第5.5話 スパチャ

【千鶴視点】

 モニターでは〈子月なな〉のライブ配信が流れている。

 『神エイムでしょー。はいてんさーい』

 とても可愛い声で配信をしているが実は中身は男でしかも実の兄だ。

 その配信を見ながら慣れた手つきでコメントと金額をを入力する。諸々の説明を読むこともなくボタンを押しスパチャを送る。

 「へへ~」

 だらしなくにやけた顔は画面に釘付けだ。

 「てか ”なな” の中身が兄貴だって今でも信じられないわー」

 つい昨日発覚したVtuber〈子月なな〉の中の人、バ美肉してた兄貴。本来だったらファンだった事実すらなかったことにして「兄貴キモ!」と罵倒してしかるべし案件だ。

 しかし、千鶴にとっては〈子月なな〉の正体がバ美肉してたとか実の兄だったとかは関係なほど〈子月なな〉に執着していた。

 今でこそ息をするがのごとくスパチャを送っているが1年前では考えられないことだった。

 当時の千鶴はなんとなく周りに流されるがままに生きていた。それは大学生になっても特に変わることなくみんなが可愛いと言ってるアクセを付けたり雑誌でおしゃれだと話題のスイーツを食べたりの毎日だった。

 それでもそれなりに楽しかったのだが何か違うという感情がお腹の奥でぐずぐずとたまっていた。そんな時に出会ったのが〈子月なな〉だった。

 最初はオタクっぽいなと流し見をしていたがだんだんと興味を惹かれていった。気が付いたら推しになってしまっていた。そしてそのことが妙にしっくりとハマった感じがしたのだ。

 それからの毎日は今までのマンネリとした日々が変わり始めた。常に配信予定をチェックするしツイートの確認も忘れない。急に世界に色が付いた感じがした。

 

 「兄貴なんで読まないし! ムカつく!」

 ラインでスパチャを読めと指示をしたのだが既読スルーされた。

 「ファンは大切にしろー!」

 完全に厄介なオタクである。

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