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     5.


 星が瞬く。十一月の空の下。夜更けの空気はもう、こんなにも冷たい。

「そろそろ家に着く。起きたまえ、姫君……」

「やだー。もうちょっとだけ!」

「小夜、さてはずっと起きてたな?」

「えへへへへ」

最後にギュッとしがみ付いてから、その手は緩んだ。

「八代さん、ごめんなさい。何だか懐かしくて、降りたくなかったの」

無邪気な笑みは、昔とそう変わらない。「全く…」と呟いて、軽く身体を伸ばした。

「重かった?」

「──とても、」

「もう、八代さん。酷い!」

「はははは」






「おかえり、二人共」

 神社の片隅に佇む住まい。玄関先の戸が開いていて、明らかに柔和そうな面持ちをした一人の男がそこへ立っていた。

「お父さん!」

「おかえり、小夜。おかえり、八代くん」

「八代さんにお蕎麦、奢って貰っちゃった!」

「そうか。良かったじゃないか。八代くん、小夜がご馳走さま。──外は寒かっただろう、早く家へお入り」






「あの、大和(やまと)さん。その後、師匠からの便りは…」

「うん。未だ、ぱったりさ」

「そうですか」

「なに。その内また、ふらりと戻るよ。あの人は」

 そう言って、彼は八代に笑んでみせた。



『…八代。疲れたか?』

『少し…』

『今宵は冷えるな。温かい蕎麦でも食べに行くか──』



「…大和さん」

「ん? 何だい?」

「近い内にでも俺、先生の事、探しに出てみようかと……」

 大和は暫し黙った後で、ゆっくりと首を横へと振った。

「俺に、俺達に。何かできる事は…」

「待つしかないよ。今は」

「………。はい…」






 ~優しくあれ。強くいよ。他人を思い遣り、自身に厳しくあれ。悲しみに捕らわれるな。怒りに身を任せるな。日々、笑みを絶やす事なく。愛すべきものを探し、愛すべきもの達を懸命に愛せ───……~


「母さん……」








 

『万鬼夜行帖、弐の巻』へと続く

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万鬼夜行帖 壱の巻 くろぽん @kurogoromo

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