第62話 北方の街ノースウェリアにて
-----北方の街ノースウェリアにて-----
「うー。寒い寒い」
少女がそう呟きながら、焚き火に手をかざす。
雪国に住む少女らしい、防寒具に身を包んでいる。
「ですが……。これでもここ最近は、ひと回り過ごしやすくなりましたね」
同じく焚き火に当たながら、女性がそう言う。
「そういえばそうだな。あの不思議な雪が降った日を境に寒さが和らいできたような気がするよ」
「えぇ。それにしても、不思議ですよねぇ。なんで急に気温が上がったのでしょう?」
「さぁ? 神様の気まぐれじゃねえか? 魔法でも天候操作は可能だが、さすがにこの規模の魔法はな。それこそ、伝説の竜種や魔王様でもないと」
少女がそう言う。
何気なく呟いたその内容は、実はまさに的中している。
少し前に降った不思議な雪の正体は、ディノスとイリスのまぐわいにより上空に放たれた水分が結晶化して雪となり降り注いだものなのだ。
強い魔力を持ったその雪は、人々の願いに触れて様々な事象を誘発する。
この寒冷なノースウェリアにおいて、それは気温の若干の上昇という形で現れたのだった。
「……ところでよ。あなた、そろそろ入学試験の日付が近づいてきているのではありませんか?」
「おっ。よく知ってるじゃねえか。その通りだぜ。仕上げはバッチリさ。あたいの格闘術で他の受験者をフルボッコにしてやんよ」
少女がそう言って、拳を突き出す。
「さすがは”氷結の戦士”と呼ばれるだけはあります。街の期待の星ですね。期待していますよ」
「へっ! おだてるんじゃねえやい!」
2人が笑い合う。
「見てろよ……。”流水の勇者”シンカめ……。勝ち逃げは許さねえ」
少女がそう呟いて、空を見上げる。
今なお微かな魔力を含む雪が、静かに舞い落ちていたのだった。
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