第4話:邂逅。そして衝撃。

「お嬢様、上を見て下さいー!何かが近づいてきます!」

「それはー!?」

さっきの光の柱が天高く昇ったのを目撃したポーリンヌとロザリーンは好奇心と常用確認のために、慌てて発生源の位置に向かって走り出していった。

その途中で険しい砂でできた丘がその先への視界を阻んでいるみたいだったが、【素魔法使い】としての実力も十分な彼女達は特段に疲労を見せたりせずに突進してきただけ。普通の人間だとこの砂漠に入った時点でこの強烈な暑さにより一日も足らずあの世送りになっていたはず。

今、二人が見ていたものはー


ビュウウウウゥゥゥゥーーーーーーー!

「~~!?きゃあー!ななななー何なんですのよーそれー!」

「お嬢様、目線をそらして下さい!空飛ぶ邪悪な者が向かってきそうですよー!ここは不肖、このエールゲラリアー家のメイドであるロザリーンに対処をお任せ下されー!」

そう。彼女達が見てしまったものは、ほとんど全裸に見える男が一人で緩い速度を保つまま空から急降下してきたのだ。


「あ!いたーいた!人の姿をー!それも二人まで。きっと旅の最中なんだろうな」

二人の人間......それも女の子に見える彼女達がそこでこちらを見上げながら進んできてるのを確認できた。

でも、なぜか距離を詰めていくのにつれて顔が赤くなるように見えるがー?それに次はなんでいきなり両手で目を隠して背いてんだよー!メイドっぽい服装の方の娘も前に出てすごい睨んでくるし。


ター!

「こんにちは。えっと.....急に空から飛び降りてきてあんた達の前に現れてびっくりさせると思うけど、ここはどこかー」

「そこを動かないで下さい!変な真似でもすればその首を掻き切って差し上げますよー?」


んー?なんか急に物騒なこと言って、腰に据えつけているレイピアっぽい剣を俺に向けてきてるんだけど何でー?とりあえず、危険な者じゃないとフレンドリーに接しないとー


「あの、その剣を収めてくれないかな?俺は危ない人じゃなくてただ道を尋ねようと近づいてきただけだよ?」

「その格好で言われても説得力ありませんよ、不審者!」

ん?『その格好』とはどういう意味?


「あのなー俺は別にー」

「そこから動くなと警告したはずですよねー!?お嬢様はお下がりください。こんな破廉恥で変な肌の男、私が成敗してあげますから!」

えー?変な肌の男?それに破廉恥だとー?

彼女の言葉が気になる俺は自分の視線を下に向けて自身の身体を見てみるとー


「って、下着一枚だけじゃんかよ、俺ーーーー!!!」

しまった。さっきはここはどこだろうか、情報を聞き出すために人影を探したくて仕方ないとはいえ自分が何か着てないか気づかずにいたーーー!!

初対面で会う人に....しかも女の子相手に向かってこの姿はないだろうが!


と、【素材創作魔法(モルネンテ)】を通して魔法でコートみたいな服を自分で作ってから5分も経った後............


「......さ、さっきは済まなかった。まさか自分が何も着ていなかったのに気づかずにやってきてしまったんだ。許してはくれないか?」

「...ふーん、ですわ!その言い訳、誰が信じると思いますの~?」

「まったくですねー!淑女たる私達の前にほとんど全裸で道先を尋ねたりして恥ずかしくないですか?あーもしかしてドジ?いい年してそうな殿方である貴方がそんなことでドジったりとか言いませんよね?」

「済まないはいドジりましたってーさ!そうそう!俺が悪かったで~~す!でもだからといってその言い方はないだろうー!?俺だって深~~~~い眠りから覚めて右も左もわかんない状態でこのどこだか知らない砂漠に放り出されたし、少しは分かってくれてもいいんじゃないかーー!」

「あら~?次ぎは逆切れなんですの~?あなたはそれでも男性というんですか~?」


「「ふーん」ー!」「ふんだ~!」

............

なんかバカみたいだね、これ。

刺し殺され深く眠らされた前は20歳だった俺が今は自分より何歳も下に見えて若そうな少女二人を相手にこんな口喧嘩を始めるなんて........

まあ、元はといえば、俺の方が悪いけど.....

くそ!俺がもっと早く気づいていれば、第一印象がー!


と、それから何度か言い合っている後に、


「では、貴方もこれ以降は自分の身だしなみには気をつけるという約束も頂きましたし、これで休戦としていいんですよね、お嬢様?」

「ま、まあ~?わたくしも鬼ではありませんし?ですから、まずはそこのあなたーえっと、ミルファンさんでしたっけ?」

「ああ、そうだ」

俺が自分の本名、アビミャーと名乗らなかったのは様子を見るということだったり目前の二人の動向や人柄を窺いたいからだ。まさかのあの伝説の【極黒天魔英アビミャー】と同じ名前で自己紹介していたら、十中八九あらぬ疑いや騒ぎを起こしちまって状況も何年だろうかに関する情報も何もかも知らない俺が不利な立場になることぐらい容易に想像できたから。


「話を要約すると、貴方はこの砂漠のとある洞窟で一年間も前からある種の失われた禁呪魔法をかけられ眠らされて、今となってはやっと目覚めたというんですね?」

「うん、それは本当のことだ。まあ、でもその洞窟自体はもう自分の手で跡形もなく破壊したんだけどね。」

「ふーん... そうですか.....(おそらく嘘か何かですわ。本当は洞窟か何かから出てきたという訳ではなさそうに見えますし、いくら何でも子供騙しレベル過ぎるでしょうがー)」


「では、次にこちらもまた質問があります。さっき貴方が見たこともないような魔法で服を作っただけじゃなくて【エランス】まで使ってこちらへと飛び降りてきましたよね?私達の知る限り、今のこの世界広しといえどもそれが使えるお方は【大3栄強国】の国々に君臨しておられる王族達だけだと聞きました。貴方にその超レアな魔法が使えるということはもしかして、そこの国と何か関係のある人間でしょうか?(それにしては見たこともないような漆黒な肌してますしなんか怪しい感ばりばりですね)」

今度はトリッキーなこと聞いてきたな。というか、【エランス】は確かに中級レベルの魔術なんだけど、たくさん練習を重ねていけば俺の元いた【ゲルフェス冒険者ギルド】のメンバーなら一人や二人までも普通に使えるしそんなに『超レア』というほどでもないと思うんだけど?それに、【大3栄強国】の国々ってどこだよ!?聞いたことねえけど!


「あの、それを答える前にこちらからも知っておきたいことがあるけど、正直に話してくれる?」

「今度は質問には質問で返されるんですの?まったくあなたという人はー」

「頼む!俺にとって、大事なことだ」

今度は真摯に頭を下げて頼み込んでみると、


「宜しい。貴方がそこまでお嬢様に向かって首を垂れてまで聞きたいことがあれば、まずはそちらから話を聞いてもいいと譲りましょう」

「サンキューな。えっと、ロザリーンだっけ?あのエールゲとかなんとかっていう貴族の家に仕えるメイドー」

「エールゲラリアー家です!」

「じゃ、その......なんていうのかな....馬鹿な質問に聞こえるかもしれないけど、今年は何年ですか?その...正確な暦の年月とか...」


と、肝心なことを聞いてみると、

「はい....?そんなことも聞きますの~?もちろん、これは田舎の中の田舎者でなければと『本当に一年間だけで洞窟の中に閉じ込められた者』であるあなたなら聞くまでもない知るべきことなんですけれどー?」

「まあ、そこまでにしてあげて下さいませ、お嬢様。彼、困っているような顔してますよ?ふふ......では、私から答えさせて頂きますね。今年は誰でもがご存じのはずの【魔道歴300年】であり今月は3月なのですよ」


........................


「ーーえ?」

と、その間抜けな返事しかできずにいる俺だった。


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