人斬りの騎士と公爵の姫(仮)
波麒 聖(なみき しょう)
第1話 人斬り
「お、おまっ、お前は!なんなんだ!」
薄暗い夜、明かりも付いていない部屋で、豪勢な服を着た男は叫ぶ。声は震えており、体は精巧な石像の後ろに隠しながらも、声のボリュームだけは大きかった。きっと男は、自身の声で家にいる騎士らを呼ぼうとしているのだろう。男の声は確かに家中に響き渡った。だが、だれが応答することも、それどころか物音一つならなかった。恐怖によって異様に五感が冴えてしまった男にはそれがわかってしまった。自身の家に
「わた、私は完璧だったはずだ、な、なぜ!?」
伯爵様に見限られた訳ではないだろう。なんせ目の前には、伯爵様が与えてくださった強力な力を持つ魔法騎士は、ついさっきまで男を守ろうと尽力していたのだから。もし
「お前は、依頼を受けて雇われた暗殺者だろう!教会から誘拐した女はここにはいない!土地の外れにある奴隷商に預けてある!そ、その女を解放しよう!預けた私が行かなければ奴隷商も女を渡さないはずだ!私を殺すのは得策ではないと思うが!?どうだろう!私を殺さなければ、スムーズに危険を冒さずに女を救出できるぞ!……そ、その後も私を殺さないと約束してくれるなら、お前が貰う依頼料、その倍の金をやろう!私は王都の伯爵様との繋がりがある、悪くないであろう!?」
男は必死に叫んだ。これで少しでも殺すことが保留に出来れば、他にいくらでもやりようがある。そう思い男は、こちらに歩を進める男に良い条件を叫ぶ。騎士らと違って暗殺者など、雇われだろうがお抱えだろうが、十分な金をくれてやれば満足するだろう。
「……うるさい」
男の考えは、暗殺者の一閃で水泡に帰した。
「かひゅっ」
男は声とならない声を上げて倒れた。隠れていた石像ごと、首を斬られたことによって。熱い、熱い、熱い熱い熱い。男は首が熱くて仕方がなかった。だが口は動かなかった、力を込めても声は出なかった。首を掻きむしりたくなったが、それは叶わなかった。いつものように腕を動かして、首に触れたつもりであったが、腕は動かなかった。頭が狂いそうになりながらも周囲を見渡した。気が動転して、記憶は朧気だが、目の前には自身を殺そうとしている暗殺者がいるはずだからだ。目を動かすと、暗殺者がいた。だが男はその他にも見てしまった。自身の首が無い胴体部分を。そこで頭がショートし、男は死に絶えた。そんな男の首を手に取り、暗殺者の男は次なる目的地へと動き出した。
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