第二話:砂漠の一角にて、『運命の歯車』を目撃する二人の少女

「ぎきいいいいいいーーーーー!!!」

「これでも喰らいなさい!【中燃火撃(メリオン)】!」

ゴオオオオオーーー!!!


図体のでかい蠍のような姿をしている魔生物(グランディーズ)がかたかたと4対の脚を鳴らしながら突進していったが、それをポーリンヌが【中燃火撃(メリオン)】を放ってグランディーズのいる一面を人間の上半身より20メートルほども高く火の壁のごとく燃やし上げた。この時代においてその第3階梯の魔術、【メリオン】はかなり強力な魔法であるという認識があり、ポーリンヌがどれほど魔法の達人となったのかを良く証明できると言える。


ゴゴゴゴゴゴ...............

「ギギグググ......ギシャアアアアァーーーーー!!!」

だが、相手も相手で【第3級モルガン】のグランディーズだ。さっき、ポーリンヌが蠍の後ろにある尾目がけて【豪焔凄速滅槍(フレイドアー)】を放って、そいつの長い尾を一瞬にして炎の槍で切断できたけど、今回で放った第3階梯の【メリオン】を浴びてもなお黒焦げにまでは至らずに、すごい火傷の跡をいくつか身体のああっちこっちで残しても獰猛にも突進を止めずに向かっていく。


「お嬢様に指一本も触れさせはしませんよ!!【三斬白波剣踊(ゲレックト・ドライ・ブレイドー)】!」


ポーリンヌがさっきの魔法を使うことによりチャージ期間が必要のため、従者であるロザリーンが前に出てその時間稼ぎに自らの帯剣しているレイピアの形をしている【魔道兵器(クライエンツー)】を抜き放ち、相手の上部を狙うように跳躍して剣から三つの白い波の伴われた早い3回の下段切りである【ゲレックト・ドライ・ブレイドー】を蠍の頭部めがけて振り下ろした。


「ふうう....こんなところですね」

オアシス一面によくある草で着地したロザリーンは大袈裟にまで見えるように額を何度も擦り付けてまるで汗がいっぱい出てきたというような素振りを見せたけど、実際にはさほどの汗もかかずに敵の息の根を仕留められたのだ。


「お見事ですわ、ロザリーン!それにしてもいい連携プレイでしたわね、わたくし達。お蔭で、グランディーズなんて大したことではありませんわ」

「お気持ちは分からなくもないですが、少しは思い上がらないようにしてもらえると嬉しいのですが......」

「あら?なぜそう言いますの?わたくしと貴女が一緒なら、どんなにすごい魔生物が出てきてもぜんぜん敵じゃないとさっき証明してみせたじゃないですか?」


「油断は禁物です。お嬢様は警戒を怠らずに、昼食を取ってくださいね。食べ終わったらここから出発しましょう。目的地である【アール・バルクハー】という町までまだ道のり長いはずですよ~?」

「またも堅いこと言いすぎ、ですわ。まあいいけど......。では食べましょうね、バスケットで持ってきたこのクロワッサンを」

バスケットの蓋を開けようとするポーリンヌにー

「駄目ですよ、お嬢様。炭水化物だけじゃなくてタンパク質込みの食べ物も取らないと」


さっきからの説教癖からと打って変わって、今度は優しく微笑むロザリーンは自分の掌から見せるようにして、【イリメフョーン】と唱えてそこから魔法陣が浮かび上がったかと思うと、次には特殊な加工方法で作られた魔装技術でできた魔装食納器、【サイファー】が出てきて、そこを開けて3個で切り取られたヤギ肉をクロワッサンに挟み込んだ。


「はい、出来上がりました。これを食べて下さいね」

「あ、ありがとう、ロザリーン!ゾルファーン砂漠に入る前に大量なヤギ肉を山岳地帯だらけの【イズミール公国】の国境付近にある【エルズラーム】という町で買っておいて良かったですわね!」

満面の笑顔となったポーリンヌは舞い上がったような気分になりながらも貴族としてのマナーを忘れずに「頂きます」といってからお上品にはむはむと口を小さく開けて一口一口で食べていくだけのようだ。


「ところで、砂漠に入る前に【イズミール公国】で旅の準備で滞在していた頃からずっと思っているんですけれど、その服装を着て熱くないですの?いつも【冷却魔法、クリイスタ】を使うわけにはいきませんし、今は砂漠にいるんですからもっと緩いような方を選んでくるべきだと思いませんの?」

「いいえ、私はこちらだけでいいんですよ。暑いだろうとメイドですし、ですから自分の仕事柄の本質ゆえ、メイド魂が根強く私の心にあり相手にふさわしい第一印象を与えるべくこうでなくてはなりませんね」

「でも、本当に好きで着てきたんですの、それ?」

「はい。メイドですから~」

と、異論は認めないとばかりに目を閉じながら威圧感のすごい笑顔を向けてきた。


(もう聞きませんわ、こういう質問....ううぅぅ.....怖い顔してますわよ、ロザリーン.....)

と、食事後の準備する間にそう思うポーリンヌなのであった。


「では、出発しましょう、お嬢様」

「ええ~。行きましょう。【イラム王国】の【アール・バルクハー】という町まで結構な距離が残っているんですからね。早いところこの忌々しい砂漠から抜け出してお風呂入りたいですわーー!」


と会話をした二人はようやく、この砂漠においての恵みであるこのオアシスを惜しいげに出ようと足を踏み出していった。


...............................

............


「はああぁぁぁ~~。相変わらず暑いですわね~~。何度【クリイスタ】を発動しないといけませんのよ~~これーー!」

「ふううぅぅ.......何度でも言いますけど、もう少しの辛抱を、お嬢様。これは旦那様から課せられた大事な任務ですから気合を振り絞って耐えましょうー!ところで、【イラム王国】についてどう思いますか?」


ポーリンヌのこの砂漠の強烈な陽光と炎天下から気を逸らすために、あえて話題転換してみるロザリーン。


「それは、まあ、砂漠の果てに位置する海岸一帯も治めている国ですし?海外の数か国との貿易航路も抱えていることから、それなりに経済も文化も建築設計も発達しているとは思いますわ」

「でも、やはり砂漠地帯の影響による環境の厳しさもあり、やはり私達の四季も万端な北の大陸【モルトレーユ・ファレー】での『大3栄強国』の国力ほどの比ではなさそうですね」

「それもそうですわね。といっても、わたくし達の【カンテルベルック王国】もその『大3栄強国』にも入っていないんですから我々と何も違いがないような印象を受けますけど......」


と、会話を続けながら歩いていく二人に、


「では、私達が外交関係の会談で話し合う予定の【イラム王国】の外交大臣を務めておられる第二王子、マレック・イール・ワリーッドに関してはどう思いますか?事前に彼についての写真や資料はご拝見しましたよね?」

「.....そうですね...中々愉快な方だと聞きましたわね...。」

お嬢様の感想はもっともの話だ。

なぜなら、4年前のたった19歳にして、国の重要な地位である外交大臣に任命されただけじゃなくて、その手腕と聞いたらキリがない程の功績をこのわずか4年間で積み重ねてきたのである。


「彼の才腕の元に、かつて劣悪な環境で働いてきた造船業関係の職人達の生活や職場環境が改善され、いまやこの小大陸である【ゴルベッズ】で頂点に立つ最高な船舶業界を誇ると聞いてますしね」

「港町も前の2町より今は4町まで膨れ上がり、その中の一つが【アブシムバール】という最大な都市まで発展してきたと聞きましたわね」


そう。でもイラムの造船業界が右肩の上昇を見せるとはいっても、ここ最近の2カk月間前からでは大半島から広がる南の『コルドーゼ海』にて跋扈する魔生物が急に活発化したり【シラーズ級】までもが目撃される証言が上がったりするらしいので、行き来する船の安全が保障できないために海を経由しての航路が現在、閉ざされている。たとえ外国から船で旅してくるとしても港町のすべてが来訪してきた船舶すべての係留許可は断っていると各国に滞在しているイラムの外交官が知らせておいたこと。


「はい、聞いたところによりますと、私達の首都、【ベルクセムムリアー】より大きいそうです」

「そこをなぜ自国の新しい首都にしないか不思議に思うくらいですわね」

「おそらく、海からの敵船侵攻を案じてあえてそうしないようにしたんでしょう。いくら【イラム王国】の海軍力が急速に上昇してきたとはいえ、『大3栄強国』のどっちかの海軍力が本気で総力を挙げて攻め込んできたら、太刀打ちもできないと思いますよ。ましてや強国のどちらにも【魔道兵器】の技術全般が最先端なのですし、おそらくイラム海軍の船舶に使われる【魔道大砲】も強国の威力ほどではないと推測することができるかと....」


と、国のことだけに話題に花を咲かせている少女達は、急に雰囲気が切り替わり、メイドであるロザリーンからこう聞かれた、


「では、さっきは彼の経歴や仕事柄で話がそれた気がしますけど、彼の『人となり』や『気質』ということについてどう思います?彼とは会談で上手く我々カンテルベルック人側の主張も尊重すると思いますか?」

「....あの..それはー」

と、言葉を続けようとするポーリンヌなのだがー


シイイイイイィィィーーーーーーーーーーン!!!

突如として耳鳴りな音が聞こえるかと思えば、今度はー


「見て、ロザリーンー!あれは何なんですのーー!?」

人差し指を時計の午後10時の方角へと向けるポーリンヌにつれられて、メイドことロザリーンもあっちへと振り向いて、そしてー


「光の.......柱ー!?」


そう。


遠くには一筋の点滅しながらの淡い光の柱がその耳障りな音を鳴らしながら、天高くまで聳え立つようにその存在をこの砂漠あたり一面に知らしめるがごとく堂々としているようだ。


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