第12話 魔法陣のテスト
座学の授業中だ。
六武衆のバラガンが特別講師として最新術式の説明を行っている。
余の両隣に座るフレアとシンカの口論がヒートアップしてしまったところだ。
「ふん! 人族ごときが!」
「何を! 傲慢な魔族め!」
フレアとシンカがにらみ合う。
余の言葉にも、聞く耳持たずだ。
「(陛下。ここは、わたしの雷魔法で2人を黙らせましょうか?)」
余の側近であるイリスがそう提案してくる。
「(ふむ。気持ちはありがたいが、60点だな。武力で押さえつけたところで、また同じことを繰り返すぞ)」
フレアとシンカは首席合格者であり知識も実力もある。
しかし、精神的には不安定で未熟だ。
力で押さえつけるだけでは学ばぬだろう。
「ガハハ! そこの2人、どちらが優秀かで騒いでおるのか?」
バラガンがそう声を掛ける。
講義を妨害されて、さすがに放っておけないといったところか。
しかし、妨害されたこと自体はさほど気にしていないようだ。
さすがは、余が選定した六武衆。
なかなかの器を持っている。
「……別に、騒いでいるわけじゃありません」
「バーンクロスの傲慢さが目に余るだけです」
フレアとシンカが、バツが悪そうにそう言う。
上位者のバラガンからの直接の問いかけの上、クラス中の注目を集めては、さすがに口論を続けるつもりはないか。
「ガハハ! 隠さずともよい! 優劣をはっきりさせるのであれば戦闘が手っ取り早いぞ。儂が審判を務めてやってもよいが……」
「バラガン様。今は座学の授業中ですのじゃ……」
女教師のリーズがそう口を挟む。
「ふむ! ……では、こういうのはどうだ!?」
バラガンがいいことを思いついたというような表情で、黒板に何やら魔法陣を描いていく。
ちょうど先ほどまで説明していた術式を応用した魔法陣だな。
「この魔法陣は、あえて一部を省略しておる! 描き足して、万全の魔法陣にしてみよ! 正解は一つとは限らぬ! お主たち二人の発想力を見せてもらおう!」
なるほど、そういう趣向か。
これなら、この場における座学の優劣がはっきりとするな。
だが、あの魔法陣は高校生には難易度が高い。
今までの説明を完璧に理解しておれば、回答も可能だろうが……。
「何だあれは……。さっぱりわからねえ……」
「難しいわ……」
生徒たちからそう声が上がる。
彼らが授業を聞いていなかったわけではないだろう。
聞いて理解するのと、理解したことを実践に移すのでは差があるのだ。
今日聞いたばかりの最新術式を魔法陣で表現するのは、ハードルが高い。
「ふん! 望むところです!」
「僕も、受けて立ちますよ!」
フレアとシンカがそう言う。
あの魔法陣に付け足す案があるのか。
なかなかやるではないか。
そして、2人が同時に前に出る。
「ガハハ! 2人とも名乗りを上げるとはな! 大いに結構!」
バラガンが豪快に笑う。
「さあ、どこにどう描き足す!?」
「私はここに注目したわ! 第三回路と第四回路をリンクさせることで、出力が2割ほど増すはずよ!」
フレアが自信に満ちた表情で、魔法陣に描き足していく。
「僕はここだね。第七回路から第二回路にフィードバックさせることで、安定感が格段に増すはずさ」
シンカが静かに魔法陣に描き足す。
「陛下。あれをどう思われますか?」
「ふむ。悪くはないな。高校一年生としては、十分だと言っていいだろう」
イリスの問いに、余はそう答える。
「ガハハ! バーンクロスもアクアマリンも、なかなかの秀才ではないか!」
「ふふん。それほどでもないわ」
「まあ、人族の誇りを守るためにはこれぐらいはね」
フレアとシンカは褒められて満更でもない様子である。
「だが、まだまだ改善の余地はあるぞ! だれか、わかる者はおらんか?」
バラガンがそう言って、余たち残りの生徒を見る。
「首席合格のバーンクロスさんとアクアマリンさんでも不十分だったのか……」
「そんなの、わかるやつなんているのか……?」
生徒たちがそうこぼす。
確かに、今の一年生の中でもあの2人はトップクラスに優秀だ。
彼女たちでムリなら、他の生徒たちが正答することは厳しいだろう。
しかし、それはもちろん余を除けばの話だ。
「よし。余が手本を見せてやろう」
「むっ!? ディノス=レアルノートか。よかろう、やってみよ」
余は黒板の前に出る。
「ふんっ! ちょっと実技が得意だからといって、調子に乗っているわね! 凡人には、この魔法陣の表層すら理解できないでしょう!」
「下手にいじると、暴発の危険もあるよ。知らないことには手を出さないのも、勇気の1つの形だよ」
フレアとシンカがそう口を挟んでくる。
「案ずるな。この程度、余にとっては幼児向けの絵本のようなものよ」
余はすらすらと魔法陣に描き込んでいく。
フレアとシンカが描き込んだ魔法陣を少し修正し、威力と安定性のさらなる向上を図った。
「そ、そんな……!? たったそれだけの修正で、さらに威力が上がった……?」
「それに、安定性も……。こんな魔法陣の構成があったなんて……」
余が描いた魔法陣を見て、フレアとシンカがそうこぼす。
それぞれ自分では思いつかなくとも、余が描いた魔法陣を見て理解できる程度の実力はあるようだ。
最低限の見込みはあると言っていいだろう。
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