第2話 牢の中から不謹慎にも(シェーラ視点)
「しっかし、上玉揃いですねぇ、
「駄目に決まっているでしょう。なんせ
「嫌だね、まだおっちにたくは無い……だが、こんなに質の良い
「それは些か早計かもしれませんよぉ?」
「ってーと?」
「いやなに、アグリー男爵様に媚び
「おっ、良い話を聞いた!俺はあの女を貰おうかな!胸もデカいし顔もまぁまぁだ」
「おれはぁー、あの子に、する」
「お前はガキの女が好きだよなぁ、引くぜ。そのくせブツはデカいから数回で壊れちまう」
「俺は……あの女が良いな!」
「あー……あの女は無理ですね。伯爵様の狙いはあの女だそうですよ?」
「チッ!なんだよ!……元々傷物だったって事にすれば、良いんじゃね?一回ぐらい犯ってもバレないっしょ?」
「そう言ってお前、傷物じゃなくて壊れ物にしちまうじゃねぇか!」
「はぁ……そう言う貴方達も、指定した女が貰えると思ったら大間違い。と捕らぬ魔物の
遠くで男達が下品に騒いでいる。時折向けられる
「シェーラ様……」
私の名前を呼ぶ方に視線を向けると、私の侍女や、聖樹魔法の修練を手伝ってくれたシスター達、私が誘拐された時に偶然居合わせた子供達が、不安そうにこちらを見つめていた。私はその視線を受け、私がしっかりしなければと思った。
「大丈夫よ、すぐに騎士が助けに来るわ」
男達には聞こえない声量で、私は皆を安心させるように言った。けれど、私心は焦りが消えなかった。なぜなら、私の誘拐に居合わせた人は漏れ無く全員捕らえられるか殺されてしまった。あの時、侍女兼護衛のクーナがいたならば話は違ったであろうが、クーナは今朝お父様に呼ばれ、家にいたので居合わせなかったのだ。明日の朝には帰ってくるだろうが、その時私達がどうなっているかは分からない。魔法を使っての脱出も考えたが、戦闘などしたこともない小娘一人で、戦闘経験豊富な大人の男を十数人も相手取れる訳がない。それに鎖で拘束されたままでは、魔法に巻き込んでしまう可能性や、人質に
「なぁ、やっぱり犯っちまおうぜ!」
「そうだぜ、こんな美人、勿体ないぜ!と言うか、犯させたくなかったらこんな所に預けるなって話でしょう?」
「そうそう、奴隷商人とそのお仲間に一晩美人を預けるとか、もう了承と取っても良いだろ」
下品な笑みを浮かべながら私に近づく三人は辛抱堪らないと言った風に言うと、先程まで男達を止めていた奴隷商人らしき男が急に手のひらを返して言った。
「まっ、それもそうですね。これらを連れ、アグリー男爵様の勢力外まで逃げられれば、この奴隷達は私達の物ですからねぇ?例え
「よし、了承も得たし犯るか!」
「と言うか、あんだけ渋ってたのにころっと許すとか、アンタ元からトンズラするつもりだったろ」
「えぇ、当たり前じゃないですか。こんな
「はっ!もう二度と会わない上に、欠片も思っていないくせして良くいうぜ!」
そうこうしている間に、三人の男は私の目の前まで来ていた。柵で隔たれているとは言え牢は狭く、鎖で繋がれたままではどう逃げてたとしても、手を伸ばせば否応無く触れられてしまう。私は、間近で男達の視線と吐息を受け、強く持とうとしていた意思は、簡単に脆く崩れ去った。
「い、いやっ……こない、で……」
声の震えは止まらず、堪えていた涙は呆気なく流れた。その姿を見て男達は楽しそうに笑う。
「さっきまで強い目をしてたからどういう風に崩してやるかと楽しみにしてたんだが、これはこれで面白そうだなぁ。精々恐怖して、泣いて喚いてくれよぉ?ヒャッハハ……は?」
私の恐怖と羞恥を煽るように、わざと強く言っているのは分かっていた。でも、男の思い通り、私はより恐怖し、目を瞑ってしまった。すぐに触れてくるか、もっと恐怖を煽るような言葉をぶつけてくるかと思った。だがそうはならず、男は動揺したような声を上げた。私が目を開けると、所々を紅く染めた灰色のローブを纏う男性の後ろ姿があった。
「な!?アイツ何時から、どこから入って来た!」
「外の見張りは何をやってる!」
先程まで楽しそうに笑っていた男達は慌てふためき、臨戦状態をしている人は五人もいなかった。
「……」
私は、檻越しで目の前に立つローブの男の後ろ姿を見つめる。……彼は、味方なのだろうか?鎧や
「ッ!!」
私は叫んでしまわないように、必死に口を閉じた。見たくないのに、目が離せない。切断部からは今もなを血が流れている。三人の男の顔は斬られた事に気づいていないのか、痛みに悶えているのか、恐怖に狂っているのか、大きく目と口を見開き、少し震えているようにも見えた。見続ける程、私の視界はぼやけ、頭が重くなり、思考する事が難しくなってきた。
「きゃあぁぁ!!」
その時、私のすぐ近くから、叫び声が聞こえ、落ちかかっていた意識が再浮上した。声のした方向を見ると、私と一緒に魔法の訓練をしていた若いシスターが、気が狂ったように鎖で繋がれた腕を首元に持っていき、血が出る程掻きむしっている。首が繋がっている感触と、生きている実感を欲しているのだろう。他に捕まった人を見ても、気絶している者、失禁してしまっている者、声にならない声を上げ続けている者。精神を保てているのは、壮年のシスターや、状況が理解出来ないほどに小さい子共だけであった。私はそんな人達の姿を見て、気持ちを強引に落ち着かせた。胃から上ってきていたものを飲み込んで目の前を見ると、奴隷商人の男達は全員崩れ落ち、血溜まりの中に倒れていた。彼はそんな男達を眺めた後、ゆっくりと、こちらを向いた。戦闘の影響か、フードは被っていなかった。知り合いが恐怖に苦しんでいるのに、目の前で沢山の人が殺されているのに、
「あーっと……無事か?」
彼は不愛想ながらもそう聞きながら、私が繋がれていた鎖を斬る。私がそれを受けて立ち上がろうとするが、足に力がうまく入らなく、よろけてしまう。
「大丈夫か?」
彼はよろけた私の体を掴み転倒する事を防いでくれた。
「あ、ありがとう、ございます……」
私は体中が熱くなっていくのを感じた。特に彼が触れている個所は感覚も敏感になっている気がする。きっと頬は赤く染まっていただろう。本当に私は不謹慎だ。この感情に憶えは無いが、見聞きしたことはある。それは『恋』と言う感情に似ていた。
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