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2.
「──これは、これは。お早いお帰りで…」
石段を上ると、鳥居の上の方から少し掠れた声色の一人の男に声を掛けられた。
「いやはや。随分と賑やかな声がしてたもんだから。今夜こそは、もしかして……なんてね?」
「そりゃあ、期待が外れたな。こちらは、いつも通りさ」
「そりゃ、残念──」
トッ、と。小夜らの直ぐ目の前に降り立った男は、胡散臭い笑みを浮かべながら小夜へと向いた。
「…な、何ですか?」
細めていた赤い目をうっすら男は開くと、小夜の肩へと手を伸ばした。
「んー? なに。大した事はない、──蚇蠖(おぎむし)さ」
「ぎゃー!!?」
卒倒し掛けた小夜の肩を八代が支えて、軽く溜め息を吐く。
「慣れないねぇ? 都の町の娘っ子でもあるまいに…。蚇蠖なんざ、かわいいもんだろう。違うかい?」
「かわいく、ない…!! ムニムニしてて、気持ち悪い……」
「……。まあ、お前さんも嫌われたもんだな」
「いやー! こっちに投げないで!!」
「…鵺(ぬえ)。今日は、やけに絡んでくるじゃないか」
「そうかい?」
「言え。要件は何だ」
鵺は懐手にしていた片手を顎(あご)へと当てた。
「ふむ。それなんだがな? 煙管(きせる)の葉を切らしてな。どうも、落ち着かない──…」
八代は今度は深く溜め息を吐くと、袖口を漁った。
「…それで、追い剥ぎ目的にこんな所で待ち伏せてたって訳か」
「いや~。悪いねぇ、いつも」
「全くだ」
鵺は八代から刻み葉を受け取ると「いつもの礼だ」と小さな包みを小夜へと投げて寄越した。
「また、頼むよ──」
ポツリと最後に残し、男は音もなく姿を晦(くら)ませた。
「自分で買いに行けばいいのに!」
「まあまあ、小夜…」
小夜は、ふくれっ面で八代を見上げた。
「奴の寄越す“墨”も俺達には必要不可欠な品だ。持ちつ持たれつさ」
「八代さん…」
「ん? どうした??」
「……。何でもない」
「小夜?」
鵺が姿を消した暗がりを小夜はジッと見据えた。
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