3頁

 

     3.


 境内の中へ位置する離れの一つ。弱い月明かりに反射して水面(みなも)がキラキラと煌(きら)めく。水の微かに流れる音を聞きながら、小夜達は門を潜(くぐ)った。

「──おや。今、お帰りですか。お疲れ様です」

 若い男とその場に居た数名が頭(こうべ)を垂れる。直ぐ様、書付を取り出した男は八代の目前へそれを広げてから、チラリと小夜の方を向いた。

「随分とお疲れのご様子で。──睦月(むつき)、お茶でも淹れて差し上げなさい」

奥の小柄な女に言いつけて男は二人へと向き直った。

「あの、私にはお構いなく…」

八代の後ろから苦笑混じりに手を振り遠慮してみせる小夜へ視線を向け、男は笑う。

「夜はまた、特に“蟲”が多い。ご苦労致しますね、小夜殿」

「え、ええ。まぁ……」

 男は小夜へと向き、スッと目を細め真っ直ぐに見据えた。

「…あ、あの。もしかして、まだ何か“ついて”たりします? 今日はもう、本当に散々で──…」

「なに、大丈夫。“先生”とご一緒だったのでしょう?」

小夜は僅かに間を置いてから、コクリと一つ頷いた。そこへ、八代が筆を置いたのが目に入った。書付を男へと差し出しながら、先程の札(ふだ)の束達を懐から取り出す。

「壱ノ丞(いちのじょう)、札を引き換えたい」

「畏まりました。──これで足りますか?」

「ああ。ありがとう」

「こちらこそ」

 妖(あやかし)を封じた札により白紙の札数枚との取り引きがなされる。上質な紙であればある程、交換できる枚数は限られてくる。

「小夜さま。八代さまも。暫し休まれては如何かと───」

 湯呑みを二つ運んできた女がニッコリと二人へと笑んだ。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る