第22話 どんなイカサマをした!?

 ダンジョン攻略試験の翌日になった。

 今日の授業では、昨日の結果が発表される。

 掲示板の前には多くの生徒が群がり、自分の成績を確認していた。

 1位から10位までの名前が発表されている。

 余は上から順番に確認していくことにした。


「あった」


 余は、1位の欄に自分の名前があることを確認する。

 2位にイリス。

 3位には、フレア=バーンクロスの名があった。

 そして、4位には——


「僕が4位!? 何かの間違いじゃないのか!」


 そう叫んでいるのは、シンカ=アクアマリンだ。

 ”流水の勇者”の二つ名を持つ、人族の首席合格者である。

 中性的な顔立ちが悔しげに歪んでいる。

 普通に考えれば、魔族の首席合格者であるフレアとともに1位を争っていたところだしな。


「おい、見てみろよ。またレアルノートだぜ」


「ああ、やっぱりすごいなあ」


「的あて試験、魔法陣の試験に続き、ダンジョンの実戦試験でも高評価か……」


「なんであれで首席合格者じゃなかったんだろうな?」


 周囲の生徒の会話が聞こえる。


「く……。納得できない! おい、レアルノート! どんなイカサマをした!?」


 シンカがこちらに向かって歩いてきて、大声で叫ぶ。


「ちょっと、失礼ですよ。陛下は不正などしていません」


 イリスが彼を諫めようとする。


「ふん。どうせ、2位の君もグルなのだろう? 信用できないね」


「……はぁ?」


 イリスが目を細めつつ剣の柄に手をかける。


「イリス! ……大丈夫だ。余に任せておけ」


 余は彼女にそう言い聞かせ、一歩前に出る。


「ほう? 僕とやるつもりかい? 君は僕の足元にも及ばないことを証明してあげるよ!」


 そう言って、彼は腰に差した刀を抜き放つ。

 その瞬間——パァンッ!!!!! という破裂音が響き渡り、彼の体は後方へ吹き飛んでいた。


「ぐぇっ!?」という声をあげて、地面に叩きつけられる彼。


 周囲に静寂が訪れる。


「陛下は、あなたより強い。これで少しは理解していただけましたか?」


 イリスが微笑を浮かべながら、彼に語りかける。

 しかし、シンカは呆然とした表情のまま倒れ込み、動かなかった。


「……ぐ。げほっ! い、今、何が?」


 少しして意識を取り戻したようだ。

 彼が顔を上げて、周囲を見渡す。


「え? あれ? 僕は確か……。は? え?」


 シンカが混乱している。


「何をされたかもわからないのですか。あなたの実力も大したことないですね」


 イリスが吐き捨てるようにそう言う。


「うるさい! 今のは何だったんだ! 不意打ちなんて卑怯だぞ!」


 シンカが激昂する。


「ふむ。教えてやってもいいが……。それを考えるのも鍛錬の内よ。自分で考えてみるがいい」


 余は腕組みしながら、余裕たっぷりにそう告げる。

 その姿を見て、シンカは顔を真っ赤にした。


「おのれ! なら、力づくで聞き出してみせる!」


 そう叫び、再び斬りかかってくる。


「今度は油断しない! 同じ手は喰らわない!」


 先ほどとは打って変わって真剣な眼差しだ。

 だが、余を倒すには到底足りない。

 余は彼の斬撃を、左手の人差し指一本で受け止めて見せた。


「な……!? な、なんだ、それは……! は、放せ!!」


 動揺しつつ必死に剣を戻そうとするシンカだが、ピクリとも動かない。

 魔力で固定したからな。


「無駄だ」


「くそっ! この化け物め……!」


 悪態をつくシンカ。

 余を化け物扱いとは。

 しかしようやく、戦闘能力において彼よりも余が秀でていると認めたか。


「これに耐えられるかな?」


 余は指先から彼の剣に魔力を送り込んでいく。


「ぎゃあああああああっ!!!」


 シンカが悲鳴を上げる。

 周りにいた生徒たちからどよめきが上がる。


「な、なんだあれはっ!?」


「わからねえ……。わかるのは、またレアルノートが何かをしたってことだけだ」


 ふむ。

 この学園は秀才揃いだが、余が何をしたのか理解できなかったのか。

 まあ、まだ高校一年生だしな。

 将来性に期待するしかない。


「私にはわかるわ……。剣先から魔力を逆流させ、アクアマリンの魔力炉を襲ったのよ。相変わらず、とんでもないやつね……」


 だれかは知らんが、正解だ。

 なかなか見どころのあるやつもいるではないか。


 余は声がした方に視線を向ける。

 そこにいたのは、フレアだった。

 なんだ、彼女か。


「あああああっ!!!」


 シンカはまだダメージを受け続けている。

 剣をまだ離さぬとは、根性と精神力だけは見上げたものである。

 欲を言えば、魔力の攻防で余に押し勝つか、それがムリなら剣を手放して次善策を練ってほしかったところではあるが。

 それは求めすぎか。


 彼はよく粘った。

 しかしとうとう、泡を吹き出し、白目を向いて気絶してしまった。

 そのままズルリと崩れ落ちる。


「いかんな。やり過ぎたか?」


「いえ、問題ありません。回復魔法をかけておきますね」


 余の言葉を受けて、イリスがそう答える。


「うむ。任せた」


 余は彼女に回復魔法を任せることにした。

 彼女がさっそく回復魔法を施す。


「では、陛下。念のため、保健室に連れていってきます」


「余も同行してやろう」


「そうですか? ありがとうございます」


「構わぬ。そもそも、余が手加減を間違えたために発生した問題だからな」


 そして、余とイリスはシンカを担いで保健室へと歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る