第21話 学園に帰還

 転移魔法でダンジョンの出口まで戻ってきた。


「それで、これからどうするのよ?」


「とりあえず、学園に向かうか」


 余はイリスとフレアを連れて、学園へと向かい始めた。

 転移魔法は希少かつ消費魔力が多いので、ここからは徒歩だ。

 それほど遠くないので、わざわざ転移魔法を使うほどでもあるまい。


 そして、学園に到着した。

 迷宮の探索を終えた生徒たちは、順次教師に報告することになっている。

 余は担任教師であるリーズのもとへ向かう。

 隣には六武衆のバラガンもいる。


「よう、リーズ。今戻ったぞ」


 余は彼女にそう声を掛ける。


「おう。お疲れ様じゃ」


 余は、リーズから魔道具を返却する。

 ダンジョンに潜る前に各生徒に支給されていたものだ。

 ダンジョン内での魔物の討伐履歴や、踏破階層などが記録される。


「ふむ。まさか3階層の奥まで到達する生徒がいるとはの。レアルノートにはその可能性も感じておったが……。ノイシェルとバーンクロスまでもか」


「さすがだ。それでこそ、儂が見込んだ男よ」


 リーズとバラガンがそう言う。


「ああ。まあ、余の力が大きいがな」


「ほう……? 具体的には?」


「それは秘密だ」


「これは試験なので、そこを話してもらえんと評価が難しいのじゃが……。まあいい。結果だけでもある程度の評価はできる。できれば、後で詳しく聞かせてもらう」


「うむ。構わんぞ」


 リーズは、余たちの実力を高く評価してくれていたようだ。

 バラガンも満足気に頷いている。

 と、そこにまた別の生徒たちが帰ってきた。


「フレア様っ! ご無事でしたか!」


「お一人で3階層に向かわれたときは、心配しましたよ。まあ、魔道具の保険があるので過度に心配はしておりませんでしたが……」


 フレアがパーティを組んでいた者たちだ。

 なぜフレアが3階層に1人でいるのか不思議に思っていたが……。

 どうやら、尻込みするパーティメンバーを置いて彼女が1人で突っ走ったようだな。

 なかなかの気概だが、無謀でもある。

 魔道具の保険がない状態でそんなことをすれば、ただの自殺行為だぞ。


「ふん! 私の実力をなめないでよね! 3階層だって、私にかかれば簡単なものよ!」


 フレアが、得意げに胸を張る。


「さすがはフレア様です!」


「おみそれしました!」


 フレアのパーティメンバーたちが彼女を持ち上げるように褒め称える。

 何だか取り巻きみたいだな。

 まあ、フレアの3階層への突撃に同行しなかったあたり、盲目的な取り巻きというわけではないのだろうが。

 それにしても、フレアが言った内容に気になる点が1つある。


「”私にかかれば簡単なもの”ねえ……」


「何か言いたいことでもあるのかしら、あなた?」


 フレアは、含みのある言い方をする余を睨んだ。


「3階層で魔物に囲まれて涙目になっていたのは誰だったかな? それに、その後媚薬の効果で……」


「わー! ちょっと待ちなさいよ!」


 フレアは慌てて余の言葉を止める。


「何をそんな大声を出しているのです? フレア様」


「どうされましたか?」


 取り巻きたちが心配気にそう声を掛ける。


「何でもないわ! ただ少し喉が渇いただけ」


「……? わかりました。では、向こうの売店で飲み物を買って休憩致しましょう」


「そうね。そうしましょう」


 フレアは、取り巻きたちと歩き出す。


「おい待て。まだ話は終わっていない」


 余は、フレアを呼び止める。


「もうっ! しつこいわね!」


 フレアがこちらに駆け寄り、顔を近づけてくる。


「(いい! 魔物に囲まれていたこと、それに”あのこと”を言いふらしたら、ただじゃおかないわよ! バーンクロス家の総力を上げてあなたを潰すわ!)」


 彼女が小声でそう耳打ちする。


「(ふむ? お前の態度次第では考えてやらんでもないな。しかし、”あのこと”というのは具体的には何だ?)」


 あいまいな物言いのままで約束をして、うっかり反故にしてしまうのは余の思うところではない。


「(…………! だから、それは……)」


 フレアがなおも言いよどむ。

 そこに、イリスが口を挟んできた。


「(つまり、媚薬を嗅いで発情し、陛下の指でよがりくるったことを口外してほしくないのですよね? フレアさん)」


 イリスは微笑を浮かべながらそう告げた。


「(なっ!?)」


 フレアの顔が真っ赤に染まる。


「(そ、そんなわけないでしょう! この私が! そんな変態みたいなことを!)」


「(そうなのですか? 私はてっきり、その件かと……。では、この件は皆さんに言ってもいいということですね?)」


 イリスが少し悪い顔で微笑む。


「おーい! 皆さ……」


「わー! わー!」


 フレアが慌ててイリスの口を塞ぐ。

 取り巻きは既に離れているので、イリスの声は聞こえなかったようだ。


「え……ちょ、それは困る……けど……。何でもするから、それだけはやめて!」


「……何でもする? その言葉に二言はありませんね?」


「うん! 言うことを聞く! なんでも」


「それなら、今回はなかったことにしてあげます。これは貸しですよ? ねえ? 陛下」


 イリスが何かを企んだような顔でそう言う。


「う、うむ……」


 一体、何を考えているのだ?

 フレアは今回醜態を晒したが、一応は首席合格者である。

 うまく導いてやれば、将来的に余の有能な配下となるやもしれぬ。

 こんなところで要らぬ噂を立てて失脚させるには惜しい人材だ。


「わかったわよ……! それでいいんでしょ! まったく、なんて奴らなの!」


 フレアは、心底悔しそうに歯噛みする。

 そして、余を睨みつけてきた。


「覚えておきなさいよ! 私に恥をかかせた罪は必ず償ってもらうんだから! 覚悟しておくといいわ!」


 フレアは肩を怒らせながら、売店の方に歩いていった。

 やれやれ。

 怒りの矛先は、余ではなくてイリスに向けてほしいものなのだが。

 余はため息交じりで、そう思った。

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