第13話 こ、こんな発想があったとは!
六武衆のバラガンにより、最新術式の講義が行われている。
口論するフレアとシンカを見て、バラガンが魔法陣のテストを2人に課した。
2人はそれなりの答えを示したが、やや不十分な点があった。
余がお手本として、2人の答えを一部修正してやったところだ。
「ふっ。これが理解できるだけでも、大したものだ。褒めてやろう、フレアにシンカよ」
余は2人にそう言葉を掛ける。
目下の者のがんばりを認めてやるのも、上に立つ者の責務だ。
「ふむう……。儂が本来考えておった術式とは異なるが……。これはこれで……」
バラガンが余が描いた魔法陣を見てそうつぶやく。
「小僧、やりおるな。ディノス=レアルノートという名前を覚えておこう!」
「うむ。よく覚えておくといい」
ディノス=レアルノートという名前を聞いて魔王を連想するのは、余の直属の配下である四天王や側近のイリスぐらいのものだ。
六武衆は魔王軍において四天王に次ぐ最高クラスの幹部だが、余の顔と名前は知らない。
「ところで、バラガンよ。貴様はこの魔法陣の研究をどの程度まで進めておるのだ?」
「む? これが最新だ。レアルノートが描いた魔法陣を取り入れれば、さらなる進歩が期待できそうなところではあるが」
バラガンがそう答える。
「ふむ。ここまでで最新か。よく考えられている。褒美として、余がさらなるヒントを与えてやろう」
カッ!
カッカッ!
余は黒板の魔法陣に、加筆していく。
表層への加筆だけではなく、バラガンが描いていた基礎となる部分にも修正を施した。
「小僧、儂の魔法陣に何を……?」
「御託はいい。まずは見てみろ」
「むう……。こ、これは……!」
バラガンが目を見開く。
「奥深い術式だ。第三回路と第四回路の結びつきがより強固に? しかも、この第五回路と第六回路にもシナジーが発生しておる」
「ああ。しかし、それだけじゃないぞ。もっとよく見てみろ」
「バ、バカな……! 第七回路が全ての回路に回帰して、魔法陣全体の安定性と出力が段違いに増しておるだと!? こ、こんな発想があったとは!」
バラガンが驚愕の表情を浮かべる。
この短時間でそれに気づくとは、さすがは六武衆の一角である。
「な、何が何だかよくわからんが、すごい魔法陣のようだな」
「またレアルノートさんね。的あての実技といい……。すごい人だわ」
「なぜあいつが首席合格者じゃなかったんだ……?」
生徒たちがざわつく。
余が首席合格者でなかったのは、入学試験に途中で割り込んだことに起因する。
試験のうちの一部を受けられなかったので、その分の点数が不足しているのだ。
さすがの余とはいえ、受けていない試験で点数を取れる手段は持ち合わせていない。
もちろん余の権力や裏金を用いればどうとでもなるが、そういうわけにもいかないからな。
「ぐぎぎ……! ”余”野郎め。おいしいところを持っていきやがって!」
「ふうん。実技だけじゃなくて座学も優秀なんだ。バーンクロスだけじゃなくて、レアルノートにも警戒をする必要があるみたいだね」
フレアとシンカがそうつぶやく。
「ふっ。お前たちも悪くはなかったぞ。お前たちなら、1年ほど考え込めば今回の改良案を自力で思いつくことも可能だったであろう」
余は彼女たちをそうねぎらう。
それなりの結果は出したが今一歩至らなかった配下を労るのも、上に立つものの責務なのである。
「くっ! 偉そうに!」
「でも確かに、僕の知識ではそれぐらいかかったかもしれない。レアルノートはこの一瞬で導き出したのに……」
フレアとシンカがそう言う。
素直さでは、シンカが少し上か。
彼は伸びるかもしれない。
一方のフレアはフレアで悪くない。
こういう負けん気が強い女は、適切に機会を与えてやれば伸びるものだ。
余がそんなことを考えているとき……
「ガハハ! ガハハハハ!!!」
バラガンが突然大声で笑い始めた。
「儂は幸運だ! レアルノートのような稀代の天才を教え子に持つとは!」
ふむ。
彼にとっては、教え子に逆に教えられたわけだが。
メンツや誇りなどについては特に気にしていないようだ。
まあ、そんな些末なことに気を取られて実利を疎かにするようなやつなら、そもそも六武衆という大任には就けていないが。
「バラガン殿。そろそろ授業の時間が終わりとなります。次回の授業の予告をしていただかないと……」
教師のリーズがそう声を掛ける。
「むっ!? おお、そうだったな! ……よし、諸君らには、儂から課題を与えよう!」
バラガンがそう言う。
六武衆が直々に出す課題か。
どの程度のものか、お手並み拝見だ。
「この学園には、初級のダンジョンが併設されているのは知っておるな? 諸君の攻撃魔法や武術で、その迷宮を攻略してみせよ!」
ふむ。
ダンジョンの攻略か。
実戦形式だな。
高校一年生に出す課題としてはやや難しいような気もするが……。
ここは世界の中でもトップクラスの人材が集まる学園だ。
優秀な彼らであれば、やってやれないことはないだろう。
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