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「──これは、これは。お早いお帰りで…」

 石段を上ると、鳥居の上の方から少し掠れた声色の一人の男に声を掛けられた。

「いやはや。随分と賑やかな声がしてたもんだから。今夜こそは、もしかして……なんてね?」

「そりゃあ、期待が外れたな。こちらは、いつも通りさ」

「そりゃ、残念──」

 トッ、と。小夜らの直ぐ目の前に降り立った男は、胡散臭い笑みを浮かべながら小夜へと向いた。

「…な、何ですか?」

細めていた赤い目をうっすら男は開くと、小夜の肩へと手を伸ばした。

「んー? なに。大した事はない、──蚇蠖(おぎむし)さ」

「ぎゃー!!?」

卒倒し掛けた小夜の肩を八代が支えて、軽く溜め息を吐く。

「慣れないねぇ? 都の町の娘っ子でもあるまいに…。蚇蠖なんざ、かわいいもんだろう。違うかい?」

「かわいく、ない…!! ムニムニしてて、気持ち悪い……」

「……。まあ、お前さんも嫌われたもんだな」

「いやー! こっちに投げないで!!」




「…鵺(ぬえ)。今日は、やけに絡んでくるじゃないか」

「そうかい?」

「言え。要件は何だ」

 鵺は懐手にしていた片手を顎(あご)へと当てた。

「ふむ。それなんだがな? 煙管(きせる)の葉を切らしてな。どうも、落ち着かない──…」

八代は今度は深く溜め息を吐くと、袖口を漁った。

「…それで、追い剥ぎ目的にこんな所で待ち伏せてたって訳か」

「いや~。悪いねぇ、いつも」

「全くだ」

鵺は八代から刻み葉を受け取ると「いつもの礼だ」と小さな包みを小夜へと投げて寄越した。

「また、頼むよ──」

ポツリと最後に残し、男は音もなく姿を晦(くら)ませた。




「自分で買いに行けばいいのに!」

「まあまあ、小夜…」

 小夜は、ふくれっ面で八代を見上げた。

「奴の寄越す“墨”も俺達には必要不可欠な品だ。持ちつ持たれつさ」

「八代さん…」

「ん? どうした??」

「……。何でもない」

「小夜?」

 鵺が姿を消した暗がりを小夜はジッと見据えた。



 

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