第2話 イケメンに囲まれたい


「よかった。本当に良かった……レイラ」


 父親らしき髭の男の人が、泣きながら私の顔を覗き込んでいた。


 レイラって、もしかして私のことだろうか?

 いや、私の名前はレイなんだけど……


「覚えているか、レイラ。お前は二年前、急に私の前で倒れてしまったんだ。それから一切目を覚ますことなく……——」


 初めは信じられなかったけど、話を聞いたところ私は本当に転生したらしい。

 乙女ゲームの世界。

 それも、西洋ファンタジー系の魔法とかそういうのもある世界だ。

 だって、魔女とか、小人とか精霊とかもいるんだもの。


 私の身の回りのお世話は、人間にしてはやけに足の短い従者のビロと恰幅のいいわがままボディのメイドおばさんリジがしてくれている。

 これは、私がハマっていた乙女ゲームの世界観にかなり近い。


 私は領主の末っ子・レイラになっている。

 でも、レイラの記憶なんて全くないから、目覚める前の振る舞いがどうだったとか、そういうのは全く覚えていなかった。

 鏡に映る十六歳のレイラの姿は、それはそれは美しいお嬢様で現実との差に驚きを隠せない。


 転生前はそばかすに悩まされていたし、一重で小さい目がコンプレックスだったけど、レイラの姿の私は肌は白くきめ細やかで、大きな二重のアーモンド型の目。

 瞳の色はグリーンで、いちいち染めるのが面倒だった髪は染めなくても綺麗な栗色をしていた。

 年齢も、現実世界より十歳も若返っているし、どこからどう見ても美少女だ。



「ねぇ、ビロ。私に婚約者とかいないの?」

「こ……婚約者ですか? いえ、その……お嬢様はずっとお眠りになられていたので今のところは————しかし、こうしてお目覚めになられたことですし、そのうち良いご縁談のお話もくるでしょう」

「ふーん……そうなんだ」


 婚約破棄とかではなさそうね。

 このキャラ設定で悪役令嬢でもなさそうだし。

 きっとこれから、イケメンがたくさんいる場所に行って、そこで出会うんだわ……


「お嬢様が殿方のお話をされるとは思いませんでした……やはりまだ体調が優れないのではありませんか?」

「いいえ、そんなことはないわ。それより……そうね、舞踏会とかないの?」

「舞踏会ですか……? それも今の所——……一応本日の予定としては、トゥイ様とスリード様が午後にはこちらへ到着されるのでお会いになるくらいかと……」

「トゥイ? スリード? だれ?」

「えっ! 実のお兄様方のこともお忘れなのですか?」

「……あー……えーと、ほら、まだ目覚めて二日しか経ってないでしょ? まだ記憶が曖昧で……」



 兄たちが地方へ旅行中だということは聞いていたけど、名前もその容姿すらわからない。

 ビロの話だと、私が目覚めたと聞いた次男と三男が今日の午後に屋敷に戻ってくるのだとか。

 ちなみにこの二人は双子。

 長男の方はかなり遠くの地に行っているらしく、戻ってくるのは二人より遅くなるらしい。


「三人いるのね……兄が……」


 レイラがこんなにも美しいのだから、きっと兄たちも相当なイケメンに違いない。

 やっと出会えるのね……イケメンに!!


 そう、期待していたのだけど……————



「レイラ! もう体は大丈夫なのかい?」

「本当によかった……もう目覚めないのかと……」


 屋敷の表に到着した馬車から降りてきたのは、私の思い描いていたイケメンとは、まったく違う容姿だった。


 私と同じ瞳の色と同じ肌質ではあるけれど、背が低くてダイエット食品の宣伝でよく見る脂肪をたくさんため込んだお腹がボヨヨーンと出ているおじさん体型。

 分厚い唇がタコのように突き出ていて、眉毛も繋がっている。


「どうしたんだ、レイラ? 顔色が悪いぞ?」

「やっぱりまだ、本調子じゃないんじゃないのか? 無理して出迎えなんてするから……」


 イケメンじゃない……!!

 全然イケメンじゃない!!!

 双子なのに!!

 双子なのにイケメンじゃない!!!


 乙女ゲームで双子って、イケメンが鉄則のはずなのに————


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