第14話 ダンジョン攻略試験に向けて
最新術式の座学の講義が終わった。
次回の授業の予告をバラガンが行っているところだ。
「今回は初回だ。全員に金貨10枚を与える。それを用いて、ダンジョン攻略に必要な物を揃えるがよい。武器でもいいし、ポーションでもいいぞ」
金貨10枚か。
魔王である余からすれば大した金額ではない。
しかし、高校一年生の一般生徒からすれば大金だろう。
ずいぶんと太っ腹だ。
まあ、元は生徒たちの学費なのだろうが。
一般市民なら、1人が1か月慎ましく生活していけるぐらいの金額である。
中級の宿屋暮らしでも、10日以上は宿泊できる。
金貨10枚あれば、最低限の武器や防具は手に入るだろう。
初級のポーションを買うのもありだな。
「今回の迷宮は、全10層で構成されている! だが、何も最深部までの攻略は求めない。1階層を突破すれば及第点だ。2階層を突破すれば優秀。3階層を突破すれば、最高評価をくれてやろう!」
初級のダンジョンとはいえ、高校一年生にはやや荷が重い。
バラガンの評価軸は適切だろう。
「よし! やってやるぜ」
「せっかくこの学園に入学できたんだもの。優秀な成績を収めて、両親を安心させてあげなきゃ……!」
生徒たちがやる気になっている。
最高峰の人材が集まるこの学園で優秀な成果を挙げられたのならば、将来は約束されたようなものである。
「ガハハ! 期待しておるぞ。では解散!」
こうして、波乱に満ちた講義は幕を閉じた。
余とイリスは教室を出て、廊下を歩く。
すると、背後から足音が聞こえてきた。
振り返ると、そこにいたのはフレアであった。
「ねえ、ちょっといいかしら?」
「なんだ?」
「あなた、ダンジョン攻略には1人で挑戦するつもりなのかしら?」
「ふむ? なぜそのようなことを聞く?」
「あなたみたいな傲岸不遜な奴は、どうせ他に組む相手もいないのでしょう? 首席合格者であるこの私がいっしょに組んであげてもよろしくってよ」
フレアがそう言ってくる。
「ふん。それは無用の誘いだな。余には、イリスという有能な配下がいるのでな」
余はそう言う。
ダンジョン程度、もちろん1人でも攻略できるが。
加減というものがよくわからん。
イリスがいっしょであれば、適度に手を抜けるであろう。
「まあ! なんて言い方!」
「事実だから仕方あるまい。それにお前は、余と張り合うほどに優秀だという自負があるようだが、その程度の実力で自惚れるでないぞ」
フレアの実力が優秀であることは間違いない。
首席合格者は伊達ではない。
しかし、そのことにやや慢心している様子も見受けられる。
高校入学時に首席な程度で満足しているようでは、今後が思いやられる。
余は基本的には部下を褒めて認めて伸ばしてやるタイプだが、それも相手による。
フレアのような者を放置しておくと、本人のためにもならない。
少しばかり、釘を刺しておいてやることにしたのだ。
「なんですって!」
「なにか文句でもあるのか? 事実だろう。的あてでも座学でも、余に勝てたことがあるのか?」
「くっ…………! くそっ! 覚えてなさい!」
フレアは肩を怒らせて去っていった。
ふと、隣でため息が聞こえた。
「む? どうした? イリスよ」
「陛下。今のは、陛下が陰キャぼっちを脱出するチャンスだったのでは?」
「ぬう? 余が陰キャぼっちだと?」
この高校に入学する前にも、そのようなことをイリスに言われたことがある。
「ええ。だって、いつもわたし以外の女子とは、ろくに会話もしないじゃないですか」
「むぅ……」
確かに、クラス内における人間関係は構築できていない。
フレアと交友を深めるよい機会だったか。
今の余はただの一学生。
同級の女子とパーティを組み、適度に導いてやるぐらいはしてやってもよかったかもしれない。
余の判断力もまだまだだな。
「そうだな。次からは気を付けよう」
「はい。そうしたほうがよろしいかと」
それはそうとして、ダンジョン攻略に向けた準備も進める必要がある。
「ところで、イリスはダンジョンで何が必要だと考える?」
「私は、攻撃魔法が得意ですからね。武器よりは、ポーション類のほうが重要だと思います。あとは、水と食料でしょうか。それほど深く潜る必要はありませんが、それでも数時間以上はかかるでしょうし」
「ふむ。なるほどな」
イリスは、必要物資について詳しく説明してくれた。
さすがだ。
イリスのおかげで、余はダンジョン攻略に必要な物品を揃える算段がついた。
こうして、余とイリスの2人は、必要な物を買いそろえるために街へと繰り出していくのであった。
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