第一話:お嬢様の愚痴、そしてメイドの説教
ビュウウウ..............
ビュウウ......
強い風とはいかないまでも、それなりに風力のある砂風がとある砂漠地帯のオアシス一帯に吹き抜けていく。
そこで、二人の少女が砂の絨毯とは離れたところにある湖のすぐ近くにある草木の生えている一面に腰を落ち着かせて隣り合わせで何かを話し合っている模様だ。
「ああぁぁああ~!なんでこの侯爵家の長女であるわたくしがこんな何にもない砂漠の国にやってくる必要ありますの?暑すぎると聞いたから【冷却魔法、クリイスタ】をマスターしておいて良かったとはいえ、こんな遠い~~極暑の大半島にレディーであるわたくしを派遣するとは本当にお父様もどうかしてますわ~~~!」
「それは旦那様がお決めになられていることなのですから、ポーリンヌお嬢様。旦那様のご決定なさったことはこのエールゲラリアー家において絶対であるということぐらい、まさか未だにまだ知らないとおっしゃるのでしょうか?」
愚痴をこぼしている右の金髪ロングな少女は貴族風で優美な衣装を身にまとい、白い肌が見えるような胸元が開いておりスカートの丈も太股の上半ぐらいの部分までに短いだったりするといったかなり露出程度が多いものとなっているようだが、それに対して彼女の不満を聞かされている身となった左の銀髪ショートヘアーの少女は
どうやらメイド衣装を着ているようで、右の子と違ってとても丁寧でおしとやかな服装を身につけており殆どの肌がそれで隠されているようだ。
「それは分かってるんですけれど、頭では理解しているつもりでも心がまだ追いついてこないと言いますか...とにかく、わたくしは嫌なんですわよ!ここの何だか
知らない砂漠国家へ外交任務として赴いてきたのは。お蔭で見て下さいな!わたくしの国で一番評価が高いとまで言われてるペリー販売店で買ったこのお服、
もう砂埃でめっちゃくちゃに~~~!大体さ、これは我が【カンテルベルック王国】の外交大臣、エベリーンさんがやるべき仕事なのでは?なぜよりによって、護衛一団もつけてもらえずにわたくし達二人だけでこんなことに任命してるのか、お父様も酷すぎますわ!!」
「まあ、少しは落ち着いては如何ですか、ポーリンヌお嬢様?護衛なしと言っても、私がついていますし、何より、私達の【カンテルベルック王国】における貴重で有能な【素魔法使い】の一人となられたお嬢様だから、『力のある者』という意味合いが強くて外交代表として選ばれたんですよ。そして、旦那様のお立場はこの王国においてどんなに重要か、理解できないということはないのでしょう?国王陛下にいいところをご覧になって頂きたいはずです」
彼女の従者のいう事ももっともだ。なぜなら、今の世界で魔道兵器に頼らずに素で魔法を使える者、【素魔法使い(マギカリアン)】達の存在は極少数で貴重すぎるものだからだ。
よって、その超エリートの中のエリートである学園トップ成績を収めている一流の魔法使いであるポーリンヌならば、国の外交に関するこの重要な任務として参加させられるのは納得すべき方針だ。
「それは..まあ..お父様は...国のトップ座で君臨してらっしゃる国王様に次ぐ宰相ですし?分からなくはないんですけれど、でもいくらわたくしの魔力が学園トップ
クラスで一位であるとちやほやされても、魔生物(グランディーズ)との実戦経験は去年の期末試験だったぐらい浅いですわよー?それも初級の【エグベルト級】が
相手だったから自分の全力を試せないままだったし。それに、この砂漠地帯あたりでは稀にではあるけれど、アルグリーズ級の魔生物(グランディーズ)までもが潜んでいるとの噂を聞いてましたし、もしも万が一のことでわたくしの身にー」
言葉を続こうとするポーリンヌなのだが、
「はい、ストップ。失礼ですがそれ以上ネガティブ思考に陥らないで下さいませんか。旦那様がお聞きになられたらきっと悲しんでおられますよ?『まさか自分と妻である剣豪女英の立派に育てた【将来の規模の魔術才女】がこんな争いごとと程遠い案件である外交訪問兼会談ごときでへこたれているだなんて』と嘆きながらおっしゃるはずですよ?それに、アルグリーズ級が徘徊している噂といっても最後の目撃証言が上がったのは昔の120年前くらいでしたよ。それ以来、一切の事件とか皆無らしいですし心配は無用かと。」
ロザリーンはすばやく彼女の口元に人差し指をつけてそう諭した。
「むぅぅ.......ザリーンってば!いつもそうやってわたくしの言うことを否定したがるわね~~!ロザリーンの意地悪!聞く耳持たず鬼畜女ー!ぶぶー!」
むきになって子供っぽい反論が返されるが、ロザリーンというメイドはただスルーして「はいはい泣かないのもう大人まで少しなんですよ」とポーリンヌの口撃をクールにいなしているだけである。
はたからすれば、メイドの返し方がいささか厳しいように見えるけど、あれでも優しい方なのだろう。
なぜなら、ここの砂漠地帯に入って一夜を便利な魔装キャンプで過ごしていた時に忠実な従者として恥じぬよう、ロザリーンが親切に彼女がよく安全に眠れるように、
一睡も取らずにキャンプの外でグランディーズが襲ってこないか見張りをつづけてきただけである。
なので、少しだけ彼女のわがままな愚痴に一言だけでも意見を出して彼女がよりもっと我慢できるように、辛辣な言い方を用いても仕方がない状況にあるのだ。
なぜなら、グランディーズが神出鬼没しているような土地だ。一瞬の気の緩みが命取りになる場合もあることから両方の気が引き締められた方が生存確率が高くなるのが明白なのだ。
よって、メイド少女の叱咤も頷ける行動だ。
ビュウウウ.....
ビュウウウウウ.........
「ええー?」
「何ー?」
そう。
半ばじゃれあっているように見えた二人の喧嘩っぽいやりとりが、急にどちらからともなく急に押し黙り、静寂と砂漠の風の音だけが聞こえるようになる。
ビュウウウ......
ビュウウウウウ.......
「お嬢様もお気づきになっているんですね?」
「ええ...まさかこのゾルファーン砂漠に足を踏み入ってから二日目の今日までにあんな大物までと遭遇する羽目になるだなんて.....まったくついてないですわ...」
さっきのおふざけた態度とは打って変わって、真面目な目つきになった少女二人は真剣な雰囲気を出し始め、周囲の乾いたオアシスを囲む形となっている砂の海を警戒しながら凝視しているだけ。
ビュウウウウウ.......
「来ますわ、ロザリーン!!」
「はい!お嬢様も戦闘準備をー!!」
どうやら強い魔生物(グランディーズ)が彼女達に接近する最中なのだが、朝のぬるい日差しの下で襲ってくるのがせめてものの不幸中の幸いみたいなものなのである。
おかげで、貴重な魔力量を【冷却魔法、クリイスタ】なんかに使わなくても敵に全魔力を集中して戦えるというものだ。
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