第7話 イラストレーター3
打ち合わせの次の日のこと。
配信を終えて康介と千鶴の三人でミーティングをしていたところ一通のメールが届いた。曰く、昨日と同じ喫茶店で明日改めて打ち合わせがしたいとのことだった。
しかし、その日は千鶴は学校なので行けるのは俺だけだ。
(絶対嫌な顔されるな)
事前に心の準備をして打ち合わせに望むことで少しでもダメージを軽減できるようにしようと誓った。
〇〇〇
先日と同じ喫茶店で〈にゃん太〉先生を待つこと数十分。
俺の目の前にはイヤーな顔をした〈にゃん太〉先生がいた。
以前は少し大きめのカーディガンで長めのスカートを履いてお出かけファッションであったが、本日は上下ジャージ姿で長い髪は所々はねてしまっている。目が少し充血しているところをみると徹夜明けだろうか。
「……なんでお兄さんだけなんですか?」
ボソッとつぶやくように不満を漏らした。
「なんかすいません。千鶴は今日学校なので代わりに俺が来ちゃいました」
「……そうなんですね。それならまた別の日にしますか?」
「いえいえ、こちらで意見はまとめてきているのでこのまま進めてください」
どんだけ俺と喋りたくないんだと思ってしまった。
「……分かりました」
するとタブレットを起動して以前見せてもらったイラストのラフを表示させる。
ミニスカビキニサンタさんだ。
「一応コレが初校になります。何か指摘があればお願いします」
そういって画像をスライドさせてカラーが入ったイラストと三面図を表示させ、タブレットを手渡してくる。
イラストはさすが〈にゃん太〉先生といったところで良い仕上がりだ。ラフでは分かりにくかったスカート周りのデザインもかなり複雑なレースが入っていることがわかる。はにかむように笑う〈子月なな〉がとても可愛い。
追加衣装でケープを着たバージョンもあり使い勝手がよさそうだ。
新衣装の依頼はこれまでに何度か発注しているので要領を得ているようでパッと見た感じ指摘することはなさそうだ。
「良いですね。とても可愛いです! これでいきましょう!」
「……あなたが決めてしまっても大丈夫なんですか? 一応ななさんにも確認してもらってもいいですか」
確かに〈にゃん太〉先生からすると千鶴の兄でしかない俺が何を言ってるんだという話だろう。
「あー、分かりました。それなら千鶴の方へデータを送っておいてもらえますか?」
「分かりました。確認したらまた教えてください」
「了解です」
その後細かい修正を指摘して無事打ち合わせを終えられた。
「以上で終了です。成果物は ”なな” の確認を取って改めて返事をさせてもらいます。ありがとうございました」
ふう、と息をはきながら〈にゃん太〉先生はタブレットをしまう。
「……分かりました。ありがとうございます」
「しかし、思っていたより完成するのが早かったんでびっくりしちゃいました」
打ち合わせをしてからわずか2日で仕事を終わらせてしまった事実にびっくりだ。
「一昨日からほとんど寝ずに仕上げましたので……私は平日の昼間に打ち合わせに現れたお兄さんにびっくりしましたけど」
寝ずに作業してくれていたことに感謝しつつも最後に付け足された俺への評価で凹んでしまう。
「あー、俺は一応仕事をやめて〈子月なな〉のアシスタントをやってるんですよ」
「妹の収入を当てにしてるなんて酷いお兄さんですね」
〈にゃん太〉先生の中でどんどん俺の評価が更新されていく。下に下に……
「そういうわけではないんですけどねー」
「……まぁいいです。何か進展があれば連絡してください。それでは」
「あっ! あの! 一つ聞きたいことがあったんですけど良いですか?」
「? なんですか?」
どうやら聞いてもらえそうだ。そこで俺は〈にゃん太〉先生に会った時にどうしても聞きたかったことを聞く。
「なんで〈子月なな〉のデザインの仕事を受けてくれたんですか?」
「? なんでそんなことを聞くんですか?」
「何の実績もない俺たちの依頼を人気絵師の〈にゃん太〉先生がなんで受けてくれたのかがずっと気になってたんです」
いろいろな絵師に仕事の依頼を出していたがほとんどが断られてしまった。そんな中ただ一人〈にゃん太〉先生だけが仕事を受けてくれたのだ。まさしく〈子月なな〉の生みの親であり、俺にとって、〈子月なな〉にとっての恩人だ。
「……ななさんは私にとって憧れなんです」
「憧れ?」
「……これ以上は他の人には話したくないので、……もう帰りますね」
そういうと〈にゃん太〉先生は喫茶店を後にしていった。
そして大事なことをもう一つ聞くのを忘れていた。
(また本名聞くの忘れてた)
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