁ.....まさか、【通称、黒色人種(ノアール)】が数多く住んでいる【カルタグール大陸】の人間を一人も見たことがないなんて......
......ん?なにかおかしい?
俺は確かに【カルタグール大陸】からの人間なんだけど、北の大陸と南の大陸の国々との間には昔から交流が盛んに続けられてきたことのはず。
いくら辺鄙なところで住んでいたとはいえ、何百年も前から貿易や戦争を経てからたくさんの本や資料が作られてきたはず。
そして最近で出来上がった新聞出版業界や俺の発明したばかりの放送用の【魔道大版】があったし、いくらなんでも俺みたいな肌をしている人間のことをまったく知らないなんて......
それに、北の大陸【モルトレーユ・ファレー】といえば、あの有名な『多民族に寛容なエルブレーズ帝国』という多種族を支配下においた巨大な国もあるじゃないか!?南の大陸の国々から市民権を得た何か国からの黒色人種だけじゃなくて、エルフもダークエルフもドワーフもすべての穏やかな方の亜人や魔の人までもがお互いを尊重しながら共存してきた国なんだぞー!?それがあるのに知らないとはどういうことだー?
負けずに、俺は、
「というか、俺がどうしてこの肌色をしてるのとか、どこの国の人間か答える前に、まずは【イラム王国】がなに国かについて先に教えてほしんだけど? 俺、21歳になったばかりの新人教師なんだが、その国はどこにあるか聞いたことがないぞ?」
そう。南の大陸も北の大陸もたくさん行き来して色々やってきたが、【イラム王国】なる国はどの大地にも存在しないと断言できる。
砂漠地帯も広がることのあるカルタグール大陸のどこにもその名前をしてる国は聞いたことがない。
となると、やはり、この砂漠はあの【ギールガール大半島】の中心部にあるということか?
俺、あの二つの大陸とは馴染み深い環境で何年も長く住んできただけじゃなくて、遠くの東の国々へも旅したことがある。
静野に刺し殺された極東のヤマガタって国はまさにそれだ。
なので、自分は転々とたくさん移動してきたれっきとした旅人と自負できるんだ。
でも、そんな俺でも行ったことのない土地や地域もたくさんある。
その例として、ギールガール大半島はまさにそうだ。
俺が子供だった頃からずっと自国である【ゼンルーガー王国】で育てられ、魔術に関する勉強にも熱心に励んできて、それで桁外れと称されるようになった。
それから、ようやくあっちこっちへと旅するようにはなったんだけど、カルタグール以外に最も行き来したり住んだりしたことの多い土地は北大陸【モルトレーユ・ファレー】の国々と東方の国々だけだった。
世界の中心部と言ってもいいと思われる【ギールガール大半島】については何度かその地理的位置は本と歴史書の地図で知っておいた地域だったが、実際に行ったことは皆無。
そうなると、彼女達の言っていた【イラム王国】とは、おそらくあの大半島にある一つの国であるって結論が導き出されるのは想像に難くない。
でも、俺自身が行ったことのない地域だとしても、まったくその名前を聞いたことがないのは明らかに変な話だ。
だって、もしも【イラム王国】というのが本当に存在してる国だったら、なぜ今までにそれに関する情報や話が一切聞いたことがなかったんだ?
「またも知らないというんですの~?それとも『知らないふり』をしているだけですの?まったくもう~~。あなたって人は何もかも無知すぎて困りますわよ~!わたくしと同じ勉学機関である『学園』の者なら、少しは地理や歴史についてある程度の知識が身についたはずですわよねー?まして、学生であるわたくしならともかく、
教師であるあなたなら、もっと地理に詳しくても然るべき事ではなくって?」
「そのようですね。貴方はお嬢様の言う通りに、何も知らなさ過ぎます。無知のふりをしているかどうかわかりませんけど、そろそろその演技をお止めになられたらどうなんですかー?」
と、今度はしめに敬語まで使った棘のある慇懃無礼な口調でロザリーンが俺にそう言ってきたけど、でもそれって仕方ないことじゃないか!?実際に知らないんだしさ。
「俺だってー」
と言葉を続けようとすると、
ドーーーーーーーーーーーーーン!!!
「「「ーー!?」」」
この暑かった砂漠の砂に敷かれた、【素材創作魔法(モルネンテ)】でできた厚い皮の絨毯に座りながら会話を交わしている最中に、
「グウオオオオオオオオオオーーーーーーーーー!!!!」
いきなり空から降ってきた『あれ』がドンと分厚い着地音を響かせたかと思うと、今度は俺達を前にして整然とした姿勢で見下ろして睥睨してきたのだ。
そう。
会話に夢中だったから、こいつの接近を意識から外してしまったんだ。
【魔力探知音波(グレーヘム)】という魔法も使ってないしな。
なので、この砂色の肌をして一本の角を頭の天辺から生やした巨人が俺達の目の前に堂々とその姿を現す前に、ずっとそいつの接近に気づかずにいたんだ!
まったく、俺達の話を邪魔するとはいい度胸だな。
よし、さっきは目が覚めたばかりなのに色々ありすぎてストレスも溜まってきたし、少しはこっちの不満解消に付き合ってもらうぞ、怪物め!
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