プロローグ(後)
[アシガラ森」での大事件、その一週間前の平日の昼時に遡って。
ヤマガタ四季国が女王、朝春静野の住んでいる【大円紅玉の麗城クレヌ・ウルジョウ】の一角にある、【王室の間】にて...
静野視点:
「どういうことなのじゃー!」
「さっきも進言致しました通りに、この国だけじゃなくて世界そのものが滅ぶ運命だそうでございますよ。『命運の書、200頁で第6章、21条』で綴られたところによりますと」
「その情報、間違ってはいないと断言できるじゃろうか?」
「はい、決して間違いはないと申し上げることができますよ、陛下。確かに、詳細的な内容を抜粋致しますと、
『【リアーバッス】よ、【リアーバッス】に生きる総べての命あるものよ、聞くがよい、よい。【黄金の時】と呼ばれている時代となると、1150年間の月が流れ、流れ。そして、その後、後。冥界よりの王者、大悪魔グラボロース、グラボロースは悪鬼、魔人や魔のすべての生き物を率いて、率いて。【リアーバッス】の住民を悉く滅亡へと誘う。』
その抜粋された内容を難しい顔で吟味している18歳の少女でありながらも真剣な様子になっている静野女王は、忠臣である【潔吉山都いさぎよしやまと】の報告した件の書物に記された信じがたい未来の予言を半信半疑でありながらも、厳かな表情を保つまま躊躇なくこう言い切った。
「だったら、その冥界よりの王者って?いう大悪魔グラボなんとかは知らぬけれど、それがが『魔のすべての生き物を率いて【リアーバッス】の住民を悉く滅亡へと誘う』というのを実際に書かれた内容の通りに、黄金歴150年の今より1000年後の世界で実際に起きようものならば、そいつらをすべて返り討ちにできる者が迎え撃てば良いだけの話なんじゃないのー?」
「でも、これは【未来の世界】なんでございますよ?明日に何が起ころか確実に予言できる輩がどこにおりませぬのに、どうお考えになられて1000年後の時に『魔の全て』を確実に仕留められる英雄的な存在が出てくるか分かるものでもございませぬのに、どうやってそんな展開が起こるようにおっしゃいますか?」
ヤマガタ女王の忠臣である山都の言う通りだ。目の前のことすらも分からないというのに、どうやって未来のことについてそう簡単にああなるように予測したり、断言できるというのだろうか...
「答えは簡単じゃ。あいつを千年後の【リアーバッス】へと送り込めば良いではないかー?」
「えー?あ、『あいつ』とおしゃるとは、もしかして【彼】のことでございますか?」
「うむ。そなたも知ったの通り、妾の家は特殊な家で言い伝えによれば、この極東の半島にある四季国を霊界から見守る【天の陽光あまのようこう】様という神が御身の一部でおる『神の子』を我が一族へと派遣するように、受肉なさって転生されるようになっているらしいじゃ。らしいとは実際に誰がそうであるか未だにその力の片鱗を見せてきた者が我が一族に一人もいなかったから定かではないけど、少なくとも妾はそれを信じるのじゃ」
「とおしゃいますと?」
「そうじゃな......強いて言うならば、例として挙げるとこれが妾の身体の中から出てくるものなのじゃからもしかして、妾こそその『神の子』なんじゃないかって思うのじゃ」
と、意味深な言葉を口にした静野女王は自らの腹から魔法陣っぽいものが浮かび上がるかと思うと、いきなりぴかっと力強い光を帯びて、そこから一本の神々しい装飾がつけられている優雅な剣が出てきた。
「夢にまで見ておったぞ!これを誰かの胸に刺し貫ければ、持ち主である妾が1000年後の世界だけへと刺し殺した者を転生させられるとー!多分、これは【天の陽光あまのようこう】様がお見せになられておる夢なのじゃと思う」
「それは......」
「良い。妾に任せれば良し。じゃ、妾もこれから心の準備とか色々やっておかなければ案件が山ほどおるんじゃ、今日はこれぐらいにして帰って良いぞ」
と、その一週間から何が起こるのかは、歴史に関する書物では【伝説の魔術師】である【極黒天魔英アビミャー・ゴラム・ナフィズール】がヤマガタ四季国の女王を魔物から庇うために亡くなったようだ。魔物との未曾有な戦いの際に女王を庇うことにより無残にも命を落としてしまったが、もちろん真相が書かれていないためこれはこの世において、3人だけがその真実を胸に抱いて生きてきたようなのである。
余談だが、どうやらその一週間の期間では『心の準備』だけじゃなくて、静野がどうやって自らの全身を『絶対に察知不能の透明人間にする魔法』および『対象の魔力量が如何に強かろうかを無視できるような(一秒だけ身体を麻痺させる)効果のする魔法』をあんな恐ろしい短期間で発明してみせたのだった。
どうやら、朝春静野もアビミャーと同等な天才肌の魔術師のようだ。
忠臣の男性に【神の子】の化身であると自分で仄めかしたぐらいだからか、神族に相応な素質や能力がそれを可能にしたのかもしれない。
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