第10話 ブカツという選択

 華の高校生活とはよく言ったものだ。何かにつけて人はそれを素晴らしいものと持ち上げる。実際の生活を送るものにとっては誇張した表現だとか隣の芝生だとかもっと砕けた言い方ではエアプだとか感じられるものだ。


 学生時代のことを一括りに青春だというのが間違いだと言い切るわけではないのだが、青春時代が一様に素晴らしいものではなくそれぞれにはそれぞれの悩みや苦悩があるということを忘れてはならない。


 同様に大学生活を人生の夏休みと形容するのは、いかがなものなのだろうか。大学によって、あるいは学科によっては必要な学習の量や、課題の締め切りに悩まされるのではないだろうか。まあ、今現在高校生の俺にとっては考えても無駄なことなのだが。


 なぜこのような答えのない問答を考えるに至ったかというと、高校入学して二日目、早くも思い悩んでいることがあるのだ。


 それは部活。


 俺は知っていた。アニメや漫画に出てくるような強大な権力を持つ生徒会が存在しないことや、一癖も二癖もある美少女ばかりが所属する小規模な謎の部活がありえないことを。


 それゆえに、新たな出会いを求めるならば二択が迫られる。一、部活に所属する。この場合は同じ部活に所属する異性とキャッキャウフフできる可能性があるがその一方で、先輩や同級生などの同性の存在を忘れてはいけない。つまり、まわりとの競争に打ち勝たねばならないのだ。


 そこで選択肢その二、帰宅部。部活に所属しないことで組織内の出会いではなく自助努力の末に新たな出会いを見つけるというもの。バイト先やインターネット、偶然出会った人でもよい。ただ問題点は、自分が他人から見た際に友人になりたいほど魅力的な存在かということ。何かイベントが無ければそうそう出会いは無い。


 以上のことから部活に所属するかどうか悩んでいるのだ。いや、実際にはもう少し考える理由がある。大学進学を目指すならば内申点や面接でのエピソードのために部活に所属しておいた方が有利であるということだ。


 つまり総合的に判断して、部活には所属するができるだけ忙しくない、ゆるく楽しく過ごせるところに入部したい。そんな都内駅近家賃五万みたいな部活などあるわけがない。そんなのあったら学年の半分が入部しそうだ。ところで彼らは何部に入るか決まっているだろうか。


「アイウチは何部に入るか決めたのか?」

「僕は野球部だよ。ヤマダ君野球やらないの?」


「リンドウは部活もう決めたのか?」

「もしかしてあたしと同じ部活に入ろうとしてる!?モテる女はつらいわー」


「モリシタは何部に入るんだ?」

「まだ決めてないかな。お前はもう決めたのか?」


「おい、ヤマダ」


 聞き込みも一通り終わり、大した収穫も得られずに自分の席に戻るところで、廊下から教室へと入ってきたワタベさんに呼びかけられた。彼女は俺の隣の席に着くとこちらへと体を向ける。


「ワタベさん。ちょうど聞きたいことがあったんだよ」

「そんなことよりヤマダ散歩好きか?」


 そんな話をしただろうかと、少し頭をひねって考えると昨日の自己紹介を思い出した。趣味は散歩といった気がする。実際は趣味ってほどでもないしできれば屋内で過ごしたい。


「そんなに好きでもないかな」

「よし、じゃあ散歩部に入ろう」


 この人、俺の話聞いてないです。

 


 

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