第5話 バトロワ
『こんなな~! 子月ななでーす!』
[コメント]
:こんなな
:こんななー
:きたー
:
:
『今日はバトロワやっていくよー! 開始ツイートしたからリツイートお願いしまーす! んじゃさっそくいってみよう!』
今日の配信は有名FPSバトルロイヤルの配信だ。
何をするか困ったときにはFPSをするに限る。リスナーの多くは20代前後の男性だ。Vtuberを見ている人の多くは自分でFPSをプレイした経験があるのではないだろうか、コメントも指示やら感想だったりいつもより多い気がする。
ゲームを起動して配信画面に乗せる。
『よーしっ! 今日はランクじゃなくてカジュアルでやろうと思うので参加できそうな人はジャンジャンやってみてねー。さっそく行きまーす』
すぐにマッチングしゲームがスタートする。
『味方になった人よろしくー』
味方が決定しマップが表示され次々とプレイヤーがステージに降りていく
俺たちもマップの真ん中当たりの小さな建物がいくつかある辺りに降り立った。
『武器武器ー。んー良いのないなぁ』
マップ内に落ちている武器や防具を装備して戦うため多少運も必要になってくるのがこのゲームの特徴だ。
今回拾えたのは威力の低めのサブマシンガンだ。
『アサルトライフルが欲しー! あっ、いいなー! 味方持ってんじゃん』
キャラクターを操作し味方の近くでジャンプしてみる。
[コメント]
:ARいいよね
:ジャンプやめろ
:武器ガチャ負けたか
:それでも十分勝てるよ
:
:
発言や行動に対して色々なコメントが流れる。これをチラ見しながら適当にコメントを拾っていく。
『「ジャンプやめろ」はい、すいません』
突っ込みコメを拾い周りの索敵とアイテムを漁っていく。
今回使っているキャラクターは周囲をスキャンして敵がいるかを感知するキャラクターだ。
『OK! 敵なし。行くぞみんなー』
周囲に敵がいないのを確認して次のエリアへと行く指示を出す。
『敵をぶっ殺したいんじゃー』
[コメント]
:草
:ぶっ殺すwww
:やれるんか?
:草
:wwww
:
:
俺の発言でコメントが盛り上がり始める。
(うーん、癖になりそう)
〇〇〇
試合も中盤に差し掛かりプレイヤーも半分に減った。
『全然敵と出会わないんだが! カジュアルだよねwww』
全然敵と出会うことなくゲームは進行していた。
『おっ! 金アーマーはっけーん!』
強めのアーマーを発見して取りに行くと足の速い味方が横からかっさらっていった。
『おい! ざけんじゃねーよ!』
バン!
机を叩いていらだちを表に出してしまう。
『……あっ、清楚清楚。 いけないんだ~私が先に見つけたのに~』
[コメント]
:いまさらwww
:清楚とは?
:取られてやんのwww
:草
:
:
昨日千鶴に偉そうにキャラがどうのと説明していたが割と素でプレイしてるだけだったりする。
『「いまさら」とか言うなー。これでも清楚キャラなんですー』
とか脳死で喋りながらゲームをと続ける。
『お? 敵いたねー。しばきに行くか! レッツゴー』
敵に向けて一気に詰め寄っていく。
仲間もそれに追従し、こちらに気づいていない敵を全滅させた。
『しゃー! どうじゃコラー』
[コメント]
:ナイスー
:良いエイム
:漁夫来るでー
:
:
『神エイムでしょー。はいてんさーい』
自画自賛しつつ死体からアイテムを漁っていく。
すると回復も半ばにしていきなり他のパティーから奇襲を受けてしまった。
『だるい! だるい! マジだるい!』
そのまま我がパティーはなすすべなく全滅されてしまった。見事なまでの漁夫である。
[コメント]
:見事な漁夫で草www
:草
:草
:先に回復だってー
:ドンマイwww
:
:
『マジかー、ホント回復からだよね。いつも忘れちゃう』
配信とはいえガチでプレイしてる為割とマジで凹んでしまう。
コメントは相変わらず先ほどのプレイについての意見が流れていた。
[コメント]
:スキャンすぐしてー
:体力管理しっかり
:紙エイムwww
〈つるたん〉¥500:惜しかったよ! 次はイケる!
:
:
(おい、見つけちゃったよ)
まさかの千鶴からのスパチャが送られてきた。しかも割としょうもないコメントだ。
今までであれば気にならなかったが急に目につくようになった。
すると机の上のスマホがラインの通知を知らせた。
〈千鶴〉
『名前呼んでー』
(こいつマジか⁉ 中身実の兄貴だぞ)
完全に正気じゃない。ということでこれを華麗にスルー。
『よっし! それじゃ次行ってみよー』
〇〇〇
そんなこんなでスパチャ読み込みでおよそ3時間の配信が終了した。
いつものように慎重に配信を終了しPCの電源を落としたところでスマホが着信を知らせた。
『ちょい兄貴! なんで私の名前呼んでくれないの!』
千鶴からの苦情だった。
ゲーム中は当然スルーをしていたしスパチャ読みでも名前を読むだけで中身は呼んでいなかった。
「当たり前だろ、てかお前もスパチャしてくんなよ。中身俺なの分かってんだろ」
『カンケーないし! 中身とか気にしてないの! 〈子月なな〉は兄貴じゃないの!』
(限界化したオタクは相手にしてらんねーな)
「はいはい、例えそうだとしてもお前ももう運営側の人間なんだから自重しろ」
すると電話の向こうから「うー」とうなる声が聞こえ「分かった」と渋々の返事をしてきた。
『そういえば〈にゃん太〉先生から返信があったよ』
「昨日の今日でか。早いな、なんて?」
『一応私がマネージャーになったことのあいさつがしたいって言ったら来週末に合うことになった』
「マジか! あの〈にゃん太〉先生が会ってくれるのか!」
〈にゃん太〉先生は俺が最初に仕事を依頼した時も、その後人気が出てきてからも一度として会ってくれていない。それどころか電話すらしたことない。連絡はすべてメールかラインだけだ。
『? 何驚いてんの? 一応兄貴も同席してもらうから』
「えっ! 会えんの〈にゃん太〉先生に?」
『当然じゃん、相手おっさんでしょ? さすがに私一人で会いたくないもん』
(ナチュラルに酷いこと言ってんな。世のおっさんが泣くぞ)
しかし、さすがJD、コミュ力強者は2年たっても声一つ聞かせてくれなかった相手と即会えるところまで持っていけるようだ。
「まぁ、そういうことなら」
こうして週末の予定が確定した。
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