第23話 お前、女だったのか!?
ダンジョン攻略試験の結果発表を受けて、シンカ=アクアマリンが余にイチャモンをつけて襲いかかってきた。
もちろん返り討ちにしてやった。
彼は実力確かな少年だ。
しかし今回は、相手が悪い。
なにせ、余は魔王なのだからな。
世界で最も強い者を相手にすれば、いかに”流水の勇者”といえども勝てる道理はない。
余は、彼を背負って保健室に向かう。
あの程度で気を失うとは、世話の焼ける奴である。
「ふふっ。でも、ちょっと楽しそうですね。陛下は」
イリスがそんなことを言ってくる。
「ん? そうか? まあ、楽しいと言えば、楽しいと言えなくもないか」
「やっぱり。少しだけですけど、昔の殿下に似ていますもの。猪突猛進なところが」
「……余はあんな感じではなかったと思うのだが?」
「ええ。確かに、あれよりは少し慎重で思慮深くいらっしゃいましたが……。でも本質は同じです。負けず嫌いで、まっすぐで。目的のためには手段を選ばない。そういう方でした」
「むぅ。褒められている気がせんな」
「ふふっ。これは失礼しました」
クスクス笑うイリス。
「ふん。昔の余と似ているかはさておき、このシンカはきちんと鍛えれば強くなる」
「そうですね。精神は未熟ですが、まだ高校一年生ですしね」
「立派に育てば、将来的に余の配下としてやってもいい。なかなかの美男子だし、魔王城でもモテるだろうな」
「あら、そうなんでしょうか。ならますます、私の教育が必要になりそうですね。ふふふふふふふふふふふふふ…………」
「……なんか怖いぞ、お前。本当に余の忠実な従者なのか?」
「もちろんですよ、陛下」
……どうにも信用できなくなってきた余であった。
そんな会話をしている間にも、足は進めている。
「む。ここが保健室か」
「はい。入りましょう」
イリスが保健室のドアを開ける。
余はシンカを抱えたまま、部屋の中に入る。
「ふむ? 保健室の先生は不在か」
部屋の中にはだれもいない。
職員会議かなにかか。
あるいは昼寝でもしてサボっているのか。
余が本気で魔力探知を行えば探し出せるだろうが、そこまでする必要もないだろう。
「とりあえず、シンカさんをそっと下ろしてあげてください」
「うむ。そうだな」
言われた通り、そっとシンカをベッドに横たえる。
「さすがは陛下。お優しいのですね」
「別に優しくなどない。ただ、余のせいで気絶をした者を放置するわけにはいくまい?」
「ふふ。そうですか……」
(やはり、この方は本質的にとてもお優しいのですよね……。だからこそ、10年前のあの日、私を救ってくれたのでしょうから)
「ん? 何か言ったか? イリス」
「いいえ。なんでもありませんよ、陛下。それより、彼の容態を診ませんか」
「ああ、それもそうだな」
余とイリスはシンカの傍に立つ。
「さあ、早く起きろ」
余はシンカの頬をペチペチ叩く。
「うっ……」
すると、しばらくして彼が目を覚ました。
「ここは……」
シンカが上半身を起こす。
その顔色は悪くなかった。
「目が覚めたようだな。具合はどうだ?」
「……僕はいったい……?」
「覚えていないのか? お前は余と戦って負けたのだ。それで、気絶した」
「気絶だと?」
「ああ。そこで、余たちがお前を保健室まで運んでやったということだ」
「……そういえば、戦いで負けた記憶がある。……ぐっ!!!」
シンカが突然、胸のあたりを押さえる。
「大丈夫ですか?」
イリスが心配気な顔でそう言う。
「痛むか? 肋骨が折れているのかもしれんしな」
「わたしの回復魔法が不十分でしたか。体全体を覆うように発動したので、局所的な回復はできていなかったかもしれません」
「そうか。では、今度は余が掛けてやろう」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
シンカがそう礼を言う。
そもそも傷つけたのは余なので、マッチポンプだが。
気にしないことにしよう。
余は、シンカの服に手をかける。
「って、ちょっと!? 何を……」
「回復魔法は、患部に触れて発動した方が効力が増すことを知らぬのか? 勉強不足だな」
「あ……、そういうことか……、じゃなくて! 自分でできるから!」
「遠慮をするな。余は回復魔法も極めておる。骨折を治す程度、造作もない」
「……い、いや……、それはそうなんだけれど。せめてイリスさんに……」
「わたしですか? もちろんそれでもいいですけど。せっかく陛下が直々に治してくださるのです。またとない機会に感謝して、お受けしなさい」
「そういうことだ。では、いくぞ」
「ちょっ……」
シンカはまだ何か言いたそうにしていたが、余は無視する。
シンカの服を捲りあげ、肋骨のあたりを露出させる。
「……ん?」
余は違和感を覚えた。
そこにあるはずのないものが、ある。
胸のあたりに膨らみが。
そして、その先端にはツンと尖ったきれいなピンク色の物体が。
「……これは、なんだ?」
余はそれを指先でつつきながら、首を傾げる。
「…………」
「…………」
「…………」
三人の間に沈黙が流れる。
「………………………。へ、陛下……、まさかとは思いますが……」
イリスが恐る恐るといった様子で言う。
「……」
余は無言のまま、シンカを見つめた。
シンカの顔色はみるみると赤くなっていく。
「シンカよ。お前、女だったのか!?」
「きゃ」
「きゃ?」
「きゃああああああっ!!!」
シンカが悲鳴を上げた。
彼改め彼女が手で胸を隠す。
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