第10話 不勉強だな、フレアよ
魔法のテストの続きだ。
フレアとシンカは160点。
イリスは力を抑えて130点。
他の者は、80点ぐらいの者が多い。
余は180点ほどを狙うつもりだ。
規定の位置まで歩みを進める。
周囲の視線が余に向けられる。
「見ろ。ディノスだぜ」
「入学式でフレアさんとシンカさんの戦いを止めた男……。魔法の威力はいかほどなのか……」
生徒たちがそうつぶやく。
余が一定以上の実力を持つことは、入学式に出席していた者であればだれでも勘付いている。
しかし、実際に攻撃魔法を見せてやったことはない。
この機会に余の実力を把握しようといったところか。
余は規定の位置に立ち、魔力を整える。
「揺蕩う炎の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。火の玉を生み出し、我が眼前の敵を滅せよ。ファイアーボール」
ごうっ。
余の手のひらから、小さな火の玉が射出される。
最初級の攻撃火魔法、ファイアーボールだ。
「ふん! あれだけでかい態度を取っていた割には、たかがファイアーボールだなんてね! ファイアーバレットはあなたには難しかったかしら?」
フレアのバカにしたような声が聞こえる。
確かに、ファイアーボールはファイアーバレットよりも格下の魔法だ。
普通に考えれば、フレアの言っていることに一理ある。
しかし……
ドゴーン!!!
ファイアーボールが的に着弾し、大きな火柱を上げる。
近隣の的を含めてまとめて粉砕した。
「なっ!? なにあれ!?」
フレアが驚愕に目を見開く。
「不勉強だな、フレアよ。魔法は、術者の魔力の影響を強く受けるのだ」
「そ、そんなことは知っているわ!」
「なら、目の前の減少を理解できるだろう。つまり、貴様が発動したファイアーバレットよりも、余が発動したファイアーボールの方がはるかに威力が上というだけのことだ」
余がファイアーバレットを発動してしまうと、そこらの魔法使いが発動した最上級魔法クラス以上の破壊力を持ってしまう。
この校庭などは半壊してしまうだろう。
それは余の望むところではない。
そのため、わざわざ最下級のファイアーボールを使ったというわけだ。
「う、嘘よ……。こんな魔法があり得るわけ……」
フレアがまだ呆然としている。
「み、見ろ! 隣の木に火が燃え移っているぞ!」
む。
いかんな。
わざわざ最下級のファイアーボールを使ったというのに、それでも威力が強すぎたようだ。
的から少し離れたところにあった木が燃えてしまっている。
余の制御力もまだまだだな。
細かい制御は苦手なのだ。
「僕に任せて! ……慈しむ水の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。水の槍を生み出し、我が眼前の敵を貫け。ウォータースピア!」
バシャーン!
シンカが発動した水魔法が炎にかけられる。
しかし……
「そ、そんな……。僕の水でも火が消えない……?」
シンカが驚きの表情を浮かべる。
魔力で生成された火は、その魔力に応じて火力が異なる。
余の魔力が込められたあの火は、そこらの水魔法で消えることはない。
とはいえ、相当に手を抜いて発動した最下級のファイアーボールの火ですら、消すことができないとはな。
「やれやれ。自分の不始末は自分で処理せねばならぬようだ」
まあ、余のコントロール不足がこの出火の原因だ。
シンカの水魔法がイマイチだったからと言って、責めはしまい。
「……慈しむ水の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。水の玉を生み出し、我が眼前の敵を滅せよ。ウォーターボール」
とぷんっ!
余の魔力で生成された水の玉が燃え盛る木に向かっていく。
「僕のウォータースピアですら鎮火できないのに、ウォーターボールで鎮火できるはずが……」
シンカが訝しげにそう言う。
確かに、一般的にはその通りだが。
先ほどの余とフレアの話を聞いていなかったのか?
ジュワッ!
燃え盛る木が水に包まれ、火が消える。
無事に鎮火できたようだ。
「そんなバカな! たかがウォーターボール1発だけで、あれだけの火が消えるなんて……!」
シンカがそう叫ぶ。
あの火は、余のファイアーボールが出火元だ。
そして、今のウォーターボールは、ファイアーボールよりも少しだけ多めに魔力を込めておいた。
鎮火できて当然だ。
「す、すげえ……! ディノスはとんでもねえ力を持っているみたいだぜ」
「最初級のファイアーボールやウォーターボールがあの威力を持つとは……。理屈はわかるが、理解が追いつかねえ!」
生徒たちがそうざわつく。
首席合格者のフレアとシンカを含め、素養は悪くない者が揃っているのだが。
現時点での実力や知識はまだまだだな。
これからに期待しよう。
「おお……。今年の入学生には特に期待できそうだ」
六武衆のバラガンがそうつぶやく。
「そこまで! ディノス=レアルノート。180点を獲得じゃ」
リーズがそう言う。
「180点ですって!? 私よりも上じゃないの!」
「魔法の威力は認めざるを得ないけど……。消火のために魔法を使っていたのに、いつの間に他の的を?」
フレアとシンカがそう言う。
「ふん。左手で消火のためのウォーターボールを発動し、右手で引き続きファイアーボールを的に当てていただけのこと。もちろん、これまで以上に加減してな」
「ま、魔法の並列発動ですって!? いくら最初級の魔法だからと言って、そんなことができるはず……」
フレアがそう言って、俺をにらむ。
並列発動は、まだまだ研究中の技術だ。
上位魔族でも、実現できる者は少ない。
「とんでもない人がいたものだね。フレア=バーンクロスに加えて、君のことも要注意人物として覚えておくよ。ディノス=レアルノート君」
シンカが余をにらむ。
そうして、波乱の魔法テストは幕を閉じたのだった。
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