第8話 モデラー
【康介視点】
安藤康介はイケメンである。
明るめに染められた髪は目に少しかかるくらいの長さで切りそろえられ耳には控えめなシルバーのピアスが光る。ぱっちり開いた目はもちろん二重だ。繁華街でみかけたら間違いなくホストと間違えられるだろう。
和樹とは幼馴染だが学生の頃は外見の格差から仲良くするグループが違ったためそこまでからみはなかった。
和樹が〈にゃん太〉先生と打ち合わせを終えた少し後、新しく描かれた〈子月なな〉の新衣装デザインが送られてきていた。
「思っていたより早かったなぁ」
送られてきたデザインを確認する。ラフで見た際に見積もった作業量と差異がないことを確認しスケジュールを設定する。
「よし、これなら何とかなりそうだ」
本業との兼ね合いもあるため予定どうり進むかわからないがそこは睡眠時間を削ってでもやり抜くつもりだ。
「それにしてもめっちゃ可愛いな~」
見た目完全にイケメンホストな康介がビキニ姿の萌えイラストを見てニヤつく姿は彼を知らない人には想像できないだろう。
事実今の仕事の面接に行った際も周りには黒髪でおとなしい見た目の人たちの中で一人だけ完全に浮いていた。周りからはオタク趣味を持っているとはまったく想像がつかない見た目だ。それもかなりディープな趣味だったりする。
今の仕事を選んだのも自分の推しキャラを好きに動かす技術が欲しかったからだ。
器用な手先で瞬く間に仕事を覚えてしまい今では会社で周りから頼りにされている傍ら自分の目標であった推しキャラを動かすために和樹とともにVtuberを始めた次第だった。
和樹は知らないが〈子月なな〉は康介にとって好みドストライクの女の子だ。曰く「3次元には未来はない、2次元こそ至高」とのことだ。バ美肉の秘密を守ることは自分の推しを守ることと同義だ。
「それにしてもこのデザインは上がる」
さっそく届いたビキニ姿の ”なな” を見てニヤつく。
和樹に送る配信用の3Dデータとは別にさらに過激なデータも趣味で作っていることは誰も知らない。
知らない間に和樹の周りは本人も含めて極めて危うい人間が集まってきていた。
〇〇〇
康介へとデータを送り後は待つだけとなった。康介は間に合うと言っていたが少し心配だ、なぜなら配信まで残り1カ月を切っている。事務所所属のVtuberでは絶対にありえないギリギリ進捗だ。
「まぁ、アイツなら何とかするか」
そこしチャラい見た目の幼馴染のことを思い出しつつ、新衣装のシルエット告知を作る
新衣装発表の前にはシルエットをTwitterに乗せて告知を行いファンに予想してもらう。
貰った正面絵を黒塗りでシルエットを作成しTwitterへ投下した。
瞬く間にイイねがついて行く様は見ていて後戻りできなくなったことを意味する。
「これで後は問題なく3Dが完成するのを待つばかりか」
すると千鶴からラインだ届いた。
〈千鶴〉
『〈にゃん太〉先生から新しいデザイン届いたよ』
〈にゃん太〉先生が千鶴に新衣装の確認をすると言っていた件だ。
『おう、どうだった?』
『完璧! マジ神』
『そうか、それじゃあ〈にゃん太〉先生にGOの連絡しといてくれ』
『? なんで私?』
『お前のことを ”なな” だと勘違いしてるからな。俺がOK出しても駄目だった』
『なるほどね、了解』
一応千鶴も勘違いされてることは気づいている為協力してくれるようだ。
『いつまで隠すつもりなの?』
確かにいつまでも隠し通せることではない。これまでのようにメールだけのやり取りであれば問題なく隠せたかもしれないが、実際に会っての打ち合わせとなるとそうはいかない。俺か千鶴かどちらかからボロが出ることは容易に想像ができた。
『とりあえず新衣装発表までは隠し通したいな』
『ふーん、了解。気を付けてね』
『お前もな』
いつまでもごまかし続けられるとは思っていないが、千鶴の時のように予期せずバレてしまうよりもこちらから正直に告白したほうがダメージが少ないはずだ。
「そのうち腹をくくらないとな」
いつか来る未来のことを考えると気が重くなる思いだった。
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