第63話 進級

「ふむ。今日から余も二学年に進級か。感慨深いものだ」


 余はそう呟く。

 月日が経過するのは早いものだ。


「そうですね。入学式の日、ディノス陛下がフレアさんやシンカさんに絡まれていたのを思い出してしまいました」


 イリスがそう言う。


「クハハ。あれは本当に災難だった。まさか初対面の相手にいきなりビンタされるとは思わなかったぞ」


 もちろん魔力や闘気を開放していれば、避けたり攻撃を制止させたりすることは容易い。

 だが、余は一学生として分をわきまえた活動をすると決めていたのである。


「ふん。昔のことはいいじゃない。今はこうして、仲良く登校しているのだから」


「そうだね。昔のことは水に流そうよ。そんなことより、今年もいっしょのクラスになれるかが心配だな」


 フレアとシンカがそう言う。

 この一年で、彼女たちもずいぶんと丸くなった。

 いろいろあったしな。


 イリス、フレア、シンカの3人は、全員が余の子どもを妊娠している。

 ……が、見た目にはそれは現れていない。

 余の隠蔽魔法で隠しているのだ。


 同時に防御魔法や結界魔法も施しているので、外的な衝撃を受けても問題ない。

 また、治療魔法の応用により本人たちの体調が過度に崩れたりすることもない。

 つまりは、妊娠中であっても今まで通りに学生生活を送れるというわけだ。


 彼女たちが出産すれば、魔王である余の跡継ぎ候補となる。

 大切に育てつつ、英才教育を施さねばなるまい。


 仮に魔王を継ぐには足りない器であったとしても、余と愛する妻たちとの大切な子どもだ。

 幸せに育てあげてやらないとな。


 余はそんなことを考えつつ、イリス、フレア、シンカたちと共に通学路を歩いていく。

 もちろん転移魔法や飛翔魔法を使えばもっと短時間で移動できるのだが、こうして徒歩で通学するのも一興だ。

 基本的にはこうしている。

 余が何気ないひと時を楽しんでいた、その時だった。


「……見つけたのです。黒竜イリス……」


 見覚えのない少女が余たちの目の前に立ちふさがったのだった。

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