第2話 九重然人は影と対峙する
1 ダイジョウブ、怖くないもん
「
おれ達は、トンネルの前に立っていた。
不安の色を隠せない少女の声がそこら中に反響して、何度も鼓膜を震わせる。
しばらくして声が消えるとどこからか、金属をゴムで引っかいたような重苦しい音が聞こえてきた。
正直に言おう。ビビってんべ。昼と夜でこうまでも違うんか。
「怖かったら、来なくてもいいんだかんな」
「イヤだ。ノンねえにお話するんだもん。約束したもん」
その少女――
普段強がってはいるが、やはりこの光景を目の前にすると身がすくんでしまうんだろう。子どもは体温が高いと聞いたことがあるが、麗の手は緊張からか冷え込んでいる。幽霊の手でも握ってるみたいだ。
触らぬ神に祟りなし。参らぬ仏に罰は当たらぬ。君子危うきに近寄らず。そして、藪をつつかねば蛇は出ぬ!
体がふわふわとした感覚になって、次々と言葉が出てくる。
何かゾーン的なものに入っているんか? どうせなら、中間テストのとき、この状態になってくれりゃよかったのに!
まぁ、しかし、浮つく心を落ち着かせて考えれば、茶介が言っていたように、何もせずに帰るというのが正しいんだろう。おれ一人ならともかく、麗を連れていることを考えればなおさらだ。
おれは自分の心にもう一度問いかける。
何か理由を付けてこのまま帰るべきか、否か!
遠回りにはなるが、自転車ならそこまで時間がかかるわけじゃない。
それに万が一、万が一だべ? ながめの話が本当だったとして、麗を危ない目に合わせるのはまずいことなんじゃないか?
一度冷静になって考えようとすると、心の底からぐらぐらとある思いが浮き上がってきた。
おれの心は「潜っていきたい」と言っているのだ。いくら
そうだろ。この話を聞いたときから、おれはどこかワクワクしていたじゃないか。
唯一引っかかっているのは、麗を連れて行くかどうかだけだ。下手なことに出くわしたら、彼女にとってはトラウマもんだべ、間違いなく。
「麗、まだ引き返せるべ。やめておくんなら、おれが家まで送ってやるし……」
俺の手を握る力が、ぎゅっと強くなる。
「……ダイジョウブ。わたし、強いもん。……怖くないもん」
「怖いことから逃げられるのも、立派な大人のあかしだべ?」
「わたし……まだ、子どもだから」
麗は涙をこらえてこちらを見た。
その瞬間、おれの心の奥底にあった……うん。今ならハッキリと言おう。「恐怖」の気持ちは、どこかへ消えて失せてしまった。
なるほど、麗はいい面をしている。
内心、心の奥底では怖いという気持ちがあるだろう。だが、それを抑えきれないほどに好奇心が膨らんで、いてもたってもいられない……そんなぐちゃぐちゃとした表情。
「よし、わかった。泣くなよお? お化けって奴は、泣いてるやつのところに集まってくるんだべ」
「うん。約束する」
おれと麗はぎゅっとお互いの手を握って、同時に一歩踏み出した。
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