第3話 牢の中の彼女

 奴隷商がいる大きな劇場テントのようなものの中から、男達の大きな笑い声が聞こえた。

「あ~あ。タイミングわりぃ~!なんでこのタイミングで俺が見張りなんだか!」

「落ち着け、後二十分もすれば交代の時間だ。そうすれば中で楽しめるだろ」

「って言ってもよ~、二十分なんて何回まわされてるか。はぁ……」

「まぁまぁ、今回は人数が人数だ。数人ぐらい初物はつものが残っているだろうさ……誰だ!」

 俺が歩いて入口に向かうと、入り口前で話していた男二人が、声を荒げた。

「お前、誰だ?客……じゃ、なさそうだな」

 男は血に濡れたローブと、男爵の首を見て、警戒を強めて腰の短刀を抜いた。その様子を見てもう一人の男も慌てて剣を抜く。

「その首、見覚えがある。アグリー男爵だろう?その首を持っていると言う事は、目的はアグリー男爵が持ち込んだ女達か。ちっ、やっぱりいわく持ちだったか」

 男は悪態を吐いてこちらを睨んでいるが、俺は興味が無い為、相手の刺客を突くように走り込む。

「なっどこに行った!気をつけろよ!あいつは男爵の首を取ってくる実力者だ、警戒を怠るなよ!」

「……」

「おい!聞いてるのか!返事位した、ら……」

 俺はまず初めに、反応が遅かった男のした顎から上を斬り飛ばし、もう一人の男に向き直る。男はその様子に目を見開き、硬直していたが、すぐに現状を理解して跳び下がりながら短刀をこちらに向ける。

「畜生!」

 男は悪態を吐きながら、素早くこちらに突貫する。中々に速いが及び腰で、勝とうと言う気概が全くなかった。俺は短刀を軽く弾き飛ばし、反動によって男を地面に転がした後、肩に剣を突き立てた。

「ぐぁっ!」

 男は口から苦痛の声を吐き、顔をしかめる。俺はそれを横目で見ながら剣をひねり、傷口を広げた。グチャリと肉と血が音を上げる。男は痙攣するように暴れた後、痛みによって意識を手放した。その男を簡単に縛り上げた後、俺は入り口をゆっくりくぐった。薄汚れた牢と、その中にいる女性達と、男達の姿が目に入った。男達の数は十三人。こちらには気づいておらず、牢内の女性達を下劣な表情で見つめている。俺はローブのフードを被り直し、真正面から向かう。だが男達も、牢内の女性達も気付かない。その時、三人の男が立ち上がり、牢に向かって歩み出した。目的は牢内の女性、その中でも、一際綺麗な灰金色アッシュブロンド髪の女性のようだ。きっと彼女が、俺の目的の人物・・・・・だろう。そう思った俺は、牢に向かって走りながら剣を振りかぶった。

「い、いやっ……こない、で……」

「さっきまで強い目をしてたからどういう風に崩してやるかと楽しみにしてたんだが、これはこれで面白そうだなぁ。精々恐怖して、泣いて喚いてくれよぉ?ヒャッハハ……は?」

 俺は牢前に来ていた三人の男の首を一瞬で切り裂いた。そして返り血が牢内に飛ばないよう、男と牢の間に入る。

「な!?アイツ何時から、どこから入って来た!」

「外の見張りは何をやってる!」

 男達は残り十人、その内八人は喚いたり動揺しているだけで、こちらを真剣に捉えて、武器を構えているのは二人だけであった。

「お、おい!誰か、何とかしろ!!」

 一番喚ていている奴隷商らしい男は良いとして、傭兵と思われる男達も動く様子がほぼない。俺は先手の意味も込めて、ゆっくりと前へ動き出す。

「こっちに来るぞ!」

「し、死にたくなぃ」

 男達は腰が引けた状態で、武器すら構えず後ずさる。構えている男二人は、周りに声を掛ける訳でも無く、ゆっくりと外に向かって後退していた。だが、誰も逃がすつもりはない。俺は速度を上げて、俺に一番近かった男二人と、入り口に近かった男一人を斬り、絶命させる。

「きゃあぁぁ!!」

 牢内にいた女性達も、目を見開き、血を噴き出し転がる頭を見て叫んでいる。

「くそがっ!」

「くらえっ!」

 その時、武器を構えていた男二人が、息を合わせて斬りかかってくる。左右からの挟撃であった。それを俺は屈んで回避し、体をひねって一回転して足を斬り落とした。

「ぐっ!?」

「あがっ!?」

 男二人は立つ為の部位を失い倒れ込む。そしてがら空きになった体を斬り薙ぐ。残り五人。残りの男達はやっと武器を取り出し、震えた腕で剣を構えていた。俺はそんな男達の元へ走り込み、一人、また一人と心臓や肺を貫き、首を斬り落とす。そして最後に奴隷商を殺して、俺は自身の剣にこびり付いた血を拭う。男達の声が無くなった奴隷商のテント内は、女性の泣く声で満ちていた。

「あーっと……無事か?」

 何と声を掛けたら良いか分からなかった俺は、少し言葉に困りつつも当たり障りの無い言葉を掛けた。

「ひっ!」

「殺さな、いで……」

 まぁ、目の前が血みどろで、その原因が俺なのだから仕方ないか。そう思いながら俺は、唯一怯えの感情が見えず、こちらを真っ直ぐ見つめる彼女・・の元に向かい、腕を拘束する鎖を剣で斬る。彼女は慌てて立ち上がろうとするが、足にうまく力が入らなかったようで、倒れ込みそうになる。

「大丈夫か?」

 俺はそんな彼女を倒れないように支えながら声を掛ける。

「あ、ありがとう、ございます……」

 彼女は小さい声でそう小声で言い、顔を俯かせながらもチラチラと顔を窺うようにこちらを見ていた。その仕草が、ふと愛おしく見えた。

「あの……」

 彼女が恥ずかしそうに俺の顔を見る。

「あ、悪ぃ!」

 俺は彼女をずっと抱き寄せたままな事に気づき、急いで体を離す。俺に付いていた返り血が服についてしまった。だが、彼女はその事を気にしていないようで、少し寂しそうな表情をした後、慌てたような表情で顔をペチペチ叩くと、ある程度落ち着いたようで、頬を赤くしながらも話しかけてきた。

「助けていただいて、ありがとうございました。私はシェーラ・サウナットと言います。よろしければお名前を聞かせて頂けますか?」

「あ、えーっと、俺はルッシュ・ジ……えっと、ルッシュだ」

 彼女の雰囲気にのまれ、つい昔のような話し方・・・・・・・・をしてしまった事に、少し苦い顔をしながらも、何とかいつも通りに返答する。彼女はその事を不思議そうな顔で見ていたが、空気を読んでくれたようで、何も追求せずに話を続けた。

「ルッシュ様ですね?」

「あ、あぁ……そうだ。他の女性の鎖も斬りたいんだが、怖がられていると思う。一緒に来てくれませ……あー、一緒に来てくれ」

「はい、こちらからもお願いしたい所でした。お願いできますか?」

 俺は、少し変な話し方になりながらも、目的を伝え、一緒に付いて来てもらった。

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