第11話 最新術式の座学
魔法のテストの日から数日が経過した。
無難に授業を受け、日々を送っている。
フレアとシンカは毎日のように口喧嘩をしているが、戦闘にはなっていないのでまだマシだろう。
余も止めてはいない。
「さて。今日は、ちょいと難しめの授業を行うのじゃ。特別講師として、再び六武衆のバラガン様が来られておる。心して拝聴するように」
女教師のリーズがそう言う。
そして、バラガンが前に出る。
魔法のテストの日にも視察に来ていたな。
今日は視察だけではなくて、魔法の講義まで行ってくれるわけか。
余から見れば格下の存在ではあるが、一般的に見れば間違いなく上位の実力と知識を持つ。
今この場にいる生徒たちは、滅多にない機会を得たと言っても過言ではないだろう。
さすがは、この世界で最高の人材を育てるために新設された学園である。
「皆のもの、また会ったな! 儂がバラガンだ! 今日は、儂がここ最近取り組んでおる最新術式の一端を教えてやろう!」
バラガンは、無骨な武人タイプの魔族である。
年齢は60歳以上。
しかし、知識においても相当に上位だし、未知の術式を研究する気力も持っている。
魔族陣営にとって、なかなか頼りになる存在であった。
「……であるからして……」
バラガンによる講義が進んでいく。
説明は簡潔かつ明瞭で、わかりやすい。
しかし、内容は独自性を持った最先端のものである。
生徒たちは、付いていくのに必死な様子だ。
そんな中、少しだけ余裕を持って付いていっているのが、余の近くに座っている3人である。
「(陛下。バラガン殿は、平和な世でも日々研究を怠っていないようですね)」
1人目は、余の後ろの席に座るイリスである。
今は授業中なので、彼女は小声で話しかけてきている。
「(そのようだな。まったく、見上げたやつよ。あの術式が1年前にあれば、ノースウェリアに余が出張る必要もなかったやもしれぬな)」
余は小声でそう返答する。
ざっと聞いて理解した限りだと、まだまだ理論が甘く、術式も荒い。
しかし、うまく使えれば化けるだろう。
そんな余とイリスが会話しているのを聞きつけ、2人目がこちらを向く。
余の右隣に座っているフレアだ。
「(ふん。講義中に雑談なんて、余裕ね。それとも、理解を諦めたのかしら?)」
フレアが小声で話しかけてくる。
余とイリスが会話していることはわかったが、内容までは聞こえていなかったようだ。
「(そんなことはないぞ。なかなか興味深い術式だ)」
「(本当に理解しているのかしら? ……まあ、あなたも一応は魔族ですものね。そちらの劣等種である人族よりは、マシね)」
フレアがバカにしたような表情でそう言う。
彼女の視線は、余の左隣に座っている者に向いている。
「(人族をなめるな。魔族の強大な魔力に対抗するために、人族は知恵を振り絞ってきたんだ。座学こそ、僕たちが負けるわけにはいかない!)」
シンカが負けじと言い返す。
彼女たち2人の視線がぶつかり合い、火花を散らす。
余を挟んでつまらぬ諍いを起こすでない。
「(やれやれ……。少しは仲良くできぬのか)」
余はそう言う。
首席合格者同士、友好を深まれば互いに利があるだろうに。
今のまま切磋琢磨するのも悪くはないが、過剰な競争心は軋轢を生む。
それに、周囲の者にも悪影響を及ぼす。
「ふん! 下等な人族と仲良くなんかできるものですか!」
「それはこっちのセリフだね。生まれついての魔力に頼り切った傲慢な魔族と、仲良くなどできない!」
「何ですって!」
「何だよ!」
フレアとシンカがにらみ合う。
ある意味では息が合っており、逆に感心してしまうな。
しかし、ヒートアップしてどんどん声量が大きくなってきている。
講師のバラガンや生徒たちの視線がこちらに向いてしまっている。
「落ち着け。そもそも余から見れば、今のお前たちなど五十歩百歩。あるいは、どんぐりの背比べと言っていい。どちらが上かなど、些細なことだ」
余はそう言う。
高等学園に入学したばかりの生徒の中でだれが一番優秀かなど、今後を測る上での目安でしかない。
大切なのは、将来何を成すかだ。
将来というのが遠すぎてイメージが湧かぬのであれば、せめて学園の卒業時に一番優秀であることを目指すのがいいだろう。
現時点で他者と口喧嘩に精を出す暇があるのであれば、少しでも鍛錬や勉学にその時間を回すべきだ。
「うるさいわねっ! 何様のつもりよ。この”余”野郎!!!」
フレアがそう言う。
いつの間にか、余の呼び名が”余”野郎になってしまっている。
この学園で”余”という一人称はめずらしいようだ。
「バーンクロスに同意するわけじゃないけど、外野は口を出さないでくれるかな。レアルノート君」
シンカが冷たい瞳をしてそう言う。
やれやれ。
2人とも、簡単には引き下がりそうにないな。
これが実技魔法の授業中であれば、魔法の実力で黙らせてやるのも一興だが。
今は座学の最中だ。
さて、どうしてやったものか。
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